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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第七章 百鬼夜行の夜

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64話 怒れる稲妻


 


 影留めの術——


 妖気の通った武具を相手の影に差し、

 動きを止める。


 雨女は、夜行に動きを封じられていた。


 しかし、

 雨女は陰の術の使い手であり、

 結界張りや回復術などを得意としている。



『解印の術!』

 


 影留めの術を解いて逃げる。



「はぁ、はぁ、はぁ……

 なんでこんなことに……

 まずいよ……」

 


 夜行から逃げるだけでも一苦労だった。

 しかも50体ほどの配下まで連れてきている。

 

 夜行の戦闘は、

 相手の命を奪う剣術を軸に、

 影を使った暗殺術でそれを補助するものだ。


 まともに立ち向かっても

 勝てるわけがなかった。

  

 そして、雨女は気付いていなかった——


 一度夜行と触れた際に、

 影憑きの術を掛けられていることに。


 雨女がどこに逃げようが、

 夜行は雨女の影の中へ

 飛び移ることができる。


 いつでも影から雨女の身体に

 刃を向けることができるのだ。



「……迂闊だった。

 取り憑かれちゃってるよ……

 早くこの術も解かないと——」



 この術を解くには、

 解呪の術を唱える必要がある。


 しかし——


 

「?」


  

 うまく術が練れない。



「どうして?

 それに、身体が重い……

 思うように動けな——」

 


 雨女の足元の影から、

 刀が飛び出し雨女を襲った。



 「がはっ!」



 回避できなかった。

 確実に急所を狙って攻め立ててくる。


 八方塞がりの雨女にできることは、

 回復の術で自らの傷を癒すことだけだった。


 その回復術も、

 うまく術が練れないせいで

 効果が弱い。

 

 夜行の刃が、

 雨女のアキレス腱を切断した。



 「あぁ!」



 立つことも封じられ、

 転んだ雨女の首を、

 再び影の中から飛び出した刃が貫いた。



 「カフッ……!」



 息ができない。

 声も出せない。


 そこに夜行が、

 雨女の影から姿を現した。



「弱いな。

 あまりに弱い、話にならん」


「かっ……こ……」


「風吹を担当する予定だったが、

 鵺の妖気を感じたため馳せ参じたのだが……」


「がふっ!」


 

 雨女が大量の血を吐いた。


 

「来てみれば、

 鵺は麒麟の方に向かったと……

 思うようにはいかぬものだな」


「……くっ!」


「惨めだな」



 雨女は、

 刀が突き刺さっている喉に

 回復の術を掛けながら、

 刀を抜こうとしていた。

 

 息ができず意識が飛びそうになるが、

 こんなところで死ぬわけにはいかない。



 夜行が、

 雨女へ顔を寄せてきた。



「雨女よ、

 俺が黙って見ていると思うのか?」



 腹部に激痛が走った。


 その状態から、

 雨女は蹴り飛ばされた。

 

 喉に刀が突き刺さったまま、

 壁に叩きつけられる。


 力がまったく入らない。

 妖気も乱れ、

 コントロールができない。


 夜行の刀は、

 普通の刀ではなさそうだ。


 斬った者に、

 呪いを付与する妖刀。

 


「お前たち、殺すなり喰うなり好きにしろ」



 夜行の許可が出ると、

 使い魔たちが笑いながら近づいてきた。



 ——ここまでか。


 

 雨女は、

 こんなところへ連れてきた鵺を恨んだ。


 しかし恨んでいる間もなかった。 

 今から殺されるという恐怖。

 

  

 ——走馬灯だろうか?


 

 彼女は、 

 こんな状況が

 以前にもあったことを思い出していた。


 それは数百年前のこと。

 

 彼女の一族がひでり神の侵略で

 皆殺しにされそうになった時のことだ。


  

 そうだ、

 あの時に——



「ふふっ……」


 

 雨女は、

 ありえない奇跡を想像して

 笑ってしまった。


 

「……無念だなぁ」



 ――――――



 土蜘蛛と八岐大蛇。

 

 両雄は向かい合い、

 数百年ぶりの再会を喜び合っている――



 はずがなかった。



「何考えてんのお前?

