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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第一章 嵐と風吹

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9話 かまいたちの父


 

 鎌切家のお屋敷――

 


 2体の妖怪が振るう刀がぶつかり合う。

 その衝突音が道場内に響き渡った。

 

 二刀流を得意とするなまはげだが、

 片手刀にして打ち合っている。

 相手も片手刀で、

 なまはげに勝るとも劣らぬ剣技で対抗していた。


 一歩も譲らぬ攻防はしばらく続いた。

 


「相変わらず見事な抜刀術だ、鎌切よ」


「お前もな。なまはげ!」



 互いに剣先を相手に向けながら、

 称え合った。

 

 この刀での打ち合いは、

 ふたりからすれば挨拶代わりのようなものだ。


 鎌切はリビングになまはげを通し、

 コーヒーとクッキーを出した。



「……これは?」


「コーヒーとクッキーだ」


「……」


 

 なまはげは出された物に驚き、

 手を付けずソファーに腰かけた。



「こんなものを飲んでいるのか?」


「なまはげ、コーヒーを侮るな。

 多めに砂糖とミルクを入れることにより、

 化ける飲み物だ」


「……風吹の影響か?」



 鎌切の正体は、

 かまいたちと呼ばれる妖怪である。

 

 人に化け、人間界に暮らして数百年。

 

 かまいたち一族秘伝の傷薬を元に

 製薬会社を立ち上げ、

 巨額の富を築いた稀な資産家の妖怪だ。


  

 製薬会社設立時に人間の女性と所帯をもち、

 長男・嵐と長女・風吹を授かることになる。


 もちろん妻となった女性はすでに他界しており、

 今はこの大きな屋敷に

 長女・風吹とふたりきりで過ごしている。



「地域主の緊急会合になぜ来なかった?」


「株主総会があってどうしても席を

 外すわけにはいかなかったのだ。

 ……悪いことをした」


「とことん人に染まったな……鎌切」


「嫌味を言うな。

 妖術訓練だけは欠かしていない、

 さっきのはそのために建てた道場だ」


「地域主の緊急会合、

 今回は天狗と一緒に

 九尾の狐の娘も顔を出していたぞ……」


「信じられん……。

 平和ボケした鞍馬山の連中が

 出席するなんて余程珍しきことだ」


「平和ボケでは、お前も負けてはいまい。

 そういえばお前たちはいつも何かにつけて

 天狗と張り合っていたな。

 九尾の娘にもお前はいつも、

 嵐《あらし》で対抗していたものだ……」


「……やめてくれ、嵐の話は」



 鎌切家の長男、嵐は、

 何年も前に行方不明となっている。

 

 嵐は天賦の才を持つと言わしめた、

 かまいたちだった。

 

 日本妖怪の新しい四天王候補に挙がったほどだ。


 

「嵐は天才だった。

 それゆえ、

 昔から何を考えているのかわからん奴だった……

 この家が嫌になったのだろう」

 

「確かにたいした奴だった。

 あの若さで己の身体以上に大きな大剣を

 顕現し扱っていたのだからな」

 

「そしてあの妖力量だ……

 我が子ながら恐ろしさを覚えたよ」


「……そんな嵐が失踪をした」


「一族を捨てた者のことはもうよい。

 して訪問の用件はなんだ、なまはげ?」


 

 地域主の緊急会合の帰りに、

 なまはげが鎌切家に寄った理由。



 それは—— 


 

 ——————



「嵐には会えぬことはわかっていたが、

 風吹にも会えぬとは予想外だった」


「……」


「兄が優秀過ぎたせいで目立ちはしないが、

 あの子も……」


「……あいつは婚約者のところに行った」


「……む?」


「1週間前くらいに婚約した……。

 らしい」


「まことか?」


「先日プロポーズを受けたようでな……

 その男の住む京都へ行ってしまった」


「それはめでたい。

 京都となると相手はどの妖怪だ?」


「……相手は人間と聞いている」


「なんと!」


「しかも酒呑童子付きだ……」



 沈黙が落ちる――



「話が見えてこないのだが……」


「それは父である俺もだよ」


「……」


「近々、家に連れてくるように言ってある。

 どんな人間か知らんが、うちの娘はまだ子供だ……

 右も左もわからん娘に手を出すなど……鬼畜の所業」


「しかし、お前の嫁も人間であったろう……

 人間と妖怪がうまくいった数少ない例だ。

 きっと風吹も……」


「嫁と出会ったのは、あいつが23歳の時だ!

 すでにあいつは成人していた!

 風吹は高校生だぞ!

 結婚など許せるものではない!」



 なまはげに妻子はいない。

 それに人間界のことをそこまで詳しくない。


 そんな彼には、

 ある疑問が浮かんだ――


 

「風吹はいくつになる?」


「117歳だ!」


「……いくつになったら結婚してもいいのだ?」

 

「それはお前……

 200歳くらいだろう!」


「……」


「……」


「……そうか」



 なまはげは話を続けた。

 

 

「……酒呑童子付きとはなんだ?」


「知らん!」

 

「……しかしよく嫁がせたな。

 そんな人間のところに」


「ダメだと言ったら

 口を聞いてくれなくなった。

 仕方あるまい!」


「……」


「でもあれだ!

 如何わしいことが出来ないように、

 ちゃんと風吹用の部屋を契約してやった」

 

「……そうか」


「一応、京都とこっちの行き来を考えて

 駐車場も契約してある。

 朧車を常駐させているので、京都に住みながら

 こっちの学校にも毎日通えるわけだ」


「……」



 なまはげは口には出さなかったが、

 兄の嵐が家を出て行った理由が、

 この父親にあるのではないのか?


 ――ふと、そう思った。



 ――――――



「もう行くのか?」


「あぁ……。

 秋田をこれほど留守にしたのは初めてだ」


「今度、風吹を向かわせる。

 また稽古をつけてやってくれ……」


「ふふっ、楽しみにしておく」



 なまはげが踵を返し、屋敷を出ていこうとした。


 すると、

 何かを思い出したように歩みを止め、

 振り返らず話し始めた。



「地域主の緊急会合に集まった

 連中から耳にしたのだが……」


「?」


「西日本の方で、

 身の丈を超す禍々しい大剣を持った者が

 厄災の限りを尽くしたとか……」


「……まさか!」


「嵐かどうかは知らん……ただ」


「なんだ?」


「厄災を止めに入った団三郎狸殿がやられたそうだ」

 

「……団三郎狸が!

 やられた!?」



 驚きのあまり、

 硬直してしまった。



「かろうじて生きてはおられるようだが、

 会合は欠席されていた――」


「……」



 そう言い残すと、

 なまはげは去っていった。


 姿が見えなくなった後も、

 鎌切は立ち尽くしたままだった。


 なまはげがここに立ち寄った理由――


 それは、

 かまいたち一族の長なら

 知るべき情報だと察して

 伝えに来たのだ。


 

 もし、厄災の正体が嵐なら――


 

 一族の長として、

 父として、

 鎌切風善《かまぎりふうぜん》

 が出なければならない。





  

 

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