第20話 銀髪の美女
幾らか遅い昼食を頂いた後、長旅に協力してもらうため何をやればいいのか、その内容も一通り聞けたカミルとエミリアは、ハンネスが住む平屋の家を後にした。
その平屋の居間で話している内に、ハンネスのせっかちが伝染ってしまったのか、
「じゃあ、ムンターの村へ行こうか? エミリア?」
と、カミルは、気忙しいことを言っている。そんな空気を読まない無茶振りの同意を促されたエミリアはというと、
「あのね~、カミル。今日は色々あったから、もう昼下がりになってるのよ? ムンターに行くのは明日にしましょ。今からだと、町を出たらすぐに日が暮れてしまうわ」
そう冷静に空を見ながら、カミルにしっかりツッコミを入れた。
しっかり者のエミリアからツッコミを入れられたカミルは、伝染っていたせっかちがいっぺんに治ったらしく、
「それもそうだな。じゃあ今日は、町の総合ギルドでヴォルの尻尾を換金した後、宿屋に泊まって終わりにしようか」
時計台の時刻を確認しつつ、そのような行動計画に切り替えている。
ラーヴァルトの総合ギルドと宿屋街がどこにあるのか、その所在については、先程の邂逅の中で、ハンネスが詳しく教えてくれている。それゆえ、どちらにも迷うことなく行けるのだが、カミルは、さっき話した順序通り、エミリアを連れて、まず総合ギルドへと向かった。何はなくとも先立つものを手に入れるため、戦利品を忘れずに換金しておきたい、といったところだ。
ラーヴァルト特産の木材をふんだんに使い、ガッシリと造られた総合ギルドに入ると、カウンターの中にいるいかつい親父が、
「おう、どうした? ここはギルドだ。入るところを間違えたのか?」
と、カミルとエミリアに話しかけてきた。ギルドの親父は、若すぎるカップルにしか見えない2人が、何用で入ってきたのかと、怪訝な様子だ。
「いや、間違えたんじゃないんです」
若いながらなかなか胆力があるカミルは、ギルドの親父のつっけんどんな言葉に怖気づくことなくそう答えると、ヴォルの尻尾5本をカウンターに置き、
「ここのレートで換金してもらえますか?」
と、自信を持って要求した。
差し出されたヴォルの尻尾を見たギルドの親父は、「ヒュー!」と口笛を吹くと、早速、レート表を確認しながら換金の計算を始める。程なくして計算を終えた親父は、金貨1枚500ライヒを簡易金庫から取り出すと、カウンター前にいるカミルに手渡した。
先程までギルドの親父は、年端もいかない2人を見て、正直なところ舐めていたのだが、ヴォルの尻尾5本を毅然と差し出し、きっちり換金を終えたカミルの胆力に、今は甚く感心している。
その感心ついでに、ギルドの親父はお節介を焼いてみたくなったらしく、
「それにしても……その若さで、ヴォルの尻尾5本を持って来るのは大したもんだが、見るとあんたたちは2人旅をしているんだろう? それじゃあ、この先危険すぎる。あんたたちより実戦経験を積んだ、旅の仲間を探した方がいいぜ」
そう親切に忠告すると、カミルとエミリアにギルド隣の酒場を紹介した。
(そこに行って、旅の同行者を見つけてこい、ということだろうな)
親父の話を、そう素直に解釈したカミルは、総合ギルドを後にし、隣に建つ酒場へ、エミリアと共に向かって行く。
扉を開け、酒場に入ってきたカミルとエミリアは、ガラの悪い酔客たちからの視線を集めてしまうほど、明らかに目立っており、カウンターの中にいるマスターも、妙な顔で2人を見ている。
店に似つかわしくない2人を見かねたマスターは、
「ここは酒場だ。子供が入る場所じゃないんだぜ」
と、なるべく柔らかく諭し、追い返そうとしたのだが、カミルとエミリアは、用があってここへ来たのだ。諭されたからといって、帰るわけにはいかない。
何はなくとも事情を言わなければと考えたエミリアは、
「私たちは確かに子供なんですが、総合ギルドの責任者の方から紹介を受けて、この酒場に来ました。私たちは長旅を始めた冒険者です。ここで旅の仲間を探させてもらえませんか?」
と、丁寧な口調で、この店に来た理由をマスターに伝えた。
事情が分かったマスターは、まだ若干渋い顔をしていたが、
「やれやれ。ギルドの親父の紹介なら仕方がないな」
そう呟くように言うと、酔客でガヤつく店内のホールに、カミルとエミリアを案内する。
2人が通された、無骨な造りの酒場のホールには、木製のテーブルがいくつも置かれており、海千山千の客たちが、それらの周りで立ったり座ったり、思い思いの形で酒を飲んでいた。
カミルとエミリアは、そんな騒がしい店内を歩き、旅の仲間になってくれそうな目ぼしい強者を探していたのだが、
(おや? あの人は?)
この年端もいかない黒髪の青少年は、何を思ったのか、ホール真ん中のテーブル席で、1人静かに飲んでいる華奢な美女に、声をかけてしまった。
ボブカットに整えられた鮮やかな銀髪を持つその美女は、話しかけてきたカミルと、彼の傍に立っているエミリアの顔を見て、悪い印象を持たなかったようだ。
話を聞くつもりになった美女は、ワイングラスを置き、
「ふふっ。いいよ。2人ともここに座りな」
と、少し笑いながら、相席を許している。




