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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第五章 いつかあなたの心が太陽の輝く方へ

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46話 止まった時計の針が動き出したその先へ



 流れる時の中で、

 約束は「約束」のまま止まっていた。

 

 ところが、

 風吹が結界を解除したことで、

 止まっていた時計の針が動き出したのだ。



「放っておいたわしの責任だ。

 今宵、積年の後悔を晴らす時が

 来たのだと思った。

 氷花と火鳥煉、なまはげと社に

 わしがいればできる!」



 本来、狢ごときに

 これほどの戦力を集めるのは、

 妖怪として面目の立たぬ話だった。

 

 しかし、

 ここまで状況が悪化すると、

 戦力を投入しない限り殲滅は難しい。



「ごめんだけどさ、

 わたしは妖力をほとんど使っちまってる。

 戦力にはなんないよ……」

 

「風吹。

 お主の肌感知で、

 狢の主がどこに潜んでいるか

 調べてほしいのだ」



 当時は将軍狢を探せなかったため、

 消耗戦になった。


 狢は将軍狢の操心の術で動いている。

 

 将軍狢を討てば——

 状況が一変するだろう。 



「場所の特定はできてるぜ師匠。

 ここからそれほど遠くない場所に

 隠れてやがる」


「教えてくれ。

 今宵——首を取る」


「たださ……

 今の主は将軍狢ではなくて、

 刑部狸《ぎょうぶだぬき》らしいよ」


「刑部狸だと……。

 四国を束ねる大妖が、

 このようなところにいるわけがあるまい」



 その通りだった——

 

 すべての化け狸をまとめる刑部狸が、

 こんなところにいるはずがない。


 誰かが名を騙っているに違いなかった。



「さっきまでこっちに向かって来てたけど、

 みんなの到着に気づいて、

 数匹の狢と身を潜めてやがるよ……」


「奴も妖気感知能力があるということか……」


「……というより、

 他の狢たちと意思共有をしてるんじゃないかな?」


「厄介な連中だ……」



 それより厄介なことが近づいている。


 ここからそう遠くない場所より、

 こっちに向かって、

 狢の大群が集まりつつあった。


 

 先ほどの100匹近い群れの狢を、

 最大戦力だと思っていた。


 しかし今、向かって来ている狢は

 先ほどとは比べ物にならない数だった。

 

 奴らは身を潜め、

 その時が来るまで気配を

 消していたのだろう。


 そして、

 その中に別格の妖力を持った

 狢が2体いる。


 おそらく、それが将軍狢だ。



「とんでもない大群が押し寄せてくるぜ」


「本当にねぇ……。

 鬱陶しいったりゃありゃしない」



 氷花も獣系の妖怪。

 肌感知で状況がわかるのだ。



「どこに潜んでいたんだよ……

 残り数十匹程度だと思ってたのによ。

 近づくたびに、数が爆発的に増えてやがるよ」


「200体くらいか?」


「違うよ。ざっと500体——」


「一気に勝負を掛けて、

 万が一の時には

 狢の主だけ結界の外へ逃すつもりなのだろう」


「まったく、

 知恵だけは働く連中だよな」



 狢とはいえ、

 将軍狢2匹が率いる500体の群れ。


 この場は相当に荒れると考えられる。


 今考えられる、

 最も効率の良い戦闘配置を組まねばならない。


 

 その時——

 


「俺と一緒に、

 牛丸さん、氷花さんと火鳥くんは、

 ここで500体の足止めをお願いいたします」



 社が口を開いた。


 

「ほほっ、老体に無理をさせよる」


「おもしろい。

 久しぶりに大暴れするかねぇ」


「500対4か……

 僕は1体だけ倒すので、

 499体はみなさんにお任せします!」



 誰一人として慌てる様子はなかった。


 

「俺たちが足止めしている間に、

 なまはげさんと風吹で狢の主を

 仕留めてくれないか?」



 社は、

 それが最善の方法だと判断したようだ。


 

 火鳥が風吹と白粉婆の前に立ち、

 ふたりの頭に手をかざした。 



「全身が燃えるけど、

 驚かないでくださいね」


 すると、

 風吹と白粉婆の全身が、

 真っ赤な炎に飲み込まれた。



「こ、これは!」


「大丈夫。

