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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
序章 ふたりはあの世逝きの汽車で出会う

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3話 砕けた刃


 

 この状況から逃げきれない。


 風吹は戦うしかなかった。


 

「風吹っち、本当のお化けだったの!」


「それじゃ、あいつら倒しちゃってよ!」


 

 小田と成瀬は、まだわかっていない。


 風吹を妖怪だと知っても

 怖がらないのはありがたかった。


 しかし、

 今からもっと恐ろしいことを

 伝えなくてはならない。

 


「……わたしじゃ、

 こいつらには勝てない」


「えっ?」


 

 風吹は右手の短刀を見つめた。


 

「かまいたちってさ、

 でっかい鎌を振って戦う妖怪でしょ?」


「お前らが想像してる鎌ってのが、

 わたしのこれなんだよ……」


「……ちっさ」


「うるせぇ……」


 

 魍魎と火車が、

 ゆっくり距離を詰めてくる。


 

「予定外の乗客だ。

 こいつらの魂は食っても問題ねーだろ?」


「なにを言っている。

 さっきから魂のつまみ食いをしてるのは

 知ってるぞ、魍魎」


「がははっ!

 バレてたかよ!」


 

 小田と成瀬の顔から血の気が引いた。


 ようやく理解したらしい。

 

 これは肝試しでも、

 アトラクションでもない。

 


「わたしが合図したら、

 先頭車両に向かって走れ」


「無理っしょ!

 前には火車ってのがいるし!」


「わたしが何とかする」


 

 右手に妖力を集める。


 父親や兄ほどじゃないが、

 妖術だって使える。


 

「風圧の術!」


 

 風を圧縮した塊を火車へ叩きつける。



「ガフッ!」

 


 不意を突かれた攻撃に、

 火車の身体が窓側へ吹き飛んだ。


 

「いまだ! 走れ!」


「ひいいっ!」


 

 小田と成瀬が駆け出した。


 いける。


 このまま先頭車両まで逃げて、

 連結部分を切り離せば――助かる。


 

「風吹っち、天才じゃん!」


「急げって!」


 

 その瞬間、足首を掴まれた。


 

「っ!?」


 

 風吹は叩きつけられるように床に倒れ込んだ。


 吹き飛ばしたはずの火車が腕を伸ばし、

 彼女の足を掴んでいた。


 

「くそっ!」


 

 短刀を突き刺す。

 だが、硬い皮膚に弾かれて刺さらない。


 

「お前らは先に行け!」


「風吹っち!」


「行けって言ってんだろ!」


 

 身体が引きずり戻される。


 まずい。

 この腕を斬らないと――。


 

「あうっ!」


 

 背中に重い衝撃が落ちた。


 魍魎だ。


 馬乗りになった魍魎が、

 風吹の右腕を床へ押し付ける。


 

「さっきはよくも斬ってくれたなぁ。

 悪いのはこの腕かぁ?」


「どけよ!」


「潰しておくか」


「やめ――っ!」



 ——ゴリッ!

 

 魍魎の足が風吹の拳を砕いた。


 

「うあぁぁぁっ!」


 

 右腕に激痛が走る。


 もう刀を握れない。


 魍魎と火車の笑い声が、

 頭の中でぐちゃぐちゃに響いた。


 

「風吹っち!」


 

 ふたりの足が止まる。


 

「馬鹿、止まるな!」


 

 しかし、

 その声で魍魎の注意が一瞬だけ逸れた。


 風吹は床を転がり、

 すぐさま短刀を左手に持ち直した。


 まだ終わってない。

 あきらめない。


 全妖力を刃に込める。


 せめて一撃。

 こいつらを倒せなくても、

 ふたりが逃げる時間くらいは作れるはずだ。


 

「妖抜刀術《あやかしばっとうじゅつ》、大鎌切!」


 

 短刀に風を纏わせ、魍魎へ斬りかかった。


 荒れ狂う風の刃が走る。


 だが――。


 

 ガキィィンッ!


