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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第七章 百鬼夜行の夜

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68話 再び嗤う雷鳴


  


「鵺よ!

 なぜ雨女などと連む?

 こんなゴミ同様の妖怪など不要だろう!」

  


 夜行が影に身を隠しながら問う。

 

 その問いに鵺は答えず、

 声のする方へ雷を放って威嚇した。


 そして鵺は

 雷光の如き速さで飛び回り、

 雨女の耳元で言った——



 「動けるようになったら、すぐに消えろ」

 

 「!」



 間違いなかった。

 鵺は雨女を庇っていた。


 彼女が回復する時間を

 作ってくれていたのだ。



「おい!

 影の中に逃げてねーで

 かかって来いよ!

 勝負にならん!」


「逃げているのはお前だ、鵺!

 俺の影憑きの術と

 この刀を恐れて

 近付けないでいるではないか!」

 


 ふたりは距離を取り、

 対峙している。

 

 互いの間合いに引き込もうと

 挑発しながら様子を見ていた。


 今思えば、

 鵺の攻撃は最初からどこかおかしかった。

 

 拡散系の稲妻を多用し、

 夜行を攻撃するというより、

 夜行の動きを封じているように見えた。


 それに大技は使わず、

 常に視界が遮られないようにしている。


 雨女を守るためだったのか?

 それとも、

 夜行と戦うための戦術なのだろうか?



 ——戦闘狂の鵺。


  

 彼女は鵺が真正面から

 夜行に突っ込まないことだけを

 心配していた。


 

『鵺……聞こえる?

 鵺ってば!』


『あん?』



 雨女は念話で語りかけた。


 夜行には聞こえない。



『ごめん。

 ボクが回復するまでの時間稼ぎを

 してくれてるんだよね?』


『念話する暇があるなら帰れよ!

 邪魔なんだよ』


『邪魔なのはわかってる……

 ボクを庇いながらじゃ、

 本気出せないもんね』


『あんな雑魚に本気出さねーよ!

 俺は夜行とあの刀にはイラついてんだ。

 話しかけるな!』

 


 機嫌が悪い——

 

 だが呪刀に気づき、

 警戒していることはわかった。



『あの刀の呪いは危険だよ!』


『わかってるわい!』


『体力と妖気を半分くらいまで

 削り取る呪いをかけてくる』


『そういえばお前……。

 あの刀にやられたはずなのに

 呪いが解除されてるじゃねーか?

 自分で解除したのか?』


『えっ……。まぁね。

 呪い解除や回復など

 支援系がボクの得意分野でしょ……

 って、鵺は知ってるじゃん!』


『……そうだったな』


 

 鵺は少し黙った。


 そして、

 雨女の方へわずかに顔を向けた。

 


『ずいぶんと喋れるようじゃねーか?』


『おかげさまで。

 呪いが解けたのが大きいよ。

 回復に集中できてるからさ』


『なら、とっとと行けや!』


『ボクも……

 ボクも何か手伝えることないかな?』


『ねーよ、バカッ』

  


 互いに己の間合いへ

 相手を引き込みたい。


 夜行は鵺のスピードに

 対応できず防戦一方だ。


 だが鵺も攻撃を繰り返しながら、

 夜行の術と武器を警戒しているため

 踏み込みが甘く、決定打に欠けていた。


 このままでは戦いは長引くだけだった。



「!」


 

 突然、

 鵺の方から雨女に話しかけてきた。


 

『おい!』


『……なに?』


『動けるのか?』


『少しなら……』


『手伝えることないか?

 とか言ってたな!』


『うん……

 アイツ厄介な妖怪だしさ。

 鵺って、ああいう敵は苦手そうだし?』


『苦手じゃねー!』

 

『ごっ、ごめん!』

 

『……そうだな。

 それじゃ、今から俺の言う通りに

 動いてもらおうか』


『?』



 その瞬間、

 鵺は四方八方に紫雷を放ち、

 砂埃を巻き上げた。


 先ほどまでは相手を見失うような

 攻撃はしなかった。


 大小の雷を落とし、

 広範囲に砂埃を生じさせている。


 雨女の姿を、

 夜行から隠すように。


 だが砂埃が広がれば、

 光が遮られ、影の範囲も広がる。

 

 影憑きの術はかけやすくなり、

 夜行にとって有利な状況になる。


 普通なら、

 明らかに間違った攻撃。


 夜行はこの好機を

 絶対に逃すはずがなかった。


 影へ溶け込み、

 影憑きの術を虎視眈々と狙う。


 夜行はどちらから

 殺しにくるのか――


 鵺か?

 

 それとも支援系の雨女か?



 ——どっち!?



 夜行が砂埃によって生まれた影に

 身を潜め、動き出した。


 

 「!」

 

 「カハッ……」 



 夜行の呪刀が、

 雨女の胸を背中まで貫いた。


 血が地面に流れ落ちる。


 砂埃の中、

 先に狙われたのは鵺ではなく、

 雨女だった。



「……やはり……

 ボクから狙ったか」


「恐れるに足りん妖怪だが、

 その解呪と回復の術は厄介だ」

 


 夜行はさらに刀を深く差し込む。


 刃を回転させ、

 上へ振り抜くつもりだ。


 雨女は、

 そうはさせまいと、

 夜行を抱きしめるように

 必死にしがみついた。



「この呪刀ムラマサは、

 斬った者に強力な呪いを付与する

 逸品だ——

 しかし、お前はその呪いを解除できる。

 先に始末しておくに限る……」


「……」


「雑魚だと思っていたが、

 お前はかなり上位の

 援護術師だったようだ」



 夜行は周囲を見渡す。



「妖気を消しているのか?

 鵺の気配が感じられない」



 その時――。



 砂埃の隙間から人影が見えた。



 ——鵺か?



 「!」



 いや、違う。


 

 目の前の影は――


 

 雨女?



 砂埃の向こうに、

 もうひとりの雨女が立っていた。

 

 夜行の視界には、

 ふたりの雨女が映っている。



「なぜ?

 なぜ雨女がふたり——?」



 夜行は違和感を覚えた。

 

 しがみつく雨女の力が、

 徐々に強くなっていく。


 呪刀を突き刺しているはずの

 雨女の息遣い。


 苦しんでいるはずなのに――



「くはっ……くっ、

 くっ……くくく……」



 笑っているように聞こえた。

  


「!」


「くぁーっ!

 はっはっはっはぁー!」



 突如、

 目の前の雨女が高らかに笑い始めた。



 「雨女、お前は!」


 「やっと捕まえたぜぇー、夜行!」



 姿が変わっていく——

 

 深い紫の獣の肌が現れる。



「お、お前は……鵺!

 ……なら、あっちの奴は!?」


「……あっちが本物の雨女だ」


「!?」



 鵺はすべてを把握していた。

 

 夜行が、

 必ず雨女を先に狙うことを——


 だからこそ

 砂埃を巻き上げた。

 

 雨女には、

 気配を完全に消すようにだけ

 指示を出した。


 そして鵺自身が雨女に化け、

 夜行を誘い込んだのだ。


 

 鵺は両腕で夜行を拘束した。



「おのれぇ!

 鵺ぇー!」


「もう逃がさねーぞ!

 ゲハハハハハハッ!」



 夜行に逃げる隙など与えない。


 

 ——雷が、影を捕らえた瞬間だった。






 

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