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竜使いの聖域~少年剣士カミルの探求記~  作者: チャラン
第1章 聖域への旅立ち

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第12話 エミリアとの旅立ち

 ヨセフもハンナも苦虫を噛み潰したような、という表現を通り越した苦悩の表情を浮かべていたが、2人は親として、カミルに一応なりとも旅の許可を出した。ここまで来れば前言撤回はできない。カミルはしばらく、故郷シューンの村を離れることになる。


 覚悟を決めた清々しい顔になっているカミルは、早速、旅支度に取り掛かり、明日出発するつもりでいる。しかしながら、友達想いのカミルは、部屋で旅支度を進めながらも、先刻まで仲良く一緒に過ごしていた、幼馴染のエミリアとアルバンの顔が思い浮かぶようで、度々(たびたび)手が止まってしまう。


(これじゃあ踏ん切りがつかない。2人にちゃんと話して……旅支度はそれからだ)


 荷造りの途中、そう考えたカミルは、両手でピシャリと自分の頬を張り、気合を入れ直した(のち)、明日、旅に出る旨を伝えるため、エミリアとアルバンの家へと急いで向かった。


 早く伝えに行かないと、もうじき日が暮れてしまう。




 エミリアとアルバンの家をそれぞれ回り、2人と話したカミルに、もう迷いは全くない。


「明日、旅に出る。しばらく会えなくなる」


 カミルからそう告げられたエミリアとアルバンは、(しば)し呆然と立ち尽くし、


「嘘だろ?」

「嘘でしょ?」


 それしか言葉が出てこない様子であった。


 あまりの衝撃で、2人は目の前の現実を、そのとき疑いさえしていたが、固い決意を語るカミルの口調は、この上なくしっかりである。夢現(ゆめうつつ)ではなく、これは紛れもない事実で間違いない。


(カミルがいなくなる……)


 受け入れられない現実を、突然、幼馴染のボーイフレンドから突きつけられたエミリアは、目に涙を滲ませるより他はない。




 幼馴染の親友とガールフレンドに、暫しの別れを告げた翌朝。


 旅支度を全て整えたカミルは、父ヨセフと母ハンナに見送られ、実家を出立した。ヨセフとハンナの親心は、ここまで来れば、ほぼ明鏡止水の領域であるのだが、


(すぐ諦めて帰って来るだろう)


 同時にそういう淡い期待を抱いてもいる。旅で何かを成し遂げるより、最愛の息子が無事に帰って来さえすればいい、父にしろ母にしろ、親心とはそういうものなのだ。


 旅に出るに当たり、カミルは物々しい武器防具類を装着していた。それゆえ、なるべく村民の目につかないよう、ひっそりとシューンから出るつもりだったのだが、村の出入り口へ続く道を歩いていると、カミルは思いがけない見知った顔と出会い、仰天してしまう。


「エミリア!?」


 幼馴染のガールフレンドの姿は、カミルにとって見紛えようもない。また、その格好はカミルと同様、常日頃にない物々しさで、青髪の彼女は、スチールロッドと旅人のローブを身に着けていた。


「いったいどうしたんだ? なんでそんな格好を?」


 なぜエミリアがここにいるのか、事態が全く飲み込めていないカミルが聞くと、


「いったいどうしたんだ? じゃないわよ。私もあなたの旅について行くのよ」


 青髪の彼女は、昨日のこともあってか、若干ふてくされたようにそう答えている。


 予想だにしていないエミリアのその答えに、カミルは目を丸くするしかない。


 チャーミングな容姿に似合わず、エミリアはとても強情でヤンチャな性質を持っている。幼馴染として、エミリアのそうした性質をよく知るカミルは、「あなたの旅について行くのよ」という彼女の言葉を聞いた時点で、もう観念していた。説得を試みるのは無駄であり、旅の道連れとして同行させるしかない。


 エミリアから話を詳しく聞くと、彼女は竜の聖域を探す旅に同行するに当たって、父デニス、母リーザを説得したらしいのだが、カミルの両親の比ではないほどの大反対に遭ったらしい。それはそうだろう。手塩にかけて育てた一人娘がそんなことを言い出せば、どんな親でも怒鳴りつけて止めるはずだ。


 デニスとリーザも当然、何があっても娘を止めようと、何度も怒鳴りつけて言い聞かせたわけだが、こうと決めたときのエミリアの頑固さは筋金入りである。どうやっても聞かない娘に手を焼きすぎたデニスとリーザは、最後の最後で折れたそうだ。


「こっぴどく怒鳴られたけど、最後は許してくれたわ。『娘を頼む』って、お父さんは言ってたわよ」


 あっけらかんとしているエミリアは、カミルと歩きながら、他人事のようにそう伝えた。サラッと重大事を言われたカミルとしては、たまったものではない。彼女の父デニスから、大事な一人娘を任されてしまった重圧が、肩にずっしりと伸し掛かってくる。


「あのね~。なんか冴えない顔してるけど、私は重荷になんかならないわよ。カミルがヨセフさんから剣の特訓を受けてたように、私もエルマーお爺さんから魔法を習ってたんだから。初歩的な攻撃魔法と回復魔法を覚えたから、私は役に立つわ。カミルを助けてあげる」

「えっ!? 魔法を!?」


 この先どうやってエミリアを守っていこうか、頭を悩ませ始めていたカミルにとって、彼女が今語った言葉は、望外中の望外であった。


 今日のような時が来るのを予期していたのかどうかは分からないが、エルマー翁は、書物『聖域の頂き』を預けられたその日に、エミリアの魔法適性の高さを見出し、書物の解読を進める傍ら、時間を見つけては、彼女に魔法の訓練を施していたらしい。


 つまりエミリアは、自分の身は自分で守れるばかりか、カミルを助ける十分な戦力になるということだ。


 兎にも角にも、思わぬ形で気心の知れた旅仲間を得たカミルは、竜の聖域の手がかりを求め、エミリアと共に故郷シューンの村を旅立つ。


 探求の旅は、ここから始まる。

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