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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第六章 決戦前夜

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53話 大きな守り神



 草木も眠る丑三つ時。



 小田の住むマンション前の公園に、

 風吹と成瀬が集まっていた。



「ねぇ。

 こんな時間にうろついていたら

 補導されるって……」


「でも小田がやばいかもしれないんだろ?

 店長は泊まりの研修だし、

 見張れるの、

 わたしたちしかいないじゃん!」


「だから、お守りも渡してるしさぁ」


「あんなおっさんのキーホルダーが

 なにのお守りだよ!

 わたしの方が、よっぽどお守りだって!」



 その時だった——



「!」


「どうしたの

 風吹っち?」


「成瀬っ!

 わたしから離れるな!」



 複数の妖気がマンションを

 囲むように集まって来ている。


 ふと、狢の山を思い出す——


 しかし、数は15体ほど、

 風吹にとって、

 恐れるほどのものではなかった。



「来たか!」

 


 突然5体の狒々が、

 声を上げながら

 風吹目掛けて襲いかかって来た。



「いきなりわたし狙いってか!」



 鬼切丸を顕現——


 そして、抜刀——!



「!」



 躱された。



「速い!」



 5体が爪を立てて迫り来る。

 風吹は応戦するが、

 狒々たちの動きは統制が取れており、

 無駄がない。



「なんだよ……

 案外強いのかよこいつら!」



 次の瞬間だった——



「キャァーッ!」



 別の狒々2体に、

 成瀬が捕まった。



「しまった、成瀬!」



 7体の狒々が奇声を上げて笑い出す。



「キーッ! キキッ! キキッ!」


「気色悪い奴らだな、

 わかったよ。

 本気出してぶった斬ってやるよ!」



 すると、

 狒々の1体が、成瀬を盾にして

 彼女の頭を掴んで見せた。


 

「?」



 それは、

 人質であり、

 動けばこの女の首を折る——


 という脅しだった。



「へん、

 折る前に、その腕切ってやるよ」



 風吹は抜刀術の構えをとった。



 ——バリンッ!



 マンションの上階から

 ガラスの割れる音がした。



 風吹は思わず見上げる。


 すると——



「あっ!」



 8体の狒々が、小田を抱きかかえ

 ベランダから、

 飛び降りてくるところだった。



 15体すべてが、

 公園に集まってしまった。


 小田は、

 すでに意識を失っているようだ。


 そして、

 飛び降りてきた奴らもまた、

 小田を盾にし、

 頭を掴んで見せてくる。



「ちっ……

 むかつくな、こいつら!」



 8体と7体、

 風吹を挟むように集まっている。


 何より、

 両方に人質が取られていた。


 片方を助けに動けば、

 もう片方が殺される。


 下手に動けば、

 人質を盾にされる。

 


「くそ……。

 油断し過ぎたか!」



 1体の狒々が前に出てきた。



「その刀を捨てろ……

 さすれば、この人間を解放しよう」


「ああん!

 分かりやすい嘘の取引を

 持ち掛けて来てんじゃねぇよ!」


「嘘ではない……

 その代わり、お前を持ち帰らせてもらう」


「……なんだと?」


「見たところ妖怪。

 この人間より妖気を蓄えている。

 餌としては人間よりご馳走だ……」


「……」



 風吹はこのような状況下でも

 冷静だった。


 ここ最近の経験が、

 彼女を確実に成長させていた。

 

 これくらいの状況なら、

 なんとでもなる——



 風吹は鬼切丸を構え、

 抜刀術で強行突破しようとした。


 ——その瞬間。



「風吹っち!

 わたしを助けて!」


「!」


「カスミンはいいから、

 わたしを助けて欲しい!」


「……お前っ」



 緊急時だ。

 

 誰もが自分の命を最優先に

 守って欲しいと思うだろう。


 しかし成瀬の声は、

 どこか焦っているようでいて、

 不思議と悲壮感はなかった。



「うるせぇな!

 わたしは同時に助ける予定なんだよ!」


「カスミンは大丈夫だから!」


「大丈夫なわけねーだろ!

 自分が助かりたいからって

 適当なこと言うなって!」


「……」


「成瀬!

