第21話 挟まれた者たちー若き当主の共鳴ー
第21話 挟まれた者たち ―若き当主の共鳴―
■ 大和・筒井城
大和、筒井城の朝。
庭の苔を濡らす朝靄の中、筒井順慶は独り、数珠を握りしめて立っていた。そして空を仰ぎ祈り捧げていた
背後の部屋の影には、三好の息がかかった興福寺の僧兵代表が、監視するように居座っている。
「……結局、この澱んだ空気の中に居続けるしかないのか静かに心の中で祈ってるだけなのか?」
順慶が小さく零した独り言に、影から鋭い声が重なった。屈強な武士と少し老いてそうな武士が現れた
「殿、迷いは禁物にございますぞ我々の仏敵の為に力を合わせて闘うのですそれが一番この世の為ですぞ。」
現れたのは、島清興(左近)。その横には、眉間に深い皺を刻んだ中坊秀忠と、槍を杖代わりに立つ豪将・八木源右衛門がいた。筒井順慶を信じて付いていたり重臣達だ
「興福寺の衆は宇治に向けて動いております」と左近が告げれば、中坊が「三好殿は我らが『不干渉』を貫くのを許しませぬそれは仏の力を利用して言い訳してるだけだ」と続け、八木が「いっそ六角を突き崩せば済む話!あのような外交や卑怯の手を使うもの達」と吠える。
その喧騒の中、一組の親子が静かに順慶へ歩み寄った。
摂津と大和の境に領地を持ち、三好・松永の命でこの城に詰めさせられている高山友照、そしてその息子――**高山右近(重友)**である。三好氏や筒井氏との中立の立場を取り均衡保ってる。どっちとも取れないがそれでも今は筒井氏に顔出したのだ
「順慶様。……主は、偽りの正義を求めてはおられません信じてる物は違うのでありますがそれでも悪い事言わないと行けないですな」
まだ若き右近の言葉に、周囲の空気が凍りつく。
父・友照が「右近、言葉を控えよ」と制すが、右近の瞳は濁りなき光を宿していた。その目は順慶の顔捉えて真っ直ぐに見てた
「僧兵たちは仏を語りながら、火を放とうとしている。それは武士の、人の道にございますか?持っても他僧としても駄目な事だと思うですが」
順慶は、右近の真っ直ぐな言葉を胸に受け、目を閉じた。心の中でそっと呟いた
(右近よ。お前の言う通りだ。だが、私はお前のように清らかではいられぬ何よりも解決しようとせずに曖昧な態度で濁してるのに過ぎない)
「……六角には、返書を出したたがその返事はあまり良いものでは無いかもしれん戦備えするべきあるな」
順慶が、絞り出すように言った。
「我が本意にあらず。……止められぬ。そう書いた。逃げたと言われようが、今は耐えるしかないのだ三好にも六角氏にもだなそれは筒井氏の手だと」
(六角義仲……近江の狼よ。貴殿なら、この泥沼の盤面を、どう見るそしてどう動く解決して見せる)
■ 近江・観音寺城
同じ頃、観音寺城。
義仲は、順慶から届いた返書を机に置き、黙ってその行間を読んでいた。時々険しくなりながら目を通していた。
「……殿筒井氏はどう思っておるのか」
宿老の進藤賢盛が口を開く。
「筒井は『自分には関係ない』と逃げ口上を並べているに過ぎませぬどっちにも良い顔してるだけなのでは?」
「違う、賢盛それは少し其方の偏見が入ってるぞ」
義仲は即座に否定した。
「これは弱腰ではない。追い詰められた者の、精一杯の『叫び』だ。見ろ、敵意はどこにも書いていない。三好の名も出していないどちらにも味方が出来ないと云う意思見え隠れしているそれも我らに感じ取って
欲しそうに」
後藤高治が冷徹な目で文を見つめる。
「『察してくれ』……と?そう言う事を考えて筒井順慶がですか?」
「そうだ。順慶は三好に喉元を掴まれている。ならば、俺がその糸を断ち切るわけにはいかんその思惑を活かす必要があるそういう手を打つべきだ」
義仲は立ち上がり、家臣たちを見渡した。鋭く目線にしながら大声でハッキリとした口調で語尾を強めに言った
「全軍に伝えろ。甲冑を隠し、その上に旅装束を纏え。旗は一本も立てるな。……我らは軍勢ではない。都の安寧を願う『参拝客』だ。だが、服の下には近江の意地とある程度の武器隠して仕込んでおけ」
蒲生賢秀が硬い声で応じる。「名分は、都を守るという一点ですな」
「名分は、三好から与えられるものではない。俺たちが、力ずくで奪い取るものだ」
◇
夜。
一人になった義仲は、温かい梅茶を啜りながら、順慶の文をもう一度読み返した。念入りに見てながらもう一度心の中で確認する
(筒井は敵ではない。右近という清廉な者もあちらにいると聞く。三好氏ともあまり仲良くないとも聞く……焦らせるな。ここから俺の腕見せ所だ
盤面はまだ崩れていない)
「……行くぞ大和や京の国境へ今向かうぞ」
義仲は、静かに刀の鯉口を切った。ガチャンと鈍い音立て静かな私室に響く。
近江の虎、いよいよ京へと爪を隠して走り出すりこの先どうなるか考えながらも
第21話 後書き(作者ノート)
第21話、最後までお付き合いいただき感謝です!
この回では、ようやく物語の「裏側」――すなわち、筒井側の内情と、彼らが抱える救いのない本音を描き切ることができました。これまでは義仲の視点から「掴みどころのない相手」に見えていた筒井家ですが、その実態は、吐き気がするほどの板挟み状態にあります。
筒井順慶という男は、決して無能でも、優柔不断でもありません。むしろ、今の状況を正しく理解しすぎているからこそ、足がすくんでいるのです。
三好氏からは武力による服従を迫られ、背けば大和を焦土に変えられる。興福寺からは宗教的な伝統と権威を盾に圧力を受け、背けば領国支配の基盤を失う。そして六角氏(義仲)には未来への可能性と「義」を感じながらも、安易に頼れば三好の傀儡として完全に使い潰される……。
まさに、どの選択肢も正解に見えて、その実、詰みに向かっているという絶望的な盤面です。
これに対して、義仲が「弱い」と切り捨てず、「追い詰められている」と見抜く。この**「為政者としての共感」**こそが、二人の間にある「見えない糸」の正体です。
■ 新たなキャストと「静かな戦」
また、今回は島左近に加え、中坊秀忠や八木源右衛門、そして**高山右近(重友)**といった、筒井家を支える多層的な家臣団を登場させました。
特に右近のような「清廉な正義」を持つ者が身近にいることは、順慶にとって救いであると同時に、汚れた決断を下さねばならない自分自身を突きつける「刃」にもなります。
「押されながら耐える者(筒井)」と「動かずに盤面を読む者(義仲)」。
どちらも一歩も引いていないのに、火花を散らすのは剣ではなく「言葉」と「気配」。この戦国版冷戦とも言えるヒリヒリした空気感が、今の章の真髄です。
個人的には、**「敵か味方か簡単に割り切れない、泥の中で手を握り合うような関係」**を書くのが一番苦しく、そして最高にエキサイティングな作業でした。




