第27話 瞬間転移魔法「アウトラ」
「ふむふむ。カミル、お前はもう掴みかけておるようじゃな。まあそんな感じじゃ。その調子で鍛錬杖の力を借りながら、風の魔法力を引き出す修行を続ければ、ヴィントの魔法を習得できるじゃろう」
魔法力の集中により、僅かながら緑光を滲ませている風の鍛錬杖の様子を見たハンネスは、カミルにそう話しかけると同時に、早くも修行の第1段階の見極めを、彼に与えている。
エミリアの方も、ハンネスに褒められた自分に負けじと、魔法の適性を見せているカミルに倣い、鍛錬杖を両手で握ったまま精神統一を始めた。すると、エミリアの鍛錬杖は、潜在魔法力を引き出す触媒として僅かながら反応し、両手で握られた部分から、微かな白色の光を滲ませている。
「ほう。その鍛錬杖を何の説明もなしに光らせるとは……想像以上じゃ。エミリアに渡した鍛錬杖は、火水土風、4属性の魔法力をバランスよく高めぬと、全く光らぬようになっておる。コツをつかむまでしばらく時間がかかるじゃろうと考えておったのじゃが、お前さんたちは、2人とも大したものじゃな」
「何となく精神を統一して、魔法力を高めてみたのですが、そうなのですか? 高名な魔道士のハンネスさんにそんなに褒めてもらえると、なんだか嬉しいですね。えへへ」
ハンネスは、魔法の稽古を行うにあたって、褒めて伸ばす気は全くなかったのだが、鍛錬杖を握るなり僅かでも光らせた、カミルとエミリアの勘所の良さに、少しばかり瞠目している。
これほどの適性があるならばとハンネスは考え、超特急で稽古を進めて行くことにしたようだ。そうと決めるとハンネスは、カミルとエミリアに、鍛錬杖を魔法力で輝かせる手ほどきを示し、2人がつかみかけているコツを、実力で導き出せる確かなものへと矯正していく。
ソフィーは、ハンネスの手ほどきの仕方を見て、どう教えていけばいいか分かったらしく、カミルとエミリアが持つ鍛錬杖に手を添え、自身の魔法力を少しばかり注入することによって、2人の『魔力の形』が良くなるよう、矯正の手助けをしていった。
カミルたち一行がラーヴァルトに逗留し、魔道士ハンネスから魔法の稽古を受け始めて1週間が経った。
ハンネスとソフィーが先生となり、短期間ながらもみっちりと特訓を施したことで、カミルとエミリアは、自分たちが秘めていた潜在魔法力の導出と、いくつかの新たな魔法習得に成功している。
カミルは、この1週間という短期間で、風の攻撃魔法ヴィントと、魔法の風を剣にまとわせる方法を、ものにしていた。カミルは今、修行の総仕上げに取り掛かっており、
「ハッ!」
「よし、いいぞ」
ハンネスが町外れの広場に立てた案山子を標的にしつつ、ヴィントを撃ち放っている。魔法力によって作り出された風の刃は、味のある形をした的に高速で飛んで行き、案山子をことごとく真っ二つにしていった。傍らでその様子を見ているハンネスは、上々の首尾に満足気である。
また、エミリアの方はというと、鍛錬杖の稽古をクリアした後、ハンネスから精神を研ぎ澄まさせ、より高度な領域まで魔力を高める方法を、この期間で習っていた。その結果、彼女は、瞬間転移の魔法アウトラの他、氷の魔法フリーゼ、岩礫の魔法フェルゼンを習得している。
エミリアは旅立つ前、炎の魔法フランメと、風の魔法ヴィント、回復魔法エアルングをエルマーから習い、元々覚えていたのだが、今回の修行で、瞬間転移魔法の他、火水土風、4属性の魔法を操ることができるようになったわけだ。
そのエミリアも今、修行の総仕上げとして、覚えたてのアウトラの魔法を使い、
「…………」
ラーヴァルトの町外れ広場の端から端まで、瞬間転移を繰り返していた。エミリアは、自身が発生させた青色透明の魔力の球体に包まれる度、だだっ広い町外れの端から端を、百発百中の精度で、瞬間的に何度も移動している。
高度な瞬間転移魔法を見事に使いこなすエミリアの様子を、広場の南端で見ていたソフィーは、青髪の彼女が傍に現れた瞬間を見計らい、
「凄いじゃないか、エミリア! アウトラの魔法を使える術者ってなかなかいないよ。というか、私は実際に、魔法で瞬間転移してるのを初めて見たよ。大したもんだねえ、ホントに」
ポンと肩を叩いて、そう褒め讃えた。ちょうど瞬間転移をし終えたところに、軽く肩を叩かれたエミリアは、少々びっくりして身をすくめていたが、ソフィーが自分を褒めてくれているのに気づくと、満更でもない様子である。
「凄いなエミリアは。あんな真似できない能力を持っていたんだな。ところでハンネスさん」
「なんじゃ?」
カミルは修行の総仕上げをしながら、自在にアウトラの魔法を使いこなすエミリアの様子を遠目で見ていたところ、ある疑問が浮かんだらしく、
「ハンネスさんもアウトラの魔法を使えるんですよね? なんで魔法を使ってムンターの村まで瞬間転移しなかったんですか? アウトラを使えば、俺たちにお使いを頼まなくてもよかったのでは?」
と、考えたことそのままを、ハンネスに投げかけてみた。
魔道士ハンネスは、「ああ、そのことか」といった様子で顎を撫でながら、カミルの問いに答え始めている。




