74話 終わらぬ進化
風吹の目の前に、
何事もなかったように
八岐大蛇が立っていた。
「土蜘蛛が、
せっかく教えてくれてたのになぁ……」
「マジかよ。
身体くっついてるじゃん……」
封印陣の中にいる店長が嘆いた。
「せやから言うたやろうが……
あほんだら……」
風吹が店長の方を向く。
「店長ごめん!
言うこと聞いとけば良かった……
てへっ」
「てへっ、ちゃうわ!
何百年も前のことやし忘れてたけど
ようやく思い出したわ」
「!」
「再生や、こいつは再生の能力を持っとった」
「再生って、鳳凰みたいな感じの?」
「そこまですごいもんちゃうやろうけど、
切断くらいなら再生しよるんや!」
「それじゃ細切れにしたら、
いいってことだな!」
そう言うと、
風吹は即座に斬りかかった。
「待てぇ!」
店長の制止も聞きやしない。
——ガスッ!
振り抜かれた鬼切丸が、
首元に当たったところで止まった。
「?」
胸元から捕食竜の口が飛び出し、
風吹を食おうと襲いかかってきた。
風吹は咄嗟に躱して距離をとる。
「刃が通んない?」
「年長者の話は聞けって言われてたやろが!」
「!」
「もう1つの竜の能力が問題なんや!
最後の能力は確か……
進化——」
「進化?
どういうことさ!?」
「要はやられても再生しよる。
しかも復活するたびに進化するんや。
今みたいにさっきまで効いていた攻撃が、
復活してからは効かんのや!」
「チートじゃん!」
「せやから昔の連中は、
倒すではなく封印を選んだ!」
「てことは、鬼切丸が効かなくなったの?」
「今以上の力が必要やってことや!」
風吹が黙って考え込んだ。
「今最後の力って言ってたけど、
これで7つじゃねーの?
火炎竜。
結界竜。
捕食竜。
奪能力竜。
鎧竜。
再生竜。
進化竜。」
「アホか、
目の前の本体入ってへんがな……」
「!」
「その人間体が8体目の竜やがな。
能力は支配……
7つの力を1体で意のままに使いよる」
八岐大蛇が小さく笑った。
「土蜘蛛……思い出すのが遅いよ……
指示を出すのが遅いのも、
リーダー失格なのではないのかい?」
「やかましいわ!」
「もう……このかまいたちに勝ち目はないよ」
「チッ!」
風吹は店長に向かって言った。
「店長、大丈夫だって!
わたし、さらに強くなれるからさ」
「なんやて!」
「この力で麒麟ぶっ飛ばしたんだから!」
そう言うと、
風吹は鬼切丸を鞘に収め、
その柄を胸元に当てた。
すると鬼切丸の顕現は解け、
顔と身体に
さっきまで以上の鬼の紋様が
くっきりと浮かび上がった。
目つきも牙も一層鋭くなった。
風吹の妖気は、完全な鬼気へと
変わった。
「お前……
完全に鬼化してるやないけ……」
「うん!
でもかなり強くなったし、
これで八岐大蛇倒してやる!」
「なんで冷静に喋れんねん?
普通は鬼気に支配されて、
まともではいられへんねんぞ……」
「にいににも、それ言われたっけ……
やっぱりさ、
わたしの心には誰にも負けない
心の刃があるからなんだよ!」
風吹が素手で八岐大蛇に飛びかかった。
「速い!」
——バキッ!
八岐大蛇の顔に風吹の拳がめり込んだ。
「ぶりょ……」
言葉にならない声を出して
吹き飛んだ。
風吹は猛追する。
今は人間体である支配竜が、
7つ全ての能力を統率している。
迫り来る風吹に結界壁を何重にも張った。
しかし、今の風吹はお構いなしに
結界をすべてぶち破っていく。
支配竜は口から大量の火炎を吐いた。
それすら、躱すことなく突っ込んだ。
——ドゴンッ!
インパクト直前。
鎧竜の最大硬質化によって
衝撃に備えた。
——が、
「ぶはあぁーっ!」
えぐるような蹴りがみぞおちに入った。
そこから、
絶え間ない風吹の打撃ラッシュが始まった。
「めちゃくちゃ強いやんけアイツ!
でも、なんで素手やねん!」
八岐大蛇がサンドバッグ状態になっている。
「勝てる……いや、
勝ってるかもしれんけど……
決定打があらへん」
八岐大蛇に反撃のいとまも
与えない攻撃が続く。
「お前、剣士やろ!
格闘術専門ちゃう奴が即席の
格闘術で勝てるんかい!?」
「おぉうーらぁ!」
支配竜の顎を砕くような
アッパーが決まった。
「はぁ! はぁ! はぁ!
よしっ!
これで勝負あったっしょ!」
八岐大蛇の顔が打撃だけで
砕かれていた。
勝負は決まったようなものだった。
——普通の妖怪ならば。
「手を休めるな!
もっと攻めろ!
再生したら厄介やぞ!」
「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!
でもさ……これ以上どう攻めんのさ?」
「殴り続けて地面の砂とわからんぐらい
混ぜてまえ!」
「マジで言ってる!?」
「はよせぇ!」
「わかったよ!」
その刹那——
地面に倒れていた八岐大蛇は
立ち上がっていた。
「あかん!
再生が速い!」
「もう再生しやがった!?
くそっ!
もう一回殴り続けて——」
——ドゴンッ!
大きな衝突音とともに、
風吹が吹き飛ばされた。
「何やて!?」
八岐大蛇は微笑んだ。
「ありがとう、かまいたちの娘よ。
ここに来て、俺は2段階も強く
生まれ変われた」
八岐大蛇は
完全鬼化した風吹の攻撃を受けたうえで、
再生と進化を完了させていた。
「おいおい……
とんでもないことになったんちゃうか?」
「もう俺は……
鬼をも超える力を得たようだ。
これで日本……いや、
世界の連中を恐れる
必要もなくなった。
——感謝するよ」
風吹が立ち上がった。
しかし、足が震えている。
「まずい!
1発で足にきとるやないか!
一旦退け、鎌切!」
「……逃げるわけねーだろ!」
風吹は身体を奮い立たせて
八岐大蛇に立ち向かった。
しかし——
——ズババババババッ!
八岐大蛇の
硬質化した拳による
連打を浴びせられる。
「ぐああぁぁーっ!」
身動きが取れないほどの勢いで
風吹は攻撃を受け続けた。
「さっきのお返しだ!
かまいたち!」
「鎌切っ!」
八岐大蛇は殴り続けながら
土蜘蛛に目をやった。
「助けたければ、助けてやりなよ」
「……クソカスがぁ」
八岐大蛇は攻撃をやめた。
しかし、
風吹は倒れることもできず、
力なく立ち尽くしていた。
「かわいそうに……
倒れ方も忘れたか……」
八岐大蛇は最後に、
無防備な風吹の頭へ
渾身の蹴りを見舞った。
風吹は一言も発することなく
吹き飛ばされ——
民家の壁にもたれかかった。
「鎌切っ!」
すでに風吹の意識はなかった——




