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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
序章 ふたりはあの世逝きの汽車で出会う

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4話 届いた刃



《止まれ!》


 

 その一声が車内に響いた。


 途端に、

 魍魎も火車も動きが止まった。


 ――もちろん風吹たちも。


 意識はあるのに身体が動かない。

 まるで金縛り術にあったようだった。

  


『大丈夫かい?』

  


 突然、頭の中に男の声が響いた。

 


『誰?』

 


『同じ汽車に乗ってる者だよ。

 今そっちへ向かってる』

  


 同じ汽車?

 こいつが金縛りを掛けたのか?


 風吹の頭の中が混乱する。


 

『もう少しでそっちにいくから、

 踏ん張れるかな?』 


『見えてるならわかるだろ……

 わたしはもう戦えない』 


『見えてるわけじゃない。

 妖気の流れで判断しているだけなんだ……

 どうして戦えないの?』


『……刃が壊された』

 


 風吹は敵意のないその声に、

 すがるように答えた。


 

 ――もう戦う妖力がない。

 ――武器もない。

 ――目の前で2人の人間が殺される。



 風吹の声は、

 悔しさで震えていた。 

 


『なら刀を貸すよ――』 


『えっ?』


『その2人の人間を助けてやってほしい……

 役に立つかわからないけど送るよ』

 


 次の瞬間——

 金縛りが解けた。 


 同時に何かが猛烈な速度でこちらへ飛んでくる。

 


 ――ドガァン!

 


 車両の扉を次々と突き破りながら一直線に迫る影。

 

 刀だ。 


 鞘に収まったままの日本刀。


 反射的に左手を伸ばした。


 柄を掴んだ瞬間、鞘が抜けて

 美しい刀身が姿を現した。

 


「なんだよこの刀……?」

 


 魍魎と火車も困惑している。


 

「あの刀はなんだ?」


「知らねぇよ!」


 

 これはただの刀じゃない。


 軽い。

 信じられないほど軽い。

 

 それでいて、

 刃そのものから強力な妖気を感じる。


 こんな刀は見たことがなかった。


 

「火車!」


 

 風吹は床を蹴った。


 

「妖抜刀術――旋毛切《つむじぎり》!」


 

 身体を回転させながら、

 火車と魍魎の懐へ飛び込む。


 閃いた刃が円を描く。


 次の瞬間――


 魍魎の左腕と、

 火車の右腕が同時に宙を舞った。


  

「ぎゃああああ!」 


「うそっ!?」



 風吹が一番驚いていた。 


 妖怪たちの腕を、

 簡単に切り落とせたからだ。


 今の攻撃で魍魎が激高した。

  


「クソかまいたちがぁ!」



 怒り任せに飛び掛かって来た。



 それなら――。

 


「妖抜刀術――大鎌切!」


 

 横一閃に刃が走る。

 鎌切流剣術の基本的な必殺技だ。 


 瞬く間に

 魍魎の身体が真っ二つに裂けた。

 


「な……ぁ」


 

 魍魎がそのまま崩れ落ちた。


 それを見ていた火車が目を見開く。


 

「魍魎がやられただと!?」

 


 信じられない様子だった。


 ――だが事実。

 

 この刀は強い。

 強すぎる。

  


「次はお前だ!」


 

 風吹は刀を構えた。 


 あと一太刀。

 あと一太刀入れば勝てる。


 そう思った瞬間。

 視界が揺れた。

  


「くっ……」

 


 足に力が入らない。

 妖力も体力も限界だった。


 火車はその隙を見逃さない。

 

 伸びた腕が蛇のように絡みつき、

 風吹の身体を拘束した。

 


「しまっ――」

 


 刀を振れない。

 

 そのまま引き寄せられていく。

 先では火車が牙を剥いて待っていた。

  


「生きたまま喰ってやる!」

 


 牙が迫り

 首筋に届く。


 ――終わった。


 そう思った瞬間だった。



 《動くな》


 

 火車だけが停止した。


 石像のように、

 完全に動かない。


 

「くっ……」


 

 火車は目だけを動かして

 周りを警戒した。


 すると、客車の向こうから

 1人の男が歩いてきた。


 無造作な黒髪に、眠たそうな目。

 どこにでもいそうな20代半ばの男性だった。

 

 なのに―― 


 ここにいる誰よりも、異質だった。

 


「よく頑張ったね」

 


 男は微笑んだ。

 


「友達を守るために、

 そこまで戦えるなんて立派だ」

 


 なんなんだ。

 初対面なのに……


 風吹は

 その声を聞いただけで安心してしまった。

 


「誰だよ……あんた」 


「そうだね。自己紹介がまだだった」

 


 男は風吹を、

 真っ直ぐに見つめた。


 

「俺は社亮介。

 高校で教師をやってる者だ」



 ――高校教師?

 


 こんな異質な力を使う者が、

 高校教師?


 風吹は困惑した。

 

 それでも……


 

「来るの……おせーし……」

 


 言いたいことは言っておく。

 それが風吹だった。


 すると社は苦笑した。

  


「ごめんごめん。

 車両ごとに邪魔してくる

 妖怪が多くてさ……」


 

 ふざけた人間。

 でも、見てるだけでわかる。


 

 彼は誰よりも強い人間。

 


 少なくとも、

 この人間がいるなら――

 もう大丈夫。 


 そう思えた。


 

 安堵した風吹の視界が落ちていく。

 

 ゆっくりと意識が沈んでいく中、

 風吹の耳に最後に聞こえたのは

 社の声だった。


 

 《悪鬼厄災の存在を禁じる》


 

 次の瞬間――

 

 散りゆく火車の断末魔が、

 車内に響き渡った。


 


 

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