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竜使いの聖域~少年剣士カミルの探求記~  作者: チャラン
第2章 『広き世界ヴァイテヴェルト』探求の旅(前編)

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第17話 エンカウント

 カミルとエミリアは、幌馬車に揺られながらネプトス南の街道を途中まで進んだ(のち)、終点駅で下車したわけだが、豪商マルテから贈られた(はなむけ)とも言えるその有り難い移動支援により、ラーヴァルトの町へ向けて、かなりの移動距離を稼ぐことができた。


「とにかく街道をどんどん南に歩いて行けばいいはずなんだが、まだ道のりは半分くらい残ってるな」

「そうね。それで見方は間違ってないわ。今日中にはどうやっても着けない距離だけど、お日様が残っている内に、できるだけ歩きましょ」


 目的地へ向けて街道を行くカミルとエミリアは、そういう会話を交わしながら歩みを進めている。会話の内容を覗いてみると、どの方角へ行き、どのくらい進めばラーヴァルトの町に到着するのか、しっかりとした見当がついているようだ。


 この(よう)に、目的地までの正確な方向と距離を2人がなぜ分かっているのか、それには理由がある。


 カミルとエミリアは、港町ネプトスの道具屋で長旅の支度を整える際、西の大陸の全体地図を買った。2人が見当外れの会話をしていないのは、それ(ゆえ)だ。地図を度々確認しながら、慎重に旅を進めているため、道に迷うことがない。


 ただ、慎重に行くにしろ何にしろ、ネプトスからラーヴァルトの町までは、ところどころ道幅が細くなりながらも街道が伸びており、道なりに歩いていれば、そうそうは迷わない。全く旅慣れていないカミルとエミリアも、そのことに気づいたらしく、徐々に地図を確認する頻度を減らし、今日の日が残っている内にできるだけ歩みを進めて行った。


「夕暮れ時だな。ここから見る夕日も綺麗なもんだが……」

「そんな悠長なこと言ってられないわよ、カミル。どこか泊めてもらえる所をそろそろ探さないと」


 カミルは、雄大な地平を照らす夕焼けを目に映し、そう感慨に浸っていたのだが、なかなかリアリストなエミリアにツッコまれ、すぐ現実に引き戻された。青髪の彼女の言う通りである。夕暮れが過ぎれば夜になってしまう。そうなる前に、一宿一飯を請える民家か何かを探しておかなければならない。


 2人がその場で足を止め、遠目で見回したところ、辺りには民家どころか、体を休めるのに適当な場所すらない。


(焦ってもしょうがないが、これはまずいな)


 自分たちが置かれた状況を把握し、そう考えたカミルは、エミリアの顔を見て示し合わせると、戸惑うことなく先を急ぎ始めた。


 だが、困難というものは、悪くなり始めた状況があると、重なるように引き寄せられてしまう。世の中の事例を見ても、そうしたケースが多く、それは、このヴァイテヴェルトの世界においても変わりない。


「グルルルッッ!!」


 夜旅(よたび)を何とかして避けるため、宿を探そうと早足で歩いていた2人は、狼犬型モンスター、ヴォルに遭遇してしまった! 困難が困難を呼んでしまったのだ!


 現れたヴォルは3頭、ネプトスでヴォル退治を行った時に対峙した頭数より遥かに少ないものの、あのときと今とは戦力状況が異なる。この戦闘は、カミルとエミリアだけで切り抜けなければならない。


 エミリアにとって初めての実戦になるが、この青髪の娘は肝が据わっており、


「気をつけろ! エミリア!」

「分かってる!」


 カミルの呼びかけにそう返すや否や、先制の攻撃魔法、フランメを撃ち放った! スチールロッドから発生した炎の塊が、手前にいるヴォル目掛け、飛燕の如き速度で飛んで行く!


「ギャン!?」


 炎の魔法フランメは1頭のヴォルに直撃し、その体を激しく燃え上がらせた! 炎に包まれたヴォルは、何が起こったのかも分からないまま必死にもがくが、やがて力尽き、亡骸を野辺に晒し始める。


 その後ろで様子を窺っていたヴォル2頭は、突然撃ち放たれ、同族の1頭を焼き尽くした炎を目に映し、明らかに怯んでいる。カミルはそこを逃さず、


「オオオッッ!!」


 気勢を上げながら鉄の両手剣を素早く振り抜き、2頭のヴォル目掛け、連続の斬撃を繰り出した! 斬撃はいずれも命中し、1撃目で1頭を仕留め、2撃目でもう1頭の胴を深く斬り、その戦闘能力を大きく削っている!


 深手を負い、恐慌状態になった残り1頭のヴォルは、破れかぶれでカミルに飛びかかって来たが、その攻撃速度は憐れなほど緩慢であった。


「…………」


 カミルは、命を振り絞った最後の攻撃をかわすと、弱ったヴォルの急所目掛けて両手剣を振り下ろし、無言でとどめを刺す。


 モンスターとの戦いは終わり、カミルとエミリアは、パーティとして、初めてのエンカウントを切り抜けた。


 2人はサバイバルナイフを用いて、ヴォルの亡骸3体から3つの尻尾を手に入れると、自分たちが奪った命に対し、敬虔な祈りを捧げている。




 ヴォル3頭との戦いに勝利したカミルとエミリアは、その後、ラーヴァルトの方向に進みながら、一宿一飯を請える民家等を再び探し始めた。


 今日の日は、ほぼ地平に沈んでいる。ここまで歩き続け、モンスターとの遭遇も切り抜けてきた2人は、もうヘトヘトだったが、もう一度気力を振り絞り、目を皿のようにして、一晩泊まれそうな建物はないかと、辺りを見回した。すると、


「あった! あれって教会よね!?」


 エミリアが夜目を利かせて、南の遠方に、小さな教会を見つけ出す。ここからの距離感としては、道なりに進めばやがてたどり着く、それくらいのものであった。


「間違いない! やったなエミリア!」


 正に九死に一生を得た。そんな思いのカミルは喜びのあまり、エミリアの両手を無意識に握るばかりでなく、彼女を抱きしめてしまっている。


(えっ!? カミル!?)


 無意識のボーイフレンドの行動に、エミリアはドギマギしながらも、心の中で、


(やったわ!)


 そう手応えを感じ、カミルの抱擁を受け入れていた。

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