77話 兄の力と神の力
「風吹!
無事か!」
「先生っ!」
「良かった!
元気そうだ!」
社は朧車から飛び降りた。
「先生! 先生! 先生!
先生! 先生! 先生!」
「自己主張が激しいな。
一回呼べば十分だよ」
「助けに来てくれたんだな?」
「もちろん」
風吹と社の傍で、
金鬼丸に串刺しにされた捕食竜の姿は消え、
顔を歪める八岐大蛇がいた。
「その人間は京都にいるはずだろ!
どうしてここに!」
「餓者髑髏を差し向けておいて、
『どうしてここに?』はおかしいだろ……
こっちだってやられたままじゃいられないよ」
社は風吹の前に立ち、
手をかざして唱えた。
『解印の式』
風吹を捕らえていた5重の結界と
封印陣が消えていく。
「先生、助かったよ」
「遅くなって、すまなかった」
「いいって。
先生が来てくれたら、
勝ったも同然じゃん!」
「いやいや……
油断はいけないよ」
「?」
「京都で餓者髑髏を倒すのに、
酒呑童子の力をすでに使ってしまってね。
学校に結界張ったり、骸の集団と戦ったりで
呪力を随分と消耗したんだ」
「そうなの?」
「極めつけに、さっきの
金鬼丸を召喚して、
酒呑童子に投げてもらうのに
残っていた鬼気も使い切ってしまった……」
「大丈夫!
わたしがなんとかするからさ!」
「戦況を簡単に教えてくれないか。
それと、その大剣をどうして風吹が
持っているのかも気になる」
「えーっとね、
それはさ。
あいつが火とか吐いたり、
身体を硬くして、いっぱい食べて、
結界張って、術をパクって、
復活したら強くなって
にいにが助けてくれたんだよ」
「……全然わからん」
「なんでよ!」
そのやり取りを見ていた店長が
説明する。
「あれは八岐大蛇。
今回の悪巧みの親玉や。
致命傷与えたら、すぐに再生して
受けた攻撃より強くなって復活しよる。
鎌切はすでに2回勝ってるけど、
1発で確実に仕留めなあかんから
苦戦中なんや」
「さすが土蜘蛛だ。
説明がわかりやすい。
で……なぜ封印されてるんだ?」
「ええとこ気がついたな。
今度お礼するから、
この封印陣解いてくれへんか?」
その時、
八岐大蛇が大声を上げた。
「どいつもこいつも邪魔ばかりしやがって!
どうしてかまいたちごときに、
こんなにも手こずっているんだ!
土蜘蛛ですら簡単に押さえ込んだのに!」
いよいよ冷静では
いられなくなったようだ。
酒呑童子が社に語り掛けた。
『八岐大蛇か
久しいな……』
『随分ややこしい相手みたいですね』
『一撃で殺せばいいだけのことだ。
大した問題でもない』
『酒呑童子の力なら可能でしょうが、
今日はもう、限界近くまで
使ってしまいましたし……』
『風吹に仕留めさせればいい。
経緯は知らんが兄の大剣を
持っているようだ』
『えぇ、
そこが一番気になりますよね。
とりあえずアイツを倒しますか』
社は風吹に目を向けた。
「その大剣で、
アイツを倒せるのか?」
「うん、倒せるよ。
ただ進化ってのを
されないか心配なんだよね」
「それなら大丈夫だ」
「?」
「勝つぞ、風吹」
「えっ?」
「まずはお前の大剣で、
アイツをぶっ倒してくれ」
「……うっ、うんっ!」
すると、
風吹は霞の構えをとった。
大剣の先に激しい風が渦巻き始める。
剣先の風がドリルのように回転し、
周囲までも風が巻き込み始めた。
「それって確か?」
「うん。
にいにの最強の技、
嵐気竜——」
「それで決めるんだな」
「これしかないでしょ!」
八岐大蛇は風吹を睨みつけた。
「それを耐えれば、
お前らはもうおしまいだ。
覚悟して撃ってこい!」
風吹を中心に風が逆巻き荒れる。
彼女自体が嵐のようだった。
「ちょっとだけ漢字を変えた!
嵐鬼竜!」
——ズオォォォッ!
すべてを巻き込み散らす
サイクロンとなって、
漆黒の大剣の突きが八岐大蛇を襲った。
八岐大蛇はあえて両手を広げ、
攻撃を真正面から受け止めた。
剣先で激しく回転する風が
八岐大蛇を射貫く。
そしてさらに風吹の全身を覆う竜巻風が
八岐大蛇の血肉を削り細断していく。
「ぐあぁぁぁーっ!」
「これで終わりだあぁぁーっ!」
その竜巻は空を駆け、
地を這い、
八岐大蛇を削り続けた。
「決まれ!
決めてまえ!
鎌切っ!」
——ズバーツッ!
嵐鬼竜は八岐大蛇を
頭部と左肩、左腕だけを残して貫通した。
「しまった!
頭残しちゃったか!」
風吹はすぐさま八岐大蛇に
向き直し、
再度攻撃に移る——
「!」
しかし、
そのタイミングで鬼化が解けてしまった。
「どうして今なんだよっ!」
鬼気、体力ともに限界の風吹は、
漆黒の大剣を振り上げたものの、
膝を着いてしまった。
頭部とわずかな身体だけを残し、
地面に転がる八岐大蛇。
「耐えた!
俺は耐えたぞ!
この勝負、俺の勝ちだ!」
嬉しそうに
勝ち名乗りを上げていた。
再生が始まりつつある。
欠損部分が多いため、
復活には時間がかかりそうだった。
「フハハハハッ。
あとは、回復するまで社から逃げ切ればいい——
アイツも呪力と鬼気をほとんど使い果たしている。
万全ではない」
『八岐大蛇の能力発動を——
すべて禁じる』
「!」
「蛇だけあって、
相手の状態の把握は鋭いよね」
「なっ、何をした」
「一言主神の力で、
お前の能力の発動を
一時的に禁じたのさ」
八岐大蛇の回復が止まった。
怯えたような目で、
社を見上げている。
「残りの力じゃ……
この一言が限界だった」
「先生!」
「カッコ良かったよ。
風吹」
社はこの時を待っていたのだ。
風吹が勝負を決めた瞬間を——
そして、
社の術が確実に決まるこの瞬間を——




