第31話 親心
「そうだろうな。言ったら悪いが、おとぎ話の中から出てきたような最終目的だからな。それでだ、カミル。お前はたくましくなり、こうして無事に帰って来た。お前がよく見る悪夢と、『竜の聖域』との関連性が気になったままで、スッキリしていないだろうが、この辺りで旅を終いにしたらどうだ? 俺や母さんから見ると、お前はもう十分よくやったと思えるんだが」
息子を心配する父親の心からヨセフはそう言っているのだが、傍で話を聞いていたハンナも当然同意見で、大きくうなずきながら、
(旅はもう止めにしなさい)
という心情を持って、目でカミルに促している。
カミルは率直な親心を受けて、少しの間、考えていたが、
「そういうつもりで家に帰って来たわけじゃないんだ。まだまだ旅は続けるよ」
そうきっぱり答えると、シューンの村になぜ戻ったのか、その主目的を両親に伝え始めた。
カミルはしっかりした良い青少年で、父ヨセフ、母ハンナの愛情を一身に受け、育てられた。それゆえカミルは、自分を想う両親の心情を重々分かっており、無事な姿を見せて心配を和らげようと、実家に一旦帰って来た。だが、『竜の聖域』を探す長旅を続けていく意欲が全く衰えていない彼にとって、帰省は言わば、ついでの目的だ。カミルは、更なる旅の手がかりを求めるために、シューンの村へ戻って来たのだ。
「エルマー爺さんに、『竜の聖域』のことが書かれた書物を預けていると、前に言ったよね? 俺はその解読を進めてくれたかどうか、確かめに帰って来たんだ。どう旅を進めたらいいか、次の取っ掛かりがなくなっちゃったからね」
ヨセフとハンナは、一人息子の、あくまで旅の目的を進めようとする前向きな言葉を聞き、苦笑しながらやや肩を落としている。つまりカミルは、これから長旅をどう続けていくかの指針となる、新たな情報を手に入れるために帰って来たと両親に話したのだが、息子のことが心配でならないヨセフとハンナは、
(まだ諦めてくれないのか)
(この子は、どうすれば旅を諦めてくれるの?)
そうした思いを抱くより他はなく、ガックリくるのは仕方ない。
自分の正直な言葉により、すっかり元気をなくしてしまった両親の姿を見て、
(期待外れだったんだろうな)
カミルはそう理解したが、かと言って、親の求めに応じて旅を止めるわけにはいかない。そうではあるものの、ヨセフとハンナのガッカリした姿を目に映している内に、いたたまれない感情が生じたカミルは、
「旅はまだまだ続けるんだけど、シューンに帰って来ることは多くなるよ。エミリアが瞬間転移の魔法アウトラを覚えたからね。俺もびっくりしたんだけど、エミリアの魔法適性は凄いんだよ」
両親を少しでも安心させようと、エミリアが習得した転移魔法アウトラのことを、努めて明るく伝えている。
旅を続けていくとしても、この先、実家へ簡単に帰れるという言葉をカミルから聞いたヨセフとハンナは、狐につままれたような、にわかに信じがたいといった表情を浮かべていたが、
「転移魔法……。それはいいわね! そんな凄い魔法をエミリアちゃんは使えるのね!」
「うーん……凄いな。今回はその魔法で帰って来たということか。エミリアちゃんに感謝しないといけないな」
2人は話を理解すると、一人息子の顔を見てそう喜び、落としていた気力をかなり取り戻した。
そうした一連の会話を交わした後、カミルは、香辛料を効かせたステーキなど、ハンナが腕によりをかけて作ったご馳走を食べながら、一晩の和やかな団らんの時間を両親と過ごした。
久しぶりの実家の自室でぐっすり眠り、疲れを取った翌朝。
カミルは、昨日、パーティを解散するときに打ち合わせていた通り、小さな時計塔があるシューンの村の中央広場に向かい、エミリアとソフィーの2人と落ち合っている。3人でエルマーの家に行き、書物『聖域の頂き』の解読がどのくらい進んだかを聞くため、ここに集まっているのだが、エミリアとソフィーの様子をカミルが見るに、
(これは実家で、ちょっと何かあったな)
微妙に考え込んでいる2人の表情から、すぐそう気づいたようだ。エミリアは、いつになく話し辛そうにしているのだが、幼馴染のボーイフレンドとして、実家で何を言われたのか聞いておきたいと考えたカミルは、
「デニスおじさんとリーザおばさんと何かあったのか? エミリア?」
努めて柔らかい口調で、青髪の彼女にそう聞いている。カミルに優しく問いかけられたエミリアは、そこでようやく口を開き、
「うん。こんなことがあったの」
大心配をかけてしまった両親と、昨日どういうやり取りがあったのか、詳しく話し始めた。
ソフィーを連れて自分の実家に戻ったエミリアは、カミルがそうしていたのと同様、多少ためらいながら、家の扉を開け、
「ただいま」
と、帰宅を知らせたのだが、最愛の娘の無事な姿をその目に映したデニスとリーザは、涙を浮かべていたらしい。
デニスとリーザはエミリアに駆け寄ると、彼女を強く抱きしめ、
「もうどこにも行かないでくれ」
「もうどこにも行かないで」
という、親の真心からの言葉を、真剣に耳元で囁いたそうだ。




