第22話 颯爽
ハンネスから聞いた情報を頼りに、ラーヴァルトの宿屋街まで移動した、カミル、エミリア、ソフィーの3人パーティは、少しの間ウロウロしながら辺りを見回していたが、どうやらちょうどよく、それなりにリーズナブルな宿を見つけたようだ。
ワインの酔いが幾らか回っているソフィーをエミリアに任せ、カミルは今、宿屋の主人に、個室が3部屋空いていないかと聞いている。当然ながら、若い女2人と男1人が相部屋ではマズいわけで、カミルは、その辺りの事情も含めて宿屋の主人に話し、無理を承知で頼んでいるところだ。
事情が分かった宿屋の主人は、カミルを見ながら、若干含みのあるニヤつき顔を浮かべていたようだが、
「あんたついてるよ。今夜は、まだ部屋に空きがある。人数分の個室を貸そう」
と、親切にも、得な値段で3部屋を貸してくれた。
(よかった……。相部屋しかないと言われたら、どうしようかと思ってたからな)
無事、個室を取れたカミルは、ホッと胸を撫で下ろすと、星空の下でぼんやり待っているエミリアとソフィーを、早速呼びに行く。
3人が、それぞれの個室で一泊した翌朝。
「おはよう」
「おはよー」
「……おはよ」
身支度を済ませ、宿屋のロビーで顔を合わせた、カミル、エミリア、ソフィーの3人パーティは、朝の挨拶を何気なく交わしていた。その挨拶の中で、エミリアの声だけがいつになく小さく、元気がないように聞こえる。彼女の顔を見ると、少々目にクマがある。どうやら今朝のエミリアは、睡眠不足のようだ。
エミリアは、酔っていたソフィーが部屋を抜け出し、カミルに何をするか分からないと考えていたらしく、警戒している内に目が冴えてしまい、なかなか寝付けなかったのだ。
ソフィーを旅の仲間に引き入れるとき、カミルは柄にもなく、ハートを射ち抜く結構な言葉で、彼女を口説き落としていた。酒場で口説かれたソフィーの方も、
「あんた気に入ったよ!」
と、ハッキリとした好意をカミルに伝えていたため、昨夜のエミリアは、一連の流れを思い出し、銀髪の彼女の動向が気になって、よく眠れなかったというわけである。
エミリアには、そうした経緯があるため、
「どうしたんだ、エミリア? 元気がないじゃないか?」
「カミルのせいで今朝はこんななのよ……」
と、睡眠不足の原因を作ったカミルが気遣っても、けんもほろろな返答をしている。
カミルは、ここまで機嫌が悪いエミリアを、今まであまり見たことがなく、
(??? 俺のせい?)
いったい自分の何が悪かったのかと、自覚のない彼は、当惑するしかなかった。
エミリアの不機嫌もあり、少しばかりチームワークがギクシャクしている3人パーティだったが、一応なりとも皆、宿屋で眠り、英気を養えた。今朝のカミル、エミリア、ソフィーは、それぞれ、武器防具類を装備している。ザッとパーティを見る限り、ハンネスの依頼をこなすための旅支度は、十分整っているようだ。老翁ハンネスは神経痛に悩んでいる。できるだけ早く特効薬を手に入れ、悩みを解消してあげたいところである。
今日の目的はそのように決まっているのだが、寝不足のエミリアの頭は、まだボーっとしていて、若干心身が定まっていない。カミルは、そんなガールフレンドの状態が回復するまでしばらく時間を置いた後、
「じゃあ、そろそろいいかな? 行こうか」
適当な頃合を見て、エミリアとソフィーに出発の声をかけた。
カミルの呼びかけに応じた2人は、彼の後を歩き始め、旅のパーティは、ラーヴァルトの北出入口から、ムンターの村へと向かって行く。
西の大陸の地図によると、ラーヴァルトからムンターまでの距離はそれほどでもなく、若く元気の良い3人の足ならば、昼までに時間を余して到着できる見込みだ。それゆえ、今回の移動では、ラーヴァルト北の街道の途中まで出ている馬車を使わず、パーティは現在、ムンターの村までの道のりを黙々と歩いている。
一行の中で旅慣れているソフィーは、ムンターまで続くこの街道を歩いた経験があるらしく、道すがらカミルとエミリアに、
「安全な道とは言えないからね。用心に越したことはないよ」
若干意味深長な真顔で、そう忠告していた。
丘陵にあるムンターの村へ行くには、道中、森林の中につけられた街道をどうしても上っていく必要があり、カミルたち一行は、今そのポイントに差し掛かっている。
ソフィーが先程忠告していた通り、用心に用心を重ねて進んで行くしかないポイントだが、幾ら慎重に事を運ぼうとしても、避けられないエンカウントというものは、絶対的な形で発生してしまう。
「!? なんだこれは!?」
森林街道の危険な雰囲気を感じ、辺りを窺いながら歩いていたカミルの腕を、木陰からニュルリと現れた青色透明の何かが、突如として絡め取ってきた! 不意打ちを受けたカミルは焦り、腕を持っていかれまいともがくばかりで、対処が遅れている!
その窮地に!
「シッ!」
ソフィーが振るう、炎の魔剣が颯爽と割って入った!
カミルの腕を絡め取っていた青色透明の軟体モンスターは、立ちどころに中の核ごと斬られ、形態をとどめること能わず、消滅しかけている!




