56話 雷と雨
それは遥か上空の、
雲の上のさらに上にある結界の中の家。
雨降り小僧は鵺に言われるがまま、
新四天王の動きを観察していた。
「なんか動きはあるか?」
「ないよ」
「そうか……」
——3分後。
「なんか動きはあるか?」
「ないよ」
「そうか……」
——さらに3分後。
「なんか動きはあるか?」
「だからないんだって!
普通、3分ごとに聞く!?」
「一寸先はなんとやらだろ!
3分あればなんか起こるんだよ!」
「起こらないよ!
あぁーっ!
本当に出ていってくれないかな!?」
「お前!
子分のくせに態度がでけーなぁ!」
雨感知——
指定地域に雨を降らせて、
その雨が触れたものから、
人や物を探しだすことができる。
「何かわかり次第教えるから、
とりあえず帰ってよ……」
「遠慮すんじゃねぇ。
俺はここにいるからよ」
「ボクが迷惑しているんだよ!
わかんないの!?
鈍感すぎでしょ!」
「新四天王の動きがあれば
すぐに出ていくって言ってんだろ」
「じゃ、動きなければずっといるってこと!?」
「なんだお前、
嫌そうだな!?」
「嫌なんだよ!
ボクは1人の時間がすごく好きなの!」
「まぁ、俺も1人の方が——」
すると、
突然ふたりの目の前に
鞍馬山の迷い家の門が浮かび上がった。
「なっ、なんなの?
ボクの結界を素通りって!?」
「……天狗の隠れ家か?」
「天狗だって?」
門が開くと、
そこには牛丸と氷花が立っていた。
「久しいな鵺よ」
「けっ!
なんだよ天狗仙人。
急に現れやがって……」
「風の噂で、
新四天王と名乗る連中に
いっぱい食わされたと聞いてな……」
「どこのどいつがそんなこと
抜かしてやがる!」
牛丸と鵺、
面識はあるようだ。
雨降り小僧は、
初対面ではあるが結界を素通りしてきた
牛丸たちに驚いていた。
雨降り小僧の結界を通れる。
すなわち邪気、悪気がないことを
示していることになる。
「どうだお前たち、
こっちに来て少し話さんか?
鵺の好物であるおはぎも用意してあるでな」
雨降り小僧は思った。
——そんなもので鵺が動けば苦労はない、と。
「仕方がねーな。
そこまで言われちゃ化け物が廃るぜ……
子分よ、結界を解いてくれ。
行くぞ!」
鵺が迷い家に向かおうとしている。
「ぬっ、鵺!
そんなにあっさり行っちゃうの!」
「何ぼーっとしてんだよ。
お前も来るんだよ!」
「なんでボクまで!?」
「子分だろが!
来いって!」
もの凄く嫌そうに、
渋々、結界を解くことにした。
鵺が通ると破られるからだ……
結界は、
鵺の邪気と悪鬼にはしっかり
反応するらしい……。
「粒あん以外は認めねーからな」
「どうでもいいよ、そんなこと……」
ふたりは、
迷い家の門を潜った。
——————
迷い家の客間——
「で…… この俺に何の用だ?
内容次第ではすぐに帰るからな!」
客間に置いてあったおはぎを
両手で掴み、
鵺は山盛りあったおはぎを
あっという間に食べ尽くした。
「これだけご馳走になって、
言うセリフじゃないよ……鵺」
「子分は黙ってろ!」
「……」
牛丸は話を切り出した。
「新四天王の狙いはなんだろうかの?」
「この国を
纏めることなんじゃねーの」
「お主はそれについてどう考える?」
「興味ないね。
全員殺すから……」
「奴らには我らも警戒しておるのだ」
「ほう……」
牛丸は姿勢を整え、
まっすぐに鵺を見て言った。
「共に戦わぬか?
鵺!」
「いやだ」
その即答に沈黙が落ちる——
「どうしてだ?
仲間がいれば、
お前も助かるだろう?」
「俺は1人がいい。
仲間はいらん、
必要なのは子分のみだ」
「……」
鵺は立ち上がった。
「帰るぞ、子分!」
「えっえぇ!
もう?」
「ここに用はない!」
「ボクは一緒に戦った方が
いいと思うけどなぁ……」
「つるむなど雑魚がすることよ……」
「でもさぁ、新四天王に
ボッコボコにされて
逃げ帰らなくていいじゃん」
「ボッコボコにされてねぇ!
あれはすべて計算だ!」
「うちに逃げ込んで来たじゃん……」
そこに氷花が口を挟んだ。
「子分の方が、
冷静に状況を把握しているじゃないの?」
「あん?」
「鵺って、最強の妖怪って聞いてたけど
頭は悪そうだねぇ」
「なんだテメェー。
妖狐の分際で偉そうに……」
その場の空気に緊張が走る。
氷花は鵺に対して、
臆することなく妖気をぶつける。
「誰が頭悪そうだと、コラァ!」
「君がだよ。
せっかく爺様が良い話を言ってくれてるのに
理解しようとしない」
「あのなぁ!
俺は常に冷静沈着であり、
的確に物事の本質を見抜く妖怪・鵺よ!」
「鵺がそんな妖怪だなんて、
聞いたことがないねぇ……」
「巷じゃ有名なんだよ!」
そのやり取りを、
雨降り小僧は冷ややかな目で見ていた。
「君の子分さんは、
ものすごく何かを言いたそうだけど……」
「おう、子分!
あの大うつけ者になにか言ってやれ」
すると、鵺の方を見ながら
口を開いた。
「俺は常に冷静沈着であり、
的確に物事の本質を見抜く妖怪——
それって、
誰のことを言ってるの?」
「俺だ、俺!
俺以外で、他に誰がいるんだよ!」
その後の、
雨降り小僧が放った言葉に
一同は震撼する——
「あのさ、
鵺ってボクのこと
雨降り小僧って呼んでるけど
本当は雨女なんだよね」
「!」
「……何百年もの間、
何を見抜いてきたの?」
あれほど勢いよく、
鵺を口撃していた氷花も、
思わず黙った。
「い……いつから雨女になったんだ?」
「バカなの?
ずっと雨女だよ」
「それなら、
雨降り小僧じゃないって
言えよ!」
「言ったよ、200年前に1度
言ったじゃん!
その時も驚いてたじゃん!」
「……」
「……」
「200年前って、お前……
何年前の話だよ?」
「もう、どうしようもない
バカじゃん……」
その言葉を聞いた鵺は、
怒ることもできず
ただ、きょとんと雨女を見ていた。