 

 魍魎の鋭い爪が、

 風吹の攻撃を簡単に弾き返した。


 そして次の瞬間――

 風吹の刃は、脆くも砕け散った。


 

「……嘘だろ」

 


 手の中に残ったのは、柄だけだった。


 終わった。


 武器を失ったかまいたちは、

 かまいたちに在らず。


 もう彼女は、

 妖怪として名乗る資格すら失った。


 直後、火車の蹴りが顔面に入った。


 身体が天井に叩きつけられ、床へ落ちる。


 息ができない。

 全身が痛い。


 父親との戦闘訓練とは違う。


 本物の戦いとは、

 こんなにも痛くて怖いのか……。


 

「小田と……成瀬は……?」


 

 視界の端に、ふたりが見えた。


 先頭車両の手前まで移動していた。


 よかった――


 これなら、まだ間に合うかもしれない。


 風吹は左手を床につき、

 震える身体を起こした。


 武器はない。

 右腕も使えない。

 残っているのは、少しの妖力だけ。


 でも、この車両を切ればいい。


 ここで連結を断てば、あいつらは逃げられる。


 

「へへっ……。

 副委員長っぽいじゃん、わたし」


「風吹っち!

 早くこっち来て!」


 

 バカだな……

 だから人間は嫌いなんだ。

 みんなで逃げきれるほど

 甘くないんだよ。


 

 なんで出会って2年程度の人間のために、

 命を張ってるんだろう?

 

 風吹には、

 その意味がわからなかった。


 だけど――


 

「お前らだけでも生きてくれたら、

 わたしがここにいた意味があったって思える!」


 

 風吹は自分に言い聞かせた。

 


「なかなか、かっこいい生き様じゃん!」


 

 左手に風を集める。


 手刀で決める。

 この一撃で、車両を断ち切ってみせる。


 

「うおぉらぁぁっ!」


 

 振り下ろそうとした左腕を、

 火車に掴まれた。


 

「お前さぁ、戦闘経験ないだろ。

 動きがデカすぎて

 何するか丸わかりなんだよ……」


 

 火車の腕が鞭のようにしなり、

 風吹の身体を床と天井へ何度も叩きつけた。


 意識が飛びそうになった。


 

 ――もう、ダメかも。


 

 薄れていく意識の中で、

 昔の記憶が浮かんだ。


 兄の大剣が、大木をなぎ倒していく光景。

 それを父が誇らしげに見る姿。


 誰も、彼女の小さな刀など見ていなかった。

 でも、“なまはげ”だけは風吹を励ました。


 

『風吹、お前は強くなる』


『その手の刀は小さくとも、

 お前の心には兄の大剣に負けない

 心の刃がある』


 

「……走馬灯ってやつ?

 なまはげ師匠……

 心の刃なんて、意味なかったよ……」



 ――悔しい。


 せめて、ふたりだけでも助けたい。


 その時だった。


 

「真空飛び膝蹴りぃ!」


「カスミン、カッコいい!」


 

 火車の腕が止まる。


 小田が、火車へ膝蹴りを叩き込んでいた。


 

「カスミンは中学まで空手やってたんだ!

 初段取って辞めたけどなめんなし!」


「ナルも手伝えよ!」

 

「わたしは無理!

 習ってたのピアノだもん!」


 

 2人はふざけているようで本気だ。


 でも、絶対に殺される――


 

「うざってぇ!」


 

 火車が小田を払い飛ばした。



「ぎゃっ!」


 

 小田の身体が窓ガラスに叩きつけられ、

 動かなくなった。


 

「その人間から魂を抜くぞ」


「俺はこっちの髪の長い方で遊んでおく」


 

 成瀬が火車に髪を掴まれ、

 床を引きずられていく。


 魍魎は小田の腹へ爪を立てた。


 

「に……げろ……」


 

 風吹が掠れた声で叫ぶ。


 ――わたしを助けようとしたせいで。

 

 ――わたしが弱いせいで、ふたりが殺される。


 

「ちくしょう……」


 

 涙が溢れた。


 

「わたしに、もっと力があったら……」


 

 友人たちが殺される。

 

 風吹は、

 落ちこぼれと言われた自分自身を悔やんだ。

 


 その時、

 全車両に声が響いた。


 

 《止まれ!》



 次の瞬間――

 

 時間の流れが止まったように、

 空間が静止した。

 




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