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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第七章 百鬼夜行の夜

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72話 八つの竜と一匹の蜘蛛




 鵺は夜行が死したあとも

 紫雷での攻撃を止めず、

 夜行の身体が炭と化しても

 攻撃を続けた。



「鵺!」


「!」


「もう……死んでるよ」



 雨女の呼びかけで

 鵺は放電を止めた。

 

 両腕で抱きしめていた

 焦げた夜行の屍を押し潰す。


 足元に舞い落ちる炭くずを足で払い、

 夜行の最後を確認した。


 そして鵺は踵を返し、

 立ち去ろうとする。


 雨女は急いで声を掛けた。



「どこ行くの鵺?」


「あん?

 そんなもの次の獲物のとこに

 決まってんだろうが!」


「……そんな呪いまみれの身体で?」


「なんてことねぇーぜ」


 

 雨女は両手を鵺にかざし、

 呪解の術を発動させた。


 呪刀の呪いにかかると、

 一瞬のうちに妖力と体力を

 大量に蝕まれるようだ。


 呪いは早めに解いておくに

 越したことはない。



「半分近くの力しか出せないのに、

 戦いに行くってバカなの?」


「あんな奴ら、

 これくらいのハンデがあっていいんだよ」


「……どういう理屈それ?」


「早く呪い解けや!」


「そんなに簡単にできるもんじゃないよ」


「じゃ、いらね」


「ちょっと!

 ダメだって!

 動かないで!」


「ちっ!」


「ねぇ、鵺……」


「あん?」


「……ありがと」


「何がだ!

 早くしろ!」


「……うん」



 ——————

 


 土蜘蛛は視覚共有で、

 外の出来事を詳しく監視していた。


 圧倒的にこちらが優勢。

 麒麟を撃破し、

 続けて夜行の撃破も確認ができた。



「鵺と手を組みでもしたのか?」


「はぁ?

 組むわけないやろ!

 俺とアイツ、

 おもろいくらい仲悪いんやぞ!」

 

「麒麟に続き夜行までも……

 夜行くらいの犠牲は想定していたが、

 鈴鹿御前からの連絡も途切れた……」


「鈴鹿御前も死んでるんちゃうか?」


「麒麟と夜行。

 こちらの犠牲は2——

 それに対してお前たちは1か……

 想定外だよ」


「?」


「夜行の情報収集に

 大きな齟齬があったようだ」


「ちょい待ち!

 こっちは誰が犠牲になったちゅーねん?」



 若い男性の姿をした八岐大蛇の背中から、

 3匹の竜が現れた。

 

 鋭い目付きで店長を睨みつけている。


 店長もゆっくりと

 戦闘態勢を取る。



「質問に答えんのかい!」


「鞍馬山の天狗さ。

 先程始末したと連絡があった」


「!」



 店長は絶句した。


 

 確かに鈴鹿御前が相手なら、

 年老いた天狗では手に負えない。

 

 冗談として

 聞き流せなかった。



「こりゃ狐と火鳥君が荒れるな……」



 1匹が雄叫びをあげた。



「グオオーンッ!」



 空気が一変した。

 結界を張られたようだ。

 

 視覚共有が絶たれ、

 外部と遮断された。


 

「今更、結界かいな……

 だるいなぁ。

 外の状況がわからんようになったやんけ!」


「他の状況を把握する必要はない」


「そうか?

 鈴鹿御前まで死んどったらどうするねん?」


「勘違いしては困る。

 今回の百鬼夜行は四天王を

 始末するためのものだ。

 他の者たちは俺たちの邪魔ができないように、

 動いているのだ」


「そうかいな!

 ほな、とっとと終わらせてもらうで!」



 店長は両手を合わせた。



「久しぶりに見せたろか。

 この土蜘蛛の――最強最悪の秘術を」


 

 そう言って、店長は右腕を高く掲げ、

 人差し指を天へ向けた。

 暗雲が立ち込め、天から4体の化け物が降り立つ。


 それぞれの額には札が貼られていた。


 岩魚坊主。

 野槌。

 一目連。

 火縁魔。


 いずれも、かつて土蜘蛛が戦った

 大妖怪たちだ。


 彼らは生気のない表情をしたまま

 降り立った。


 

「俺が昔、ぶっ殺した妖怪どもの死体や。

 それを今から糸で操って

 戦わせる。

 

 ——これが、糸傀儡の術や」

 

