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第20話 僧兵騒動ー見えざる刃ー

第20話 僧兵騒動 ―見えざる刃―


 夜明け前の奈良、興福寺。

 静寂を切り裂いたのは、数百の法螺貝の音と、石畳を叩く数千の草鞋の響きだった。ドタドタとした騒がしい音共に野太い男の声も聞こえてくる


「仏敵を討て! 洛中の不浄を清めるのだ!我が興福寺の力と仏の力を見せよ」


 白布で頭を包み、鋭い薙刀を手にした僧兵たちが、雪崩のごとく京を目指して北上を開始する。その先頭を行くのは、大和(奈良)の有力武家であり、興福寺の守護的な立場にある**筒井順慶つつい じゅんけい**の軍勢であった。たが筒井順慶はまだ若く清々しい姿に見え他の僧兵とは違った


大和:若き当主の迷い

 進軍の列の中ほど。馬上の筒井順慶は、数珠を握りしめたまま、苦い顔で北の空を見上げていた。少し緊張して顔を歪めて息も荒めで溜息もついていた


「……順慶様。浮かないお顔ですな何が問題でもありますかな」


 傍らに寄せた重臣が声をかける。順慶はまだ十代半ば。その端正な顔立ちには、信仰心と政治の板挟みになった少年の苦悩が刻まれている。


「三好殿の仰せだ。……やらねば大和が火の海になる。だが、興福寺の僧兵を焚き付け、京を脅かすなど……これは仏の御心に叶うことなのか?」


「名分は『京の不信心な浪人の成敗』にございます。……たとえそれが、六角義仲殿を誘い出すための罠だとしても、我らは踊るしかございませぬましては我は仏門の身でこのような野蛮で武士やるような事をするべきなのです!」


「六角、義仲……。あの御仁も、私と同じく若くして国を背負ったと聞く。……済まぬな、会ったこともない御仁に刃を向けることになろうとは」


 順慶は目を閉じ、低く経を唱えた。その背後では、血気に逸る僧兵たちが「エイ、エイ、オー」と、およそ仏門とは思えぬ野太い声を上げていた。


摂津:天下人の盤面

 同じ頃、摂津・飯盛山城。

 三好長慶は、静かに茶を啜っていた。その隣には、不気味な笑みを湛えた松永久秀がいる。


「筒井が動きましたな。僧兵を先に立てれば、朝廷も下手に口出しはできませぬ。さて、近江の若き守護はどう動くか……また黙りとするのか見物ですな。」


 久秀が楽しげに扇を弄ぶ。長慶は視線を落としたまま、静かに口を開いた。

「……義仲は『正々堂々』を好むと聞いた。ならば、僧兵を斬れば『仏敵』の汚名を着せられ、見逃せば『無能』の烙印を押される。どちらを選んでも、奴の築いた『義』は崩れるそして我ら三好が強いままこの畿内押さられるのだ。青い小僧には取られたくない」


「恐ろしきは長慶様。戦わずして、敵の魂を殺そうというわけですな。まさしく主家を策謀と武力公家への手回しで奪い取り将軍家を追い出した実力ですな。」


「私は戦をしたいのではない。……近畿に、私以外の『秩序』など不要なのだ。六角義仲。お前の正義が、泥に塗れる様を見せてみろ久秀…お主も関与してやっていただろう。お主の力もあるぞ」


