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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
序章 ふたりはあの世逝きの汽車で出会う

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5話 妖刀・鬼切丸


 


 その場に倒れ込む風吹を支えながら、

 社は小さく呟いた。



《壊れた理よ――もとに戻れ》



 温かな感覚が全身を包む。

 

 遠のいていた意識が引き戻され、

 風吹はゆっくりと目を開けた。

 

 すると風吹の身体の傷が回復し、

 右手に握力が戻っていた。


 

「あんた……何したんだ?」


「君の身体を少し前の状態に戻したんだよ。

 回復させた、ってことだね」


「……すげぇ。

 絶対に高校教師じゃねぇだろ」

  

「それより、

 先頭車両に行ったら危なかったよ」 


「……なんで?

 まさか先頭車両にも

 妖怪がいるのかよ?」


「ああ……」 


「何がいるの?」


 

 その問いに社はあっさりと答えた。


 

「蛟《みずち》だ」 


「み、ミズチだって!?」


 思わず身体を起こす。


 冗談じゃない。


 魍魎や火車とは格が違う。

 妖怪なら誰でも知っている

 竜族の妖怪だ。

  


「そんなの無理ゲーじゃん!」

 


 社は先頭車両に目を向けて答えた。

 


「でも倒さないと帰れないよ?」 


「簡単に言うなって!」

  


 思わず大きな声が出る。

 


「竜だぞ!

 神話に出てくるような化け物だぞ!」


 

 だが社は笑ったままだった。



「三途の川駅までは、あと20分くらいかな」

 


 その言葉に風吹は黙った。 


 分かっている。


 三途の川駅で降りなければ。

 あとは閻魔庁まで直行。 


 現世に戻れる可能性は皆無だ。

 


「蛟は俺がやるよ」

  


 社はそう言った。


 

「その間、この2人を守ってやってよ」


 

 風吹は、意識を戻した小田と成瀬を見る。

 2人は今の状況を理解できていない。


 

「……蛟をわかってねぇよ、あんた」

 

「頑張ってみるさ」


 

 社は笑顔を見せた。

  

 そして軽い足取りで、

 まるで散歩に行くみたいに

 先頭車両に向かって歩き出した。 


   

 風吹が社の背中を見ていると、

 社は振り返って妙なことを聞いてきた。


 

「そういえば刀、抜けたよね?」 


「当たり前だろ。

 刀なんだし……」


「いやいや。

 これは凄いことだよ」 


「何でだよ?」

  


 社は少し恥ずかしそうな顔をして続けた。


 

「鬼切丸は使い主を選ぶ刀なんだ」


「鬼切丸?

 これが?

 適当なこと言うなって!」


「鬼切丸は認めた相手にしか力を貸さないんだよ」 


「はいはい」 


「だって……

 俺は抜けたことがないから」 


「もういいって。

 おちょくり過ぎだよ……

 鬼切丸って伝説の妖刀だぞ」


 

 社はその刀を鬼切丸と呼んだ。

 

 もちろん風吹はそんな話を信じていない。 


 伝説の妖刀、

 そんなものを人間が

 持っているわけがないのだ。

 

 

 ――ドン!

 


 突然、汽車全体が大きく揺れた。

 まるで巨大な何かにぶつかったように……。

 


「なによ今の!?」

 


 成瀬が叫ぶ。

 

 社は窓の外へ目を向けた。


 

「蛟が暴れてるね」


 

 社は小用を済ませに行くかのように言った。

 


「じゃあ行ってくる」 


「待ってよ!」

 


 風吹が思わず呼び止めた。

 


「後ろの車両にいた化け物は

 どうしたんだよ?」 


「牛鬼なら倒したよ」


「牛鬼!?」


 

 風吹は絶句した。


  

 牛鬼――

 妖怪の中でも、その凶悪さで知られる化け物だ。


 

 そんな妖怪と戦っていたのか?

 しかも勝った?

  

 本当にこの人間は何者なんだろう?


 社に対して、

 風吹の中で疑問だけが膨れ上がっていった。


 そんな社は、

 軽く手を振って去って行こうとした。

 


「じゃあ、みんなを頼んだよ」


 

 そのまま先頭車両へ向かっていった。


 

 残った3人の間に静寂が戻る。

 

 聞こえるのは汽車の走行音だけだ。


 

「ねぇ、風吹っち」


 

 成瀬が恐る恐る口を開く。


 

「蛟と牛鬼ってそんなヤバいの?」 


「……あぁ」


 

 短く答える。


 

「妖怪なら誰でも知ってる大妖だ」

 


 なのに、

 あの男は1人で向かっていった。


 ――馬鹿だよ。


 竜族相手なんて勝てるわけがない。


 

「ねぇ……ところで

 急に現れたあの人、誰?」


「高校の先生だってさ……」


「どこの高校?」


「聞いてないよ、そんなこと」


「わたしたちと一緒で、

 これにうっかり乗ってしまったのかな?」


 

 高校教師が——

 

 うっかり汽車に乗ってきた人間が——


 時間を止めて、

 傷を治して、

 妖刀まで持ってる。


 そんな話、

 あるわけがなかった——

 

 風吹には、

 本当に理解ができなかった。


 

 その時、

 手に持った鬼切丸が微かに震えた

 気がした。


 

「ん?」

 


 気のせいかと思った。


 ——だが違った。


 刀が警告している。


 

「風吹っち……」


 

 成瀬の声が震えていた。

  


「窓の外……

 あれ……って」

 

 

 風吹は反射的に振り向く。


 奴はそこにいたのだ――


 巨大な鬼の顔と身体。

 

 そして、

 車窓いっぱいに張り付く蜘蛛のような脚。

  


「――牛鬼!」

  


 次の瞬間、

 天井が吹き飛んだ。


 轟音と共に巨大な身体が車内へ入り込んできた。

 牛鬼の全身が見える。


 牛鬼は車両半分以上を埋める巨体だ。

 


「うおおおおおおん!」



 腹の底から響くような咆哮をあげた。

 邪気が車内を覆う。


 小田と成瀬は、

 その威圧感に腰を抜かした。

 

 風吹も思わず息を呑む。

  


「おいおい、社さん。

 牛鬼は倒したんじゃなかったのかよ……」


 

 牛鬼は彼女たちを見下ろした。


 しかし不思議と、

 すぐに襲っては来なかった。


 それどころか、

 警戒しているように見える。


 牛鬼の警戒の対象は、

 風吹ではなく彼女が持つ日本刀


 ――鬼切丸だった。

 

 刀が淡く鬼気を放っている。

 

 牛鬼を威嚇しているようにも見えた。


 やがて、

 牛鬼が低い声でポツリと呟いた。


 

「なぜだ……」

  


 その目は刀に釘付けだ。

  


「どうしてかまいたち風情が……

 鬼切丸を持っている?」 


「え?」


 

 背筋が凍った。


 社の言っていたことが

 冗談じゃなかったからだ。


 

 どうやらこの刀――

 本当に妖刀・鬼切丸だったのだ。


 


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