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竜使いの聖域~少年剣士カミルの探求記~  作者: チャラン
第2章 『広き世界ヴァイテヴェルト』探求の旅(前編)

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第28話 故郷へ

「アウトラは高度でデリケートな魔法でな。術者の記憶にある場所を深くイメージせぬと、瞬間転移の魔力を十分発現できぬ。つまり、瞬間転移を行うためには、乱れのない精神統一が必要になるんじゃ」


 投げかけられた問いにそこまで答えたハンネスは、一旦言葉を切り、少し間を置いた(のち)


「これで半分くらいお前さんの質問に答えたつもりなんじゃが、後の半分の答えが分かるか? カミル?」


 自分の話を聞いたカミルが、どの程度考えることができているか試すため、逆に質問してみた。


 ハンネスから突然逆質問を振られて、少々面食らっているカミルだったが、顔をうつむかせてしばらく考えた(のち)


「瞬間転移の魔法はデリケートだから、神経痛が辛かった1週間前までのハンネスさんは、十分な精神統一ができず、アウトラを唱えられなかったということでしょうか? 体の調子が悪いと集中力が続かず、転移の魔力を発現できない。俺はそう考えました」


 頭をしっかり回転させて導き出した自分なりの答えを、白ひげの老魔道士に伝えている。


 カミルの丁寧な回答は、ハンネスを深く感心させるほど良くできたもので、


「ふむ、上出来じゃ。術者の体調不良などで精神の揺らぎが大きい場合、転移の魔力の発現は不可能になる。だからわしはお前さんたちに、ムンターの村まで神経痛の薬を買ってきてくれと、お使いを頼んだんじゃよ」


 にこやかな笑顔を浮かべながら、正解を導出した黒髪の彼をそう褒めると、老翁は、続きの解説を付け加えて話を締めくくった。




 ハンネスとソフィーの指導が非常に効果的だったのもあり、カミルとエミリアは1週間で、魔法の修行を無事成し遂げた。ただ、修行により、2人の実力は段違いに向上し、ソフィーを加えたパーティの戦力も、頼もしくなったものの、『竜の聖域』を探すための情報がここで途切れてしまった。


「俺達が強くなるのも大切なんだけど、旅の大目的は、『竜の聖域』に行くことだからな。旅をどう続けていくか、手がかりがなくなっちゃったし、一回シューンの村に戻ってみようか」

「そうしましょ! それがいいわ! 私がアウトラの魔法を使えるようになったんだし、帰らない手はないわ。村を出て日にちが経ってるから、エルマーお爺さんが『聖域の頂き』の解読を、きっと進めてくれてるわよ。今からすぐ戻りましょ」


 情報がなくなった今、これからどうしていくか、その方針を決めるパーティ内の相談の中で、シューンに一旦戻ろうというカミルの提案を聞いたエミリアは、一面に花が咲いたような明るい笑顔を見せている。


 カミルは幼馴染として、エミリアの感情豊かな表情を、毎日ずっと目に映してきたが、今、青髪の彼女が浮かべている笑顔は、心から嬉しいときに見せるとびきりのやつである。カミルもそうだが、エミリアは、この長旅を始めるに当たって、両親に非常な心配をかけ、家を飛び出して来ている。その手前、エミリアは、故郷シューンの村に戻ってみたいと、今までひと言も言わなかったのだが、カミルは幼馴染のガールフレンドの胸中を、何となく察していたようだ。


(やっぱりそうだったのか。シューンに帰ってみようと言ってよかった)


 カミルは、とびきりの笑顔でこちらを見ているエミリアに微笑みで応えながら、口には出さず、そう考えていた。


「仲が良いことだねえ。なんか()けちゃうよ。それじゃ、あんたたちの故郷、シューンの村に早速行ってみようか。どんな所か楽しみだねえ」


 幼馴染として心が通じ合っている恋仲を、ソフィーにいじられたご両人は、赤面するしかなかったが、


「いい農村ですよ。すぐに戻りたいところですが、身支度がまだです。ハンネスさんの家に戻って、まず魔法のポーチに荷物をまとめて……それからにしましょう」


 カミルは銀髪の彼女にそう話し、うまく場を取り繕っている。




 魔法の修行のため1週間逗留させてもらった平屋に戻り、部屋に置いていた荷物を魔法のポーチにまとめたカミルたち一行は、世話になったハンネスに別れの挨拶をした(のち)、瞬間転移魔法アウトラを使ってシューンの村へと戻って行った。


 カミル、エミリア、ソフィーの3人が、シューンの出入り口付近に現れたとき、折しもこの鄙びた農村は、雨天の下で薄く霞がかっていた。


「へぇ~。ここがカミルとエミリアの故郷なんだね。想像以上にいいところだけど、このままだと濡鼠(ぬれねずみ)になっちゃうよ」

「そうですね。瞬間転移した早々、雨に遭うとは思いませんでした。ラーヴァルトが晴れていましたからね。カミル、魔法のポーチにレインコートがあったよね? あれを着た方がいいわ」


 霞棚引くシューンの農村風景はとても懐古的で、深い趣きがあるのだが、ソフィーが雨に打たれながら話している通り、このままでは3人ともずぶ濡れになってしまうだろう。


 天候によりそうした状況だが、幸い、パーティアイテムとして所持している魔法のポーチの中には、道具屋で買ったレインコートが3着入っている。エミリアはそのことを思い出し、多少ボーっとしているカミルに、人数分のレインコートを取り出すよう、障りのない口調で促した。

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