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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第七章 百鬼夜行の夜

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71話 策士、影に溺れる

 

 


 鵺は刀で刺されながらも、

 しっかりと夜行を両腕で捕らえていた。


 夜行は完全に自由を奪われた。

 

 鵺は夜行に稲妻を流し続け、

 思考と行動を麻痺させている。



「どうあがいても俺からは逃げられんぞ」


「おのれ鵺……

 まさかこんな作戦を……

 お前が!?」



 雷を落として砂埃を巻き上げる直前、

 鵺は雨女に言った。



「……俺の言う通りに動いてもらおうかな」



 そのセリフに雨女は返した。



「なにをすればいいの?」


「簡単だ。

 俺が隙を作る。

 お前は完全に妖気を消して隠れているだけでいい」



 鵺からの指示はそれだけだった。

 それからの雨女は妖気を消し、

 とっさに身を隠しただけ。


 地面に伏せる雨女の眼に

 入ってきた景色——

 それは鵺の姿が

 大きく変わっていく様子だった。


 その変化の行き着いた先——


 それはまさかの雨女の姿だった。

 


 ——ボクに変化した?


 ——どうして?



 疑問に思ったのも束の間、

 その答えはすぐにわかった。


 雨女に化けた鵺が、

 夜行に刺されたからだ。


 戦いのセオリー。

 

 援護系の術師は、

 何としてでも最初に叩いておく。


 鵺は、

 いの一番に雨女が

 狙われるとわかっていた。

 

 だから、雨女に化けて

 鵺が刺されたのだ。


 

 しかし、

 これで確実に夜行を

 捕まえることができた。


 肉を切らせて骨を断つ——


 まさにこのことだった。


 夜行は策士。

 

 その策士に、

 鵺は策で押し勝ったのだ。



 ◇◇◇◇◇◇



 俺より強い化け物は

 たくさんいる。

 

 そんなことは

 わかり切っていたことだ。


 だが、

 戦いとは勝つための方法を

 考えることが何より重要なのだ。


 まず標的との相性を見ること。


 そして情報収集。

 

 標的の弱点、戦法、癖を調べ抜く。


 標的が誰かと戦う場を見ることは、

 最大の情報獲得の機会となる。

 

 だからこそ鵺がかまいたちの娘と

 戦った時は、

 莫大な情報を得られたのだと思った。


 俺はとにかく相手を見る。


 観察を続ける。

 

 そして最善の作戦を立案する。


 それこそが

 俺の最大の武器であり

 仕事だと思っている。



 数百年前、妖怪たちの会合で

 四天王を選ぶ際、

 八岐大蛇と鈴鹿御前が

 落選したことに納得ができなかった。

 

 戦争に参加もしていない

 九尾の狐と酒吞童子の選考には

 特に納得がいかなかった。


 数々の妖怪を

 この眼で観察、分析し続けてきたのだ。


 八岐大蛇と鈴鹿御前が

 選考から漏れるなどおかしなことだった。


 特に鈴鹿御前は、

 九尾の玉藻御前がいるから

 不要との判断だった。


 女型の妖怪、

 名称に御前が付く化け物は

 ふたりもいらない——

 

 それが周囲の本音だったのだろう。



 八岐大蛇は封印されているため、

 異国の化け物たちへの

 牽制にならないというのが落選理由だ。


 ならば封印を解除すればよいと

 進言したが取り上げられず、

 苦渋を飲むことになった。


 だからこそ

 俺は八岐大蛇の解放へ

 全力を費やすことを生きがいとした。



 何百年経ったであろうか。



 俺は四天王が不在になったこの国を

 憂いた。


 新しい四天王を立ち上げたいと考えた。


 異国の連中に攻め入られた時の

 惨めさは今でも忘れられない。



 

 その頃に出会ったのが、

 かまいたち一族の長である

 鎌切風善だった。


 風善から、息子の剣術の指導を

 頼まれたのだ。



 ——嵐は天才だった。



 俺は、

 嵐という妖怪に惚れ込んだ。


 新四天王を立ち上げた時、

 一角を担うのは彼しかいないと

 心から思ったものだ。


 嵐は俺の思想に理解を示してくれた。


 時間はかかったが、

 麒麟、鈴鹿御前と仲間が揃ってきた。

  

 八岐大蛇が封印されし場所と

 解除する方法を麒麟より聞いた時は、

 たったひとりで、その場所まで出向き

 解印の儀を行った。

 

 

