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第22話 都へ、火の中へ

22話 都へ、そして火の中へ

■ 近江・観音寺城(義仲一人称)

 夜明け前の城門は、吸い込まれるように黒い。

 俺は、愛馬の首筋を撫でながら、自分の掌を

見つめた。今ついに京へと向かうが血で血を洗う事にならないと良いが


(……震えてはいないな。だが、この手が次に握るのは、筆か、それとも血に濡れた柄かそれを決めるのも己自身か)


 背後には蒲生賢秀と、旅装束に身を包んだ精鋭たちが静かに控えている。そして今かと俺の命令を待っている目はギラッとしながら見ている


 進藤賢盛が、俺の足元で声を絞り出した。


「殿……本当に行かれるのですか。京は、今――僧兵騒動で大変になっておりますが」


「荒れている。だからだ我々が行き六角家が仲介して力を見せるのだ」


 俺は自分の言葉に、自分自身で頷いた。


(行かなければ、俺はただの『近江の引きこもり』で終わる。三好が京を火薬庫にしたのなら、俺はその導火線を踏み消しに行く。……たとえ、この身が焼かれようともなそうしないと近江や京の安定は作れない)


 後藤高治が、影の中から低く笑う。他の家臣や従者も同じく笑う


「三好は、嫌がるでしょうな。殿が『正義』という名の無作法を仕掛けに来るのですから仕掛けないと思った者から」


(ああ、嫌がらせだ。三好長慶、あんたが丹精込めて作った『泥沼』に、俺は綺麗な草鞋で踏み込んでやるよ)


「……行くぞ」


 門が開く。

 城を出た瞬間、俺の背中に近江の冷気が突き刺さった。この地に戻るのもここ何ヶ月後になるだろうな気合い入れていなければ


(これで戻れぬ、というわけでもない。だが、次にこの門を潜る時、俺は今の俺のままではいられないだろう。……さらばだ、安穏な日々よ)

■ 大和・筒井城(順慶三人称)

 筒井順慶は、自室の床に置かれた数珠を、食い入るように見つめていた。


 外からは、興福寺の僧兵たちが上げる鬨の声が、地鳴りのように響いてくる。木霊するように周りにも響いてる


(……うるさい。仏を語る口で、なぜそうも容易く人を殺す言葉を吐けるのだ仏に近づく為の修業にしてるはずなのに)


 順慶の心臓は、早鐘を打っていた。

 重臣・中坊秀忠が、焦燥を隠しきれず報告を急かす。


「殿! 僧兵共はすでに動いております! もはや我らの制止など、祈りの前の羽音も同然!このままでは京が火の中に」


(分かっている。分かっているのだ、中坊。……私は、止めたい。だが、止めれば大和の門徒すべてを敵に回す。そして三好は、それを口実に私を『仏敵』

として葬るだろう私は余りにも弱いのだ。立場でも

心でも)


 順慶は、震える手で数珠を拾い上げた。その指先に、異様なまでの力がこもる。苦々しい顔をしながら息を吸っている


(三好長慶殿。あなたは私に『人殺し』になれと言うのか。それとも『無能な傀儡』として死ねと言うのか。……どちらも御免だどちらにして生き残りたいのだ)


 島清興(左近)が、一歩踏み出した。

「殿。……決断を」


(決断……? そんな格好の良いものが、今の私に残されているのかこんな優柔不断なのに)


 そこに、高山右近の静かな声が響く。


「順慶様。デウスは、迷う者にこそ、重き試練を与えられますそれを乗り越えてこそ信仰という物ですぞ」


(右近よ、お前はいいな。その十字架は、迷いを断ち切る剣に見える。……私のこの数珠は、私を縛る鎖にしか見えぬというのに)


「……兵を出すだが少なくしてなるべく衝突するな」


 順慶が、自分の声ではないような、掠れた声で言った。私にも威厳や大きな意思あれば良いのに


「僧兵の後ろに付け。略奪が起きれば、筒井の名で……いや、私の名で制止しろ。……清興、地獄への付き添いを頼むぞ」


「……御意。どこまでもお供つかまつる」


(六角義仲……近江の虎。貴殿なら、この鎖をどう断ち切る。教えてくれ、私にその牙を貸してくれ……!)

■ 京・嵐の前(義仲一人称)

 京の入り口に立った時、鼻を突いたのは、春の匂いではなく「焦げた埃」の匂いだった。


 門は固く閉ざされ、町衆の怯える気配が、閉ざされた戸の隙間から漏れ出してくる。


(……死んでいる。この街は、今、息を止めているんだ)


 大路を我が物顔で練り歩く僧兵たちの影。その奥に、三好の旗が揺れているのが見えた気がした。


「……間に合うか」


 俺は馬上で、自分の刀を強く握りしめた。


(誰かが、最初の一太刀を振るう。それが合図だ。……三好、あんたは『誰か』にその役を押し付けたいんだろう? 筒井順慶か、それとも俺か)


 一方、筒井の名を背負った軍勢が、重い足取りで洛中へ踏み込んでくるのが見える。

 順慶の苦悩が、その行軍の鈍さに現れているようだった。


(順慶、あんたも俺と同じものを見ているんだろう。……なら、ここで立ち止まるな。俺と一緒に、この『泥沼』をひっくり返してやろうじゃないか)


 誰かが火を点ければ、都は燃える。

 その境目に、俺と順慶は、別々の絶望を抱えて立っていた。

(さあ……将棋の駒のようにだ。三好長慶、あんたのシナリオにはない結末を見せてやる)

この回を一言でいうと、**「正反対の決断をした二人」**の物語です。

• 六角義仲:あえて「火の中に飛び込む」

安全な地元(近江)に引きこもることもできましたが、彼は「今、京に行かなければ六角に未来はない」と覚悟を決め、自らトラブルの渦中へ向かいました。

• 筒井順慶:どうしても「泥沼から抜け出せない」

暴走する味方(僧兵)を止められず、動けば責任を取らされ、止まれば敵を作る。そんな地獄のような板挟みの中で、「せめて自分は汚い手は貸さない」というギリギリの誠実さを貫いています。

一番伝えたかったのは、**「誰も『悪者』になろうとしていない」**という点です。

三好には三好の計算があり、筒井には守りたいものがあり、義仲には果たすべき責任がある。

全員が「自分の正義」で動いているのに、それがぶつかり合うことで最悪の事態(戦や暴動)に向かってしまう。そんな**戦国時代の「ままならなさ」**を形にしてみました。

舞台はいよいよ、一触即発の京の都へ。

• ついに「最初の一滴」の血が流れてしまうのか?

• 義仲の言葉は、暴徒と化した群衆に届くのか?

• そして、本人の意図に反して「筒井」の名前が悪用されていく……。

もう引き返せないところまで来てしまった両家。

次回、事態はさらに激しく動き出します。引き続き、お付き合いください!

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