近江:義仲の決断

 観音寺城、評定の間。

 報告を受けた家臣たちの声は、怒号に近いものになっていた。


「殿! 筒井が、興福寺の僧兵三千を率いて宇治を越えました! このままでは京が火の海に!助けなかった場合は臆病者見過ごしたら京や幕府を見捨てたと言われますぞ!」


 蒲生賢秀が拳を床に叩きつける。


「三好の差し金に決まっております! あ奴ら、自分たちの手は汚さず、神仏を盾にして攻めてくるとは……卑怯千万!六角氏として早急に立場示すべきだと。」


 後藤高治が冷ややかに補足する。


「……厄介なのは名分です。『京に潜む不届きな浪人を掃除する』と。これを止めれば、六角は『不届き者を守る賊』と喧伝されましょう」


「斬れば仏敵、見逃せば臆病者か。……随分と手の

込んだ嫌がらせだな

中々三好長慶殿は頭切れて悪い知恵もお持ちだ…だが手はまだある諦めは悪い性格なのでね」


 義仲は、静かに腕を組んでいた。その脳裏には、先ほど届いた公家・山科言継からの、悲鳴のような密書があった。


『義仲殿、都を、主上をお守りくだされ。僧兵の乱入を許せば、京は再び灰燼に帰しますここは是非義仲に官位貰って直ぐさま来てもらい僧兵倒して欲しいです!』


「殿、どうなさいますか!」


 望月吉政が、刀の柄を鳴らしながら義仲を覗き込む。


「……筒井順慶。あいつは、どんな男だ?」


 義仲の問いに、家臣たちは一瞬呆気に取られた。


「……若く、聡明な男と聞いております。仏への信仰も厚いとか」


「そうか」


 義仲は立ち上がり、窓の外を見据えた。


「なら、その『聡明さ』に賭けてみる。……賢秀、高治。俺は兵を率いて京へ向かう。ただし、武器は隠せ。旗も立てるな。……我らは軍勢ではなく、ただの『参拝客』として京へ入る」


「なっ……参拝客、ですか!?」


「ああ。僧兵たちが『正義』を語るなら、俺たちは『さらに大きな正義』で包み込んでやる」


 義仲は、腰の刀を一度だけ鳴らした。


「三好長慶。……俺を揺さぶるのに神仏を使ったこ

と、後悔させてやるぞ」


第20話、最後までお付き合いいただきありがとうございます!

今回の後書きでは、戦国時代のドロドロした「政治の裏側」と、そこに巻き込まれた若き当主たちの苦悩にスポットを当ててみました。

第20話 後書き(作者ノート)

 第20話、完読感謝です!

 いよいよ物語は、派手な合戦よりも胃が痛くなるような**「剣を抜かない戦い」**のフェーズに突入しました。

 今回の僧兵騒動、これこそが当時の近畿における「最悪の嫌がらせ」です。

 相手がただの兵なら斬れば済みますが、相手は神仏を背負った僧兵。斬れば「仏敵」として全宗教勢力を敵に回し、放置すれば「都を守れぬ無能」として京雀に笑われる……。三好長慶、本当に性格が悪い(褒め言葉です)策を仕掛けてきますよね。

 義仲が即座に抜刀せず、「名分を剥ぐ」という搦手を選んだのは、彼が単なる「強い若武者」から、国を背負う「為政者」へ脱皮しつつある証でもあります。正直、作者としても「ここで義仲が暴れたらスッキリするんだろうな」という誘惑はありましたが、あえて「武装した参拝客」という変化球を投げさせてみました。

 また、今回登場した筒井順慶。

 彼は決して「悪役」ではありません。彼もまた、三好という巨大な圧力と、興福寺という伝統の重みに押し潰されそうな、義仲と同じ「不自由な若者」なんです。戦国の世で、誰もが何かの「衆」や「家」の歯車として生きている。その息苦しさを、義仲との対比で感じていただければ嬉しいです。

 個人的には、**「刀を抜くシーンより、刀に手をかけさせないシーンを書く方が心が削れる」**という不思議な体験をした回でした。知力と気力の削り合い、これこそが近畿を舞台にした歴史ドラマの醍醐味かもしれません。

 次回、ついに京の市中で、近江の「衆」を率いる義仲と、祈りと怒りを抱えた順慶が対峙します。

 三好の狙い通りに都は燃えるのか、それとも義仲が新たな「秩序」を示すのか。

 嵐が本格的に吹き荒れる第21話。

 引き続き、彼らの選択を見届けていただければ幸いです!

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