 八岐大蛇の復活は見事成功。

 これで新四天王はすべて揃った。


 

 しかし、

 八岐大蛇が入って以降、

 調和が乱れ始めるのだ。


 平和をもたらすための

 新四天王。


 しかし、

 八岐大蛇は

 恐怖による日本妖怪の統制へと

 舵を切り始めた。


 その異変に、

 嵐は気づいた。


 俺に進言をしてくるまでになった。


 だが、

 その頃にはもう八岐大蛇の

 恐怖政治は、新四天王内にも

 侵食していた。


 麒麟と鈴鹿御前は、

 組織というものに興味がなかった。


 ただ、

 この国を他国の好きにはさせない、

 その思いだけは同じだった。



 嵐の葛藤に気づいていながら、

 俺はなにもできなかった。


 日本を守るために

 動いていたはずの俺は、

 いつしか、

 己の命を守っていたような気がする——



 嵐のとった行動には、

 理解ができた。


 家族を守ろうと、

 奴なりに必死に戦ったのだ。


 それなのに俺は、

 方向性が変わっていることに

 気づきながら、

 俺を慕ってくれた者が悩んでいることにも

 気づきながら

 

 すべてに蓋をしたのだ。

 

  

「お前が新四天王4体目で良いではないか。

 なぁ夜行」



 八岐大蛇が突然言い出した。

 

 嵐の後釜だった。



 俺はその話を拒んだが、

 鈴鹿御前と麒麟も

 俺で良いと言ってきた。



「強さだけでもないだろう……

 お前にはあらゆる事柄を

 分析する眼があり、

 戦法を考える知能がある。

 充分に新四天王への

 資格があると思うが」



 俺が新四天王……。


 時間はまだある。

 嵐に代わる妖怪が見つかるまでの

 暫定でいればいい。


 あくまでも俺は暫定なのだ。


 

 俺は戦力として

 存在意義があるとは思っていない。


 しかし、

 俺には俺の役目がある。


 八岐大蛇を中心とした組織を作ることだ。


 流浪の化け物に声を掛けて

 使い魔を増やす。


 鈴鹿御前と麒麟に組織的行動を教える。

 

 八岐大蛇を支えるために、

 組織の舵を取る——


 それこそが

 俺の役目なのだ。



 嵐を亡くしたことは

 心に深い傷を残した。


 しかし、

 歩みは止めるわけにはいかない。


 計画は順風満帆に進んでいる。


 そして今夜、

 いよいよ我らが新四天王として

 君臨するための

 百鬼夜行を起こす時を迎えたのだ——


 鈴鹿御前は妖狐と戦いたいようだったが、

 天狗の住む迷い家攻略を頼んだ。

 

 誰が出向いても同じだろうが、

 天狗は御前と相性が悪い。


 そう判断した。


 相手の弱点まで細かく分析した采配だった。



 俺は気付けば、

 暫定のつもりが

 四天王のひとりとして行動をしていた。


 俺にも憧れがあったのだろうか——


 四天王という存在に。


 俺が認めた最強の者達と

 並び立つことに、

 喜びを感じていたのだろうか。


 彼らと一緒にいれば、

 すべてが計画通りに運ぶ。


 土蜘蛛討伐を

 目的とした今回の百鬼夜行も、

 滞りなく完了するはずだ。



 我らの完全勝利で——。



 恐れるものは

 八岐大蛇以外、


 何もないのだから。



 ――――――



 そして今。



 夜行の思い描いた

 計画は崩れ出していた。


 四天王と呼ばれる者たちへの

 分析を見誤っていたと

 言わざるを得なかった。



「鵺よ!

 ここで俺を倒したからといって

 いい気になるなよ。

 八岐大蛇と鈴鹿御前が

 必ずお前を駆除してくれるわ」 


「そうかよ」


「八岐大蛇、鈴鹿御前、麒麟よ!

 俺の意思を継ぎ、

 お前たちの手で必ず

 四天王の座を奪い取ってくれぇ!」



 ——バチバチバチチチッ!



 鵺は夜行を抱え込んだまま、

 全身から紫雷を放ち続けた。


 鵺の身体と、夜行の身体は

 直視できないほどの

 眩しさに包まれる。

 

 スパーク音が鳴り響き、

 漏れた雷が鞭のようにしなりながら

 周囲へ飛散した。


 雷撃を受け続ける夜行は、

 声を発することもできず——


 

 絶命した。



 新四天王、夜行


 

 ——ここに散る。




 


 

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