61話 百鬼開戦
氷花は牛丸に禁止されている
5本目の尾を発動させた。
氷花の妖力が急激に上昇する。
全身の骨が軋むような音を鳴らしている。
両手を広げ、
狐火で弧を描いた。
その時、
麒麟は口元を歪め、
嘲るように話し始めた。
「爺様のもとへ逃げなさい……か。
私を目の前にして鞍馬山の迷い家へ
逃げ込むつもりか……?
あの天狗の居る場所へ」
「……君には関係のないことさ」
「くくっ。
戻ったところで、誰も生きてはいまい」
「!?」
「天狗のもとへは
鈴鹿御前が向かっている。
もう終わっているだろう。
今、あの迷い家に戦闘タイプは
天狗しかいないようだからな」
迷い家は、
主人である牛丸の許可がないと
入ることすらできない。
異空間妖怪マヨヒガ。
そこに攻め込むなど不可能なはずだ。
「迷い家に入れるわけないさ」
「死霊を扱う鈴鹿御前は、
マヨヒガと同じように
隠世に出入りができる——」
「!」
「すでに位置は特定できていると
言っていた」
氷花の顔が一気に青ざめた。
突然の襲撃。
そして迷い家まで攻め込まれている——
氷花も冷静ではいられない。
「バラバラに動き出した僕たちに
適任の者が送り込まれている。
新四天王が、新しい日本の頭となるための
百鬼夜行か……」
煉はサトリの眼を発動し、
麒麟の心を読み取った。
「ほう、それがサトリの眼の力か。
なるほど妖怪どもが欲しがるわけだ」
氷花が取り乱した声で問う。
「日本の頭になるだって?
そんなもの勝手になっておけばいい!
煉、
爺様も襲撃に遭っているって本当かい?」
「……はい。
本当のようです。
その他にも刺客が向けられています」
麒麟は、ゴミでも見るような眼で
氷花たちを見ている。
威風堂々。
己の力に絶対の自信を持つ者の姿。
「妖狐と元人間は俺の担当だ。
鞍馬山は鈴鹿御前が担当している」
氷花の妖気が膨れ上がる。
「君を速やかに処分する。
わたしは迷い家へ戻らせてもらうよ」
「だから言っている。
お前たちの迷い家はもう終わっていると……」
「うるさい!」
煉は感情的になっている氷花を制した。
「煉、邪魔だよ!
急がないといけないんだ!」
「わかっています」
「なら退きな!」
「氷花さんは朧車で
迷い家へ向かってください!」
「なんだって?」
「こいつは僕が相手します」
麒麟が笑う。
背後の取り巻きたちも
声を上げて嘲笑した。
氷花が怒気を滲ませる。
「わたしより強い相手だ!
君1人でどうにかできるわけがない!」
「でも……
氷花さんは鞍馬山に戻るべきです」
「はぁ!?
君だって麒麟が強いくらいわかるだろ!」
「えぇ」
「それならなおさらだよ!」
「だからこそ行ってください」
煉は爆炎を発生させる、
攻撃特化型の
鳳凰の型を発動させた。
体内の妖気を解放し、全身に炎を纏う。
身体は赤く染まり、熱波が周囲を揺らした。
煉の妖気を直接感じた氷花が、
言葉を失う。
「君、いつの間に
そんなに強くなってたんだい?」
「こいつを倒したら、
僕も迷い家へ向かいます」
「しかし、君を1人にしていけないよ!」
その刹那——
「それじゃわたしが
あんたの代わりにいてやるよ」
「!」
その場の全員が声のする方へと
目を向けた。
そこに立っていたのは
——風吹。
すでに鬼切丸を顕現させて携える、
風吹の姿があった。
「鎌切さん!」
「お嬢ちゃん!?」
風吹は氷花に向かって言った。
「貸し1個だぞ。
これで雪山の借りはチャラだからな」
氷花は無言で朧車を召喚した。
風吹の顔をまっすぐに見つめる。
「かまいたち、
煉を……彼を助けて欲しい」
「安心しなって!
わたしが来たってことは
すべての問題が解決したようなものだから」
「……」
朧車に乗り込みながら
声を上げた。
「向こうが片付いたらすぐ戻る!」
ふたりは小さく頷いた。
朧車は迷い家へと走り去った。
麒麟も取り巻きも、
それを追おうとはせず
見送るだけだった。
「ずいぶん余裕じゃん。
この馬!」
「妖狐が向かったところで
現実は何も変わらん。
奴も向かった先で死ぬだけだ——」
煉は炎を纏った両手を振り上げた。
爆炎が波のように広がり、
麒麟の背後の数十体の妖怪を一瞬で爆殺――
麒麟だけが爆炎の中で立ち尽くしていた。
「……!」
「もう、お前だけになったよ」
「天狗からすべてを受け継いだ人間……。
聞いていた以上に強そうだ」
「新四天王って、
しっかりと情報収集しているんだね」
麒麟の眼が変わる。
威風堂々の余裕が消え、
戦士の眼になった。
「わたしの情報はないのかよ?」
「かまいたち……
お前には夜行が差し向けられたはずだ。
なぜ、ここにいる?」
「夜行?
知らねーよ!
夜行のおっちゃんなんかに会ってないし!」
「嵐の妹……
そうか、もともと顔見知りか。
最初から殺す気がなかったということか?
……夜行」
「夜行のおっちゃんと会えるなら、
文句を言ってやりたかったよ!
おっちゃんが、にいにを連れ出したから
こんなことになったって!」
「ふふっ、土蜘蛛以外は戦いにもならぬと
思っていたが……俺は運がいい」
麒麟と風吹・煉の戦いの火蓋が切られた。
――――――
「成瀬……」
「はい?」
「ちょっとクレーマーが来とる。
出てくるし、店は任せた」
「かしこまりました」
「ほな」
「店長」
「ん?」
「あんまり……
よろしくないクレーマーですか?」
「まぁ、めんどい連中や」
「風吹っちも……
対応に向かってますよね?」
「そや。
俺はそれとは違うクレーマーと会ってくる」
成瀬にそう告げると、
店長は店を出ていった。
知らぬ間に無数の妖怪が
店を囲んでいた。
——人質。
客やアルバイトを巻き込まないため、
敵の誘いに乗るしかなかった。
進むべき道を照らす妖火。
北の方角へと誘われて行く。
店長は確信した。
敵は自分狙いだと——
新四天王の手引き。
そう考えるのが自然だった。
ひとりずつ分断し、
個別に撃破。
しっかりと組織的に
戦略を練られている。
バカの思いつく戦法ではない。
指示を出している者は
夜行だと確信した。
北の方角に、
一層強い妖気を感じる。
店長は誘われる場所まで、
急いで向かった。
しばらくすると店長は、
——その存在の前に降り立っていた。
「はぁ……嫌なもんやな。
ちょっかい掛けて、
仲間やられたら逃げて、
準備できたら総出で仕返しですか?」
「やあ、久しぶりだね」
「昔からしつこい顔と性格してたもんなぁ……
八岐大蛇」
「顔は余計だよ……土蜘蛛」
数百年の時を超えて、
土蜘蛛と八岐大蛇が対峙した。