「……これが噂の術か?」


「死者への冒涜やって、

 えらい軽蔑されとる術や!」


「鈴鹿御前の死霊の術とは

 違うようだ……」


「こいつらは死んどるけどな。

 俺の糸で操ったら、生きてた頃の力で

 戦ってくれよるんや」


「ほう」


「岩魚坊主の術で今から封印したるわ!」


「封印はもうコリゴリだよ」



 糸で操られた岩魚坊主が数珠を掲げ、

 念仏を唱え始めた。


 ジャラジャラと数珠を鳴らし、

 八岐大蛇の前に立ちはだかった。


 すると、

 八岐大蛇の足元に

 封印陣が浮かび上がった。



「そう簡単に封印されてたまるものか」


 

 八岐大蛇は封印陣から

 外れるよう身体を横にずらした。

 

 そこへ野槌が大きな口を開けて、

 凄まじい吸引力を見せながら襲いかかる。


 八岐大蛇は、

 封印陣から出れば飲み込まれてしまう。


 動くも地獄、

 留まるも地獄。



「ならこれはどうだい」



 1匹の竜が、超音波のような雄叫びを上げた。

 

 すると封印陣は消滅し、野槌の吸引も止まった。



「なんや?」

 

「この竜はね。

 さっきの結界を張ってくれた竜さ。

 こいつは結界を張ったり

 敵の術を無効化できる能力を持っている」



 そこに、

 別の2匹の竜が岩魚坊主と野槌に迫る。


 岩魚坊主は再び封印陣を

 発動しようとするが、

 再度超音波を浴びてしまい、

 動きが取れなくなった。


 術を発動できないまま、

 もう1匹の竜に頭から食われた。


 野槌の力で、

 八岐大蛇を丸ごと飲み込もうとするが、

 岩魚坊主を食べた竜の口が

 何十倍にも裂け広がり、

 野槌の頭にかぶりついた。



「飲み込む能力——

 それがお前だけの力だと思うなよ」



 八岐大蛇がそう呟くと、

 野槌は頭から噛みちぎられ

 操作不能となった。



「糸傀儡の術とはこんなものか……

 土蜘蛛の本体が出てきて

 俺と戦っておくれよ」


「ふん。

 思ったよりやるやないかい!

 まだ一目連と火縁魔がおるで!」


「?」



 操作できない。



「なんやて?」


「足元を見てごらん」


「?」



 店長の足元に封印陣が

 浮かび上がっていた。



「これは!」

  

「驚いたろ?

 君が俺にかけようとしていた、

 岩魚坊主の封印陣さ」


「なんやて!」


「俺はね、食った妖怪の能力を使えるんだよ」


「……嘘つけや」



 八岐大蛇はいやらしく笑う。


 そして——


 

 ——ゴオオォォー!



 竜の口から火球が放たれた。

 封印陣の中の店長は、

 糸を網状に張ってなんとか防いだ。

 

 ここはすでに八岐大蛇の結界内。

 その上、封印陣の中だ。


 術が練れない上に、

 立っていることすら厳しい。

  


 さらに巨大な火球が飛んでくる。

 糸で防ごうとするが、

 糸がもう保たない。



「キツイな。

 糸が練れへんとなると、

 ここは一旦退くしかないか……」


「馬鹿だね!

 逃すわけがないだろ」



 4匹の竜が囲む。


 火炎竜。

 結界竜。

 捕食竜。

 奪能力竜。


  

「ありゃ……囲まれたでしかし」


「その焼け焦げた糸で

 どれだけ耐えられるかな!」


 

 冷静に考えて、

 この状況から抜け出すことは難しかった。



「計算され尽くした俺対策やな。

 これはほんまにまずいかも……」


「死んでくれ、土蜘蛛……」



 店長へ向けて、

 特大の火球が放たれた。


 

 ――その時。



 店長の目の前で火球が

 縦に割れるように裂け

 ——消滅した。



「なっ、なんやと!」


 

 店長の前に、

 小さな人影が見えた——


 

「アチチチチチッ!」



 いきなり騒がしい。

 


「あぁぁーっ!

 前髪焦げたぁー!」



 それは鬼切丸を携えた、

 かまいたち——



「お前……

 よくも前髪をやってくれたなぁ……

 絶対に許さないからなぁー!」



 麒麟を倒した勢いそのままで

 やってきた、


 前髪命の——風吹だった。






 

 

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