 お前には少しがっかりだぞ!」



 そう言いながら、

 風吹は成瀬の方へ動いた。


 その動きを確認した成瀬は、

 突然大きな声を出した——



「タラちゃん!

 もういいよ! お願い!」


「タッ、タラちゃん!?」



 風吹が拍子を狂わす。


  

 すると——

 小田の首に掛かっている

 ケンちゃんおじさんのキーホルダーから、

 雄叫びのような声が聞こえた。

  


「ウオオォーンッ!」



 一帯が振動するような声。


 そして——


 不気味に震え始めたキーホルダーから、 

 巨大な蜘蛛の脚が飛び出し、

 一振りで3体の狒々を瞬殺したのだ。


 やがて、その巨大な脚は

 ゆっくりと全身を現した。

 

 風吹の目の前に、

 乗用車ほどもある巨大な蜘蛛が現れた。


 その蜘蛛は糸を吐いて、

 狒々から小田を奪い返した。


 そのまま小田を背に乗せると、

 再び糸を吐き、5体を拘束し


 ——踏み潰した。



「キーッ! キーッ! キーッ!」



 成瀬を人質にとっている

 狒々たちが叫び始めた。

 


「ぎゃあぁぁーっ!」



 狒々よりも大きな声で、

 風吹も叫んでいた。

 

 風吹は

 巨大な蜘蛛の登場に

 誰よりも本気で驚いているようだ。


 成瀬が恐る恐る風吹に声をかける。


 

「風吹っち……

 今のうちに助けてもらってもいいかな?」


「はっ!」



 冷静さを取り戻す風吹。



「お……おぉ!

 当たり前じゃん!」



 風吹は一刀のもと、

 狒々たちを斬り伏せた。



 ——————



 無事、

 小田を助けることができた

 風吹と成瀬。


 しかし、

 風吹は今もなお、

 その巨大な蜘蛛から目を離せないでいた。



「でけー蜘蛛!

 なに食ったら、こんなになるんだよ?」


「彼は店長が使役している

 鬼蜘蛛って妖怪なの」


「そりゃ妖怪だよなぁ……

 こんなの自然界にいたら大問題だもんな」


「お守りの正体って、

 タラちゃんだったの……」


「そう言うことは、

 先に言っといてくれよ。

 さすがのわたしもビビるじゃん。

 あと……

  

 名前可愛すぎだろ……」


「店長には、

 みんなには内緒って言われてたから」


「なんだよそれ!

 ただのお惚気かよ……」



 すると、

 成瀬はタラちゃんの顔に向かって

 手を振り出した。



「……何してんだよ?」


「あはっ!

 店長、絶対にタラちゃんの眼を通して

 わたしたちを見てるから

 手を振っておこうと思って」


「!」



 その後、

 2人は小田を部屋に戻し、

 マンションを後にした。



 ——————



「朝起きたら

 ベランダのガラスは割れてるし、

 カスミン、びっくりしただろうなぁ」


「保険も下りんやろうし、

 俺ならガラス代が一番怖いわ」


「でも、もう変な妖怪も来ないし、

 助かったと思えば……」


「……そうやな。

 そのほうが安いもんかもしれんわ」



 アルバイト先の休憩室の2人。

 

 誰にも聞かせられない会話。



「店長!」


「あん」


「いつも、ありがとうございます」


「ふん、

 バイトを守るのも店長の仕事やからな」


「今回は、

 バイトの友達でしたけどね」


「……あっ、ほんまやで」



 これも、

 店長と成瀬の日常の一コマだった。



 ——————



 社のマンション——


 

「わたしも欲しいー!

 先生に、みんなには内緒だよって

 言われてる秘密ごとが欲しいー!」


「急に何を言ってるんだ?

 学校でなにかあったのか!?」


「わたしもタラちゃんが欲しい!

 タラちゃんの眼を通して

 わたしを見てる先生に

 手を振りたいんだよぉ!」


「訳のわからんことを

 言うんじゃないの……。

 ただでさえ説明下手なんだから」


「だってさぁー!

 お惚気を見せつけて来やがるんだよ!

 悔しいじゃんかぁ!」



 これが、

 風吹と社の……


 日常の一コマだった。 

  


 


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