第24話 良薬の里
「いらっしゃい。あなた方は冒険者だね。村じゃ見ない顔だし、その物騒な格好でもすぐ分かるよ。良い薬がないか探しに来たんだろう? 色々置いてある。じっくり見ていったらいいよ」
来店したカミル、エミリア、ソフィーの姿を目に認めると、青年店主は直ぐに素性と大方の事情を察したようで、嫌味のない笑顔を浮かべながらそう話しかけてきた。店主の親切な対応を受けたカミルたちは、安心した様子になり、
「万能薬や、重病によく効く特効薬……色んな良薬が置いてあるんですね。私たちは、あるお爺さんから、神経痛の薬を買ってきてほしいと頼まれて、ムンターの村に来ました。腰から来る神経痛なのですが、よく効く薬がありますか?」
穏やかな顔で店内を見回していたエミリアが、買いたい薬について丁寧に尋ねている。
「もちろんあるよ。あっちの商品棚の隅を見てごらん。神経痛の良薬って書かれたコーナーがあるだろう? あなた方が頼まれて来たように、腰や脚の痛みで動けないお年寄りが多くて、その薬がよく売れるんだ。だからなるべくわかりやすいように、特設コーナーを作ったんだよ」
エミリアの質問を受けた薬屋の青年店主は、それを探していたのか、といった様子で軽く手を打ち、小ぢんまりした店内の奥にある、商品棚の一角を指し示した。その商品棚隅の一角には、種類は少ないものの、神経痛に効く飲み薬と膏薬が、山積みの形で置かれている。店主の話にもあるが、これだけの在庫を持っているということは、相当売れ行きが好調なのだろう。
カミルはハンネスから渡された100ライヒで、買えるだけの分量を計算し、神経痛の飲み薬と膏薬をバランスよく購入した。
これでムンターでの目的は果たせた。あとはラーヴァルトに帰ればいいだけだ。そうではあるのだが、カミルは薬屋を立ち去る前に何かを思いついたらしく、腰に結わえ付けている魔法のポーチの中を手で探り始めている。
「店主さん。これを換金してもらうことはできますか?」
カミルがそう言いながら、ポーチの中から取り出した物は、布に包まれたコアスライムの核の残骸であった。どうやら彼は、核が薬の材料になるというソフィーから聞いた話を思い出し、良薬の里であるムンターの薬屋なら、良いレートでそれを買い取ってもらえるのではないかと考えたようだ。
案の定、薬屋の青年店主は、相当な量のコアスライムの核を見て感心しており、早速、天秤で目方を量り始めている。
「いい感じだな。助かったよ。ちょうど薬の原料が少なくなっていたところだったんだ。これだけまとまった量があれば、そうだな……金貨2枚、1000ライヒで買い取ろう。それでいいかい?」
「1000ライヒもですか!? もちろんです。ありがとうございます」
結果的に、カミルのふとした機転は大当たりだったらしく、店主は、コアスライムの核を高いレートで換金してくれた。金貨2枚を受け取ったカミルは、思わずホクホク顔である。傍らでボーイフレンドのその様子を見ていたエミリアも嬉しそうだ。
ただ、ソフィーだけは、
(これでまた美味しい酒にありつけるねえ)
とでも考えているのか、1000ライヒが仕舞われたカミルの魔法のポーチを見て、若干邪な笑顔を浮かべていた。
所定の薬を購入できたカミルたち一行は、小ぢんまりとした木造の薬屋を出ると、一枚服を羽織り直し、冷涼でノスタルジックな風情がある、ムンターの風景をしばらく眺めていた。風光明媚な丘陵の村の原風景は、いくら見ていても飽きないが、あまり観光気分でばかりもいられない。日が暮れないうちにラーヴァルトの町へ、帰還しておきたいところだ。
そうは言っても、早朝にラーヴァルトを出発したため、ムンターで所用を済ませた現時点でも、村の広場の時計塔を見るに、時刻はまだ午前10時を回ったところだ。ムンターからラーヴァルトまでは、徒歩で数時間の距離であるため、カミルたち一行が、日暮れまでに帰還するのは十分可能であろう。
ラーヴァルトからムンターまでの行きの道中で、コアスライム4匹に遭遇し、全て倒しておいたからか、帰り道ではモンスターに全くエンカウントしなかった。カミルたち一行は、何事もなく順調にラーヴァルトまで帰還できている。
カミルとエミリア、それにソフィーの3人がラーヴァルトの町に戻ったとき、まだ昼下がりにもなっていなかった。時間の余裕は十分あるものの、今日はなかなかの強行軍で用を済ませており、3人は昼食をまともに取っておらず、今かなりの空腹である。
「腹がペコペコだなあ。ちょっと急ぎすぎたかな」
「私もペコペコよ。スムーズに神経痛の薬を買えたから、ほとんど何も食べず、勢いで帰っちゃったわね」
「さすがに私もお腹が減ってるわ。ハンネス爺さんの家に行って、何か食べさせてもらった方がいいんじゃない? これだけ骨を折ったんだから、昼食くらいは振る舞ってもらわないと」
カミル、エミリア、ソフィーは、空腹と、ここまでの歩き疲れで、考えが全く一致していた。
疲労困憊の一行は、とにかくハンネスの家に早く行き、依頼完了報告を済ませ、まともな昼食を振る舞ってもらいたいという思いで、もう一踏ん張り足を動かす。




