↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第七章 百鬼夜行の夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/80

69話 御前はもの思ふ (前編)


 

 わらわは生まれた時から

 妖力が異様に高く、

 女神、天女、鬼姫など、

 さまざまな名で呼ばれてきた。



 この世に生まれ落ちた

 理由などは知らない。

 

 どの妖怪とも同じで、

 気が付けばそこに居て、

 気が付けば

 今のわらわになっていた。


 遠い昔——

 いつの日かその山で生まれ、

 長い間その山の中で過ごしていた。


 ある時、

 山の麓にある村を荒らす狢を煩わしく思い、

 駆除したことがあった。


 わらわの都合でしたことだったが、

 村人がいたく喜び、

 わらわを女神や天女として祭り上げた。


 その頃から人間は、

 問題ごとがあれば

 遠方からでも鈴鹿山まで足を運び、

 わらわにすがった。


 海を荒らす化け物を

 退治してほしい。

 

 乾季が続き、農作物が育たないので

 雨を降らしてほしい。

 

 母の病を治してほしい。


 人はわらわへ数多の願いを

 祈り求めてきた。


 わらわは妖怪の中でも

 突出して能力が高いと自負していた。


 供物の内容次第ではあるが、

 その力をもって

 できる限り人間の声に耳を傾けてやった。


 いつしか鈴鹿御前と名付けられ、

 人妖問わず

 名が知れ渡るようになっていった。


 見方によっては、

 わらわの存在を邪と

 見る者もいたようだ。

 

 陰陽師や祈祷師が

 わらわを払いに来たこともあった。


 しかし、

 そんな連中はすべて処分してきた。


 そのせいで鬼姫、鬼女とも

 呼ばれるようになった。


 呼び名などどうでもよい。

 

 わらわは妖怪らしく、

 好きなように生き、

 好きなことをするだけなのだ。



 ――――――



 住み慣れた鈴鹿山を離れた頃、

 巷では妖怪も徒党を組み、

 派閥を作り、

 人間同様に

 領地争いのようなことを

 始めていた。


 その頃から、わらわのように群れに属さぬ妖怪を、

 流浪の者と呼ぶようになった。


 

 ——どうでもよいことだ。


 

 徒党を組むなど雑魚どもの所業。

 

 わらわにとって、

 本当に興味のないこと。


 興味があることといえば、

 妖怪で誰が一番強いのか――


 それくらいだった。


 その問いに、

 あの頃は誰もが声を揃えて言っていた。


 それは鈴鹿御前だと。


 わらわを見れば、

 あらゆる妖怪が跪くか、

 一目散に逃げた。


 

 それが心地よかった。


 

 当時は最強の妖怪として、

 わらわと八岐大蛇の

 2強だと言われていた。

 

 八岐大蛇には少々興味があったが、

 こちらから力比べを申し込むなど、

 無粋なことはしたくなかった。


 しばらくすると、

 麒麟、鵺、土蜘蛛、赤舌、だいだらぼっちなど、

 数多くの化け物の名が

 巷を賑わせ始めた。

 

 その時も、

 わらわは特に意識することはなかった。



 しかし、

 ある日突然、

 その名が日本中を駆け巡った。



 ――九尾の狐。



 美しい女の姿をした、

 とてつもない強さを持つ妖怪。

 森羅万象を操る化け物。

 人や化け物の心身までも

 自在に操る物の怪。


 その強さには、

 八岐大蛇、麒麟、土蜘蛛、

 赤舌、だいだらぼっちですら

 及ばない。


 もちろん鈴鹿御前も……。


 その九尾の狐には、

 もうひとつの名があった。



 ――玉藻御前。


 

「……気に入らぬ」



 不快で、不愉快。

 わらわは見たこともない者に

 嫌悪感を抱いた。


 一度この眼で見てやりたい。

 

 そして、

 どちらが本当に強い妖怪なのかを

 知らしめたい。


 長い間、

 そう思い続けてきた。



 八岐大蛇が人間と妖怪の手によって

 封印されたとの話が広まった。

 

 そんなことはどうでもよい。


 赤舌が人魚の主を怒らせ、

 水妖怪たちの手により葬られた。

 

 知ったことではない。


 だいだらぼっちが

 黄泉の国へ自ら還っていった。


 それすらどうでもよいこと。



 ——どうして



 どうして、

 九尾の狐を殺した話や、

 封印した話が流れてこないのだ?


 わらわは日に日に

 九尾の狐への憎しみを募らせていった。



 ――――――


 

 大陸から来た妖怪たちとの

 戦争があった頃。



 八岐大蛇、赤舌、だいだらぼっちが不在の中、

 日本の妖怪たちは劣勢を強いられた。


 もちろん、わらわは参戦し、

 死霊の術で数多くの侵略者を始末した。


 派閥を作っていた妖怪たちは、

 やはり群れることでしか

 強さを保てぬ連中。


 大陸の連中にはまったく歯が立たず、

 逃げるか、殺されるかのどちらかだった。


 数を相手にするのに、

 わらわの死霊の術は効果的だった。

 駒は無限なのだから。


 西の方では土蜘蛛が、

 わらわに似た術で

 活躍していると情報が流れていた。

 

 空を駆ける霊獣麒麟も、

 敵を一網打尽にしていると

 知れ渡っていた。


 それでも敵の圧倒的な数に押され、

 日本の敗戦が濃厚になった頃。


 日本に一閃の雷が走る。



 ――鵺の参戦だ。



 紫の稲妻が列島を駆け抜け、

 過ぎ去った後には

 焼け焦げた侵略者の死体の山が残った。


 あまりの強さに、

 鵺は戦争を終わらせた立役者だと

 語られるようになった。



 ——解せぬ。

 

 どうしても解せなかった。

 

 どれほど考えても解せない。


 鵺や土蜘蛛なら、まだわかる。


 しかし、

 なぜだ?


 なぜ戦争に参加すらしていない

 玉藻御前の名が四天王候補に挙がった?



 戦争をきっかけに対立していた

 派閥がひとつにまとまり、

 各地に主が選ばれ

 会合が開かれるようになった。


 その中で大陸の侵略を抑止するため、

 日本を代表する最強の妖怪を

 掲げるという案が出た。


 象徴。

 国の顔。

 最強の証。


 代表4体を選び、

 四天王と名付ける。


 結果はほぼ満場一致。


 ――九尾の狐、酒呑童子、鵺、土蜘蛛。



 そこに鈴鹿御前の名は無かった。

 

 九尾と酒呑童子は

 参戦した記録すらない——


 あの108日間の戦いで、

 何をしていたかも定かでない

 ふたりが選ばれた。



 わらわは戦ってやった。

 

 この国のために。

 

 無能な連中のために。



 それなのに。


 なぜ玉藻御前なのだ。


 始末してやろうか。

 

 殺してやるぞ、

 九尾の狐。


 わらわの望みはただ一つ。



 ――玉藻御前の抹殺。



 いつしか、

 それだけが心を塗り尽くしていった。






 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。