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竜使いの聖域~少年剣士カミルの探求記~  作者: チャラン
第2章 『広き世界ヴァイテヴェルト』探求の旅(前編)

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第32話 姉御肌

「お父さんお母さんのあんな顔を見たことなんてなかったから……私も反省したわ。無茶をして親を泣かせるなんて、親不孝な娘かもしれない。だけど、カミルとソフィーさんとの旅は続けたい。頭の中がそんな考えで行ったり来たりしてて、お父さんお母さんに何を言えばいいか分からなかったんだけど」


 少し顔を沈ませて経緯を語っていたエミリアは、一旦言葉を切り、カミルの方を向き直すと、


「私が覚えた瞬間転移の魔法、アウトラのことを言えばいいんじゃないかって思い当たったの。アウトラの魔法を使えば、これからは、どんな遠い所からでもシューンにすぐ帰れるから安心してって」


 いつもの彼女らしい微笑みを(たた)えて、そこまでの話を結んだ。


 エミリアの両親、デニスとリーザは、始め、話を聞いても、愛娘がそんな高度な魔法を習得できているとは信じられず、


(この子はなぜこんな嘘を……)


 そうした悲しさすら感じていたのだが、場の微妙な空気を察したソフィーが慌ててフォローに入り、親子の間にあるこじれをすぐ直してくれたそうだ。


 ソフィーは、自分が何者であるかをデニスとリーザにまず話した(のち)


「ラーヴァルトの町からカミルとエミリアと一緒に、瞬間転移でシューンへ来たと言って、親御さんの不信を払ったんだよ。これでようやく、エミリアがアウトラの魔法を使えると信用してくれたね。やれやれだったよ」


 場の空気を読みながらそのようにフォローし、親子の間にあったギクシャク感を取り除いたのだと言う。


 エミリアが突飛な嘘をついているのではないかという疑念は、その時のソフィーの説明で解消されたのだが、だからといって、デニスとリーザが(いだ)いている不安が、完全に無くなったわけではなかった。親心として、一人娘の無茶を止めたいと考えるのは当然のことであり、その心情を察したソフィーは、


「自分をひけらかす気はなかったんだけどね。『魔剣のソフィー』という私の通り名と強さを、親御さんに伝えたんだよ。私がついているから、エミリアは、そうそう危ない目に遭わないよってね。それに旅を続けても、これからはアウトラの魔法で帰って来ることが多くなると、しっかり言っといたよ」


 という姉御肌を見せ、エミリアの身の安全を頼もしく請け負ったそうだ。銀髪の彼女は可憐な笑顔を見せながら、一連の話をそう締めくくっている。


 ソフィーの人柄と頼もしさを信用したデニスとリーザは、


(これほどの人が同行してくれるなら)


 という思いを持って安心したのか、エミリアが旅を続けることを、そこでようやく許可した。ここに至るまでに、そんな長い経緯が、エミリアの実家であったらしい。




 カミルたち3人は道すがら、そうしたドラマチックな帰省話をしていたのだが、話に花を咲かせている内に、いつの間にかエルマー邸の前まで来ていたようで、今、樫の木で作られた玄関扉をノックし、老翁が在宅かどうかを確かめている。


 折しも家の居間にいたエルマーは、ノック音を聞くとゆっくり腰を上げ、玄関まで歩いて行く。ドアノブに手をかけ、中から扉を開けた老翁は、カミルとエミリアの姿を目に映すと、


「おお! よく帰ってきた!」


 そう大きな声を上げ、2人の無事を心から喜んだ。また、エルマーは、カミルとエミリアの後ろにいるソフィーの姿を目に認めて一瞬立ち止まり、その(のち)、銀髪の彼女の顔をしげしげと見つめている。


「なんだい? 爺さん? 私の顔がそんなに珍しいのかい?」

「そりゃ珍しいとも。お前さんは、魔剣のソフィーじゃろう? わしは暇潰しに、総合ギルドの機関紙をよく見るんじゃが、度々(たびたび)紙面に載るお前さんのことは知っておるぞ」


 視線を受けていたソフィーは、どういう意味で見られているのか分からず、怪訝な表情で問いかけたのだが、エルマーの答えを聞いて立ちどころに納得したようだ。彼女は魔物討伐など、難しい仕事をこなしていく内に、美しい実力派魔剣士として頭角を現し、名声が高まった結果、ギルド機関紙記者からの取材を受けて、紙面に特集を組まれたこともある。カミルはソフィーの名声を知らずにラーヴァルトの酒場で口説き落とし、仲間に引き入れたわけだが、彼女は総合ギルド界隈において、かなりの有名人なのだ。


「カミル、エミリア。お前たちは大したもんじゃな。まさか『魔剣のソフィー』を連れて来るとは思わんかったぞ」


 エルマーは、ソフィーをここへ連れて来た2人に余程感心したらしく、目を丸くしながら、手放しでそう褒めている。


(こんな所にまで私の名が通ってるとは……満更でもないもんだね)


 ソフィーは、自身のトレードマークである銀髪ボブカットを風になびかせながら、ちょっと誇らしげに、そんなことを考えていた。




 カミルたち3人が、何を求めてここにやって来たのか、エルマーは重々分かっている。そうではあるものの、今は朝で、今日の時間はたっぷり残ってもいる。


(この子たちは、魔剣のソフィーまで連れて折角帰って来たのだ)


 そう考えたエルマーは、ここまでの旅の労をまずねぎらおうと3人を家に上げ、温かい紅茶と、お茶請けの菓子としてビスケットを振る舞い、ゆっくり(たしな)んで一服するよう促した。

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