2話 魂喰いと死体喰い
風吹は客車に乗り込んだ。
小田と成瀬と合流し、
向かい合わせの席に座った。
「風吹っち……これ、どういう状況?」
「それよりさっきの動きヤバくない?
飛び移ってたじゃん」
ふたりは風吹の動きに驚いている。
「……少し黙って!」
説明したところで信じるわけがない。
これは、あの世逝きの汽車。
乗客は全員、死者の魂。
終着は閻魔庁。
ただし三途の川駅で降りれば、
生者でも現世へ戻れると聞いたことがある。
「ねぇ、ここのみんな寝てるっぽくない?」
小田が声を潜める。
俯いた乗客たちに生気はない。
全員、死人なのだから当然だ。
「あのさ、落ち着いて聞けよ」
「なに?」
「この汽車は、あの世に向かってる。
乗客はみんな死人だ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、小田と成瀬は吹き出した。
「風吹っち、真顔で何言ってんの!」
「それはさすがに笑えないって」
やはり信じない。
どう理解させようか考えを巡らせていると、
客車の扉が開いた。
車掌服の男が入ってくる。
顔は帽子の影で見えない。
「切符を拝見」
男は一番近くの乗客へ手を差し出した。
乗客の男が内ポケットから切符を取り出す。
「確認しました。
それでは――いただきます」
突然車掌の身体が膨れ上がった。
服が裂け、
全身を黒い毛で覆われた
獣のような巨体へと変わる。
そいつは乗客の頭を掴むと、
一口で呑み込んだ。
「げふぅ……。
それでは次の方、切符を拝見」
空気が凍った。
車掌が化け物の姿に変わり、
乗客を――
いや、魂を喰ったのだ。
「なにこれ、アトラクション?
趣味悪すぎなんだけど!」
「見るな、馬鹿!」
遅かった。
化け物の目がこちらに向いた。
「おや。生きた客まで乗っていたか」
恐怖で息が詰まる。
風吹は思い出した。
父親から教えられたことがある。
生者を殺し、魂を喰らう化け物――
魍魎。
そいつが、まっすぐこちらへ歩いてくる。
「ふたりとも、しゃがめ」
「風吹っち?」
「早く!」
風吹は小田と成瀬の頭を掴み、
座席へ押しつけた。
同時に、右手に
小さな妖力の刃を顕現させる。
そして――。
「うらぁ!」
魍魎に対して横一線に短刀を振り抜いた。
刃は、魍魎の腕から胸を浅く裂いた。
「ぐあっ! 痛ってぇな!」
「逃げるぞ!」
風吹はふたりの手を引き、隣の車両へ走った。
しかし、
連結部から外を見た瞬間、息が詰まった。
線路も、街も、空もない。
ただ暗闇の中を汽車は走っていたのだ。
飛び降りれば、その下は地獄だ。
逃げ場なんてなかった。
それでも三途の川駅まで行けば、
帰れる可能性がある。
「ねぇ……今の、本物のお化けなの!?」
「そうだよ」
「なんで追ってくるのよ?」
「生きた人間の魂はご馳走なんだ」
3人は先頭車両へ向かって走る。
だが、次の車両に入った瞬間に足が止まった。
空気が違う。
前方の扉の前に、身なりは車掌だが、
明らかに人ではない何かが立っていた。
「車内を走るのはおやめください、お客様」
獣のような顔。
細い目。
口元に浮かぶ薄笑い。
――火車。
死者の遺体をさらい、喰らう化け物。
前には火車。
後ろには魍魎。
魂喰いと、死体喰い。
最悪の組み合わせだ。
「お前、火車だろ。
なんでこの汽車に乗ってる?」
「おや……
かまいたち一族が乗っていたのか。
これは運が悪い……」
小田と成瀬の視線が風吹に刺さる。
「なんで風吹っち、
あいつのこと知ってるの?」
「今、あいつ風吹っちのこと
かまいたちって言ったよね?」
「風吹っちって……アイツらの仲間なの?」
「まさか、風吹っちも変身するとか……」
胸の奥が痛む。
昔から父親に言われていた。
人間として振る舞え。
正体を明かすな。
もし知られたなら、
人間界にも居場所はなくなる――と。
せっかくできた居場所。
人間なんて嫌いだ。
それでも、小田と成瀬と過ごす毎日は
悪くなかった。
――だから。
今ここで正体を隠して、
こいつらが死んだら意味がない。
風吹は覚悟を決めた。
「わたしをあんなのと一緒にするんじゃねーよ!」
風吹は短刀を握り直した。
「わたしは妖怪かまいたちだ!
文句あるか!?」
声が震える。
それでも前を睨む。
「今からこいつをぶった斬ってやる。
だから黙ってわたしの後ろにいな!」
その時、後ろの車両から足音が響いた。
「はっはぁー! 追いついたぜ!」
魍魎が笑う。
火車は肩をすくめた。
「遅いぞ、魍魎」
「待ってろよ火車。
すぐに魂引っこ抜いて、
死体は喰わせてやるからよ!」
前には火車。
後ろには魍魎。
彼女の短刀じゃ――どちらにも勝てない。
もう、逃げられない。




