54話 旧校舎の妖怪たち
鞍馬山の奥深くに、
牛丸が供養した
妖怪や人間の墓がある。
人間界の墓と違い、
岩を磨いただけの簡単な物だ。
煉はそこにある
1つの墓の前に立っていた。
煉の母親の墓。
妖怪に殺され、
彷徨っていた魂を、
牛丸が供養してくれた。
今日は墓参り。
煉は母親に向かって
手を合わせた。
「会いたいかい?」
一緒に来ている
氷花が声をかけた。
「……少し」
「すごく……
の間違いだろう?」
「サトリの眼で、
母さんの霊体くらい
見えてもいいのに……」
「今はあっちでゆっくりしてるのさ」
「……はい」
目を横に移すと、
真新しく用意された墓が見えた。
——白粉婆の家族の墓。
花と菓子がお供えしてある。
「良かった。
もう墓参りに来られたんですね?」
「その墓ができた翌日には
お嬢ちゃんに朧車を借りて来ていたよ。
すでに、何回来ているだろうか?
数え切れないね……」
「何百年と会えずにいたんだから。
仕方ないですよ」
「羨ましいねぇ……」
「えっ?」
「いや……
なんでもないさ」
氷花は微笑んで去って行った。
煉は、
その背中を黙って眺めていた。
——————
風吹と煉は、
バイトも同じなら、
高校まで同じだった。
本来なら長野県の出身の煉だが、
母を亡くしてからは、
母親の兄に引き取られ、
岩手での生活を送ることになった。
しかも風吹は2年生で、煉は1年生。
風吹は、
自分が上級生だとわかるや否や、
煉に偉そうになった——
「火鳥、わたしにタメ口……
おかしいんじゃない?」
「うん……いえ、はい」
「上級生は敬わないとな!」
「……はい」
「とりあえず、
コーヒー牛乳買ってこい」
「後輩って、
パシリじゃないですよ」
「知ってるよ!
ノリ悪いなっ!」
そんなふたりに
声がかけられた——
「鎌切さん、
1年生をいじめてはいけませんよ」
「!」
振り返ると、
そこには保健室の先生——
に扮した氷花が立っていた。
「なっ……なんでお前が!」
「なんでって、
これがわたしのお仕事ですもの」
「……言葉遣いも違うしよ」
「あまり廊下で騒がないでね」
「お前……。
保健室の先生がさ。
そんな色っぽい格好してんなよ!」
「この白衣のどこが色っぽいの?」
「たっ……
谷間見えてんだよ……」
「見えてるんじゃないのよ……
ペタンコのあなたが、
羨ましいから見てるだけ」
「……!
ムッ、ムキーッ!」
「火鳥くん、
放課後に保健室まで来てください」
「……ちょっと待った!
この淫乱——」
氷花が風吹の耳元に
顔を寄せて呟いた。
「——ペタンコは
騒ぐんじゃないよ」
「!」
そう言うと、
氷花は去っていった。
時間が止まったように
立ち尽くす風吹と、
それを心配そうに
見守る煉を残して……。
「……鎌切さん?」
「はっ!」
「大丈夫ですか?」
「ヤバい。
腹が立ちすぎて
意識を失っていたぜ」
「……器用ですね」
「あんの女狐ぇーっ!」
「喧嘩はやめましょう……
氷花さんには勝てないですよ。
性格、キツイから……」
「うぅーっ!
悔しーっ!」
——————
——放課後の保健室。
「失礼します」
「どうぞ……」
煉は言われた通り、
保健室へやって来た。
「どうして先生を
やってるんです?」
「わたし、学生として過ごすには
色っぽ過ぎるだろう?」
「……確かに」
「保健室の先生が一番都合良くてね」
「先生でも
色っぽ過ぎますけど……」
「ふふふっ」
氷花は微笑んだ。
「……で、
どうして僕を呼び出したんです?
迷い家でも会うんだし、
学校じゃなくても良くないですか?」
「なぁーに。
あれをどうしようかと思ってね」
氷花は、
保健室の窓から見える旧校舎を
指さした。
学校敷地内の片隅にある
ボロボロの建物だ。
耐震性の問題があって、
解体撤去が決まっている。
しかし、
解体工事が始まると決まって、
——事故が起きる。
「あの建物にさ。
しょうけらと……
家鳴たちが住み着いているのよ」
「普段は悪さをしていないみたいだから
放っておいたんですけど……
やっぱりダメでしたか?」
「わたしも問題ないと
思っていたんだけどねぇ……」
「?」
「先日、しょうけらと家鳴たちに立ち退きの
話をしようと、
旧校舎に入ったんだ……。
すると、奴らの妖気に阻まれて
成仏できずにいる子どもの魂を見つけてね」
「それはかわいそうに……
なんとかしてあげないと」
氷花は足を組み直した。
煉は見ていないフリをしながら、
目を凝らして氷花の脚を見る。
「君……
すけべが顔に出ているよ」
「!」
「サトリの眼がなくても、
心って読めるもんだねぇ」
「いえ……
なんとかしてあげたいと
本当に思っていますよ」
「……困った子だよ」
煉は顔を赤らめた。
「今から、
もう一度説得に行くから
ついて来ておくれよ」
「もちろんご一緒します!」
「君がいてくれた方が
安心でね」
「……氷花さん、
そんなお嬢様キャラでしたっけ?」
「違うよ。
話が拗れたらさ……
怒り任せに彼らを殺してしまうだろ?」
「……。
僕もできる限り説得に努めます」
こうして2人は、
日の暮れた旧校舎へと
向かうことになった。
——————
旧校舎の中は、
外から見るより、
明らかに老朽化が進んでいた。
過去の学校統合によって、
古い木製机や、校名の違う卒業制作が
そのまま残されている。
ふたりは廊下を進む。
夕暮れ時ということで、
明かりが入らず一帯が暗い。
暗闇の奥から、
複数の妖気を感じた。
1年3組——
プレートにそう記載された教室前で
足を止めた。
そして——
「しょうけら。
話をしようじゃないか?」
一瞬で空気が重くなる。
もともと暗い校舎内だが、
一層、深い闇に包まれた。
「氷花姫……
しつこいな。
いくらあんたの頼みでも、
ここからは出ていかん」
「工事ができなくて
人間が困っているんだ……
それに、君たちに邪魔されて
成仏できない子どもの霊もいる」
「そんなこと知らねぇよ。
俺らは、人間に悪さをしていない。
立ち退く道理がねぇ」
「困ってるって
言ってるだろう……
頭悪いねぇ……君」
氷花の機嫌が悪くなった。
彼女の予想通り、
速やかに殺気を見せ始めた。