 っていうかなんでここにいんの?

 封印されてたんちゃうの」


「夜行がね、封印を解いてくれたんだ」


「あぁ、

 あの根暗の夜行か。

 アイツは昔からお前のこと慕っとったもんな」


「持つべきものは友達だね」


「妖怪が友達って……あほか!」


「土蜘蛛も友達多いのだろう?」


「おらんわ、そんなもん!」


「ならどうして、

 俺を目の前にしながら

 他の連中の様子を

 ずっと気にしているんだい?」



 店長は八岐大蛇と相対しながら

 視覚共有を試み、

 皆の安否確認を行っていた。


 しかし、

 結界の中にいる煉や風吹の

 確認ができないでいる。

 

 それでも店長は、

 偵察用の使い蜘蛛から

 周辺の妖気の流れを読み取っていた。


 

「?」

 


 ひとつ、

 見慣れない妖気が消えつつある。


 

 ——土蜘蛛にとって未確認の妖怪。


 

 そう遠くない場所。

 

 複数の化け物の妖気。

 

 そのうちの1体はかなり強力な妖怪。


 そこも結界内のため、

 視覚共有が途切れる――



 誰がいる?

 

 かなりの妖力。


 そして、 

 誰がやられている?



「この俺を前にして、

 集中できていないね……

 お友達の安否を気にしてるのかな?」


「えらい数の妖怪連れて来やがって、

 ヘタレのくせに生意気抜かすな」


「どんな小物相手でも全力で潰す。

 それが我らのやり方だよ」


「西に死にかけてる妖怪がおる。

 弱いもんいじめるような連中に、

 誰がついていくねん」


「ついて来なくていい。

 ついてこなければ殺される。

 その恐怖を覚えさせればいいんだよ」


「お前、あかんリーダーの考え方やな。

 それじゃどこのリーダーにもなれへんで」


「リーダーを目指しているわけではない。

 俺はこの国の王になるんだよ」


「ケッ!

 立派な目標やで……」

 

「西の方角は夜行が担当している。

 かまいたちの娘を始末するために

 彼を向かわせたのだが、

 もう、始末できたってことかな?」



「かまいたちは

 俺が東に向かわせた……

 西には行ってへん」


「……?

 なら夜行は誰と戦っている?」


 

 十分な準備をして来たはずだった——


 しかし、

 八岐大蛇が状況把握を

 できていない。


 当初の計画から配置が変わっている?

 

 土蜘蛛は八岐大蛇に警戒しつつ、

 感知に集中した。



 ――――――



 意識が遠のいていく中、

 妖怪たちの息遣いが聞こえる。


 雨女は完全に囲まれていた。


 喰われるのか?

 なぶり殺されるのか?


 なんとか逃げようとしたけど、

 身体が動かない。


 

 ——彼女は終わりを悟った。


 

 目を閉じ、

 すべてを受け入れることしか

 できなかった。



「恨むからね。

 鵺……」


 

 その刹那――


 

 ——バリバリバリバリッ!


 ——ドーンッ!



 大気を揺らすような大きな音。

 

 身体が宙に浮くほどの振動。


 雨女は閉じていた目を

 思わず開けた。


 砂埃が立ち、

 周りがよく見えない。


 誰かがこの結界内に入って来たようだ。



 ——誰?



「麒麟の野郎が見つからねぇから

 戻って来てみりゃあよ!」


「!」


「子分が世話になったみてぇだな、

 こら、夜行!」 



 雨女の前に現れたのは――


 図々しくて

 いつも彼女の結界を壊して、

 迷惑ばかりかけてくるけど——


 四天王の1体で、

 ひでり神から一族を救ってくれて、

 未だに英雄扱いしてしまう、 


 雷を纏う最強の妖怪——


 

 鵺だった。




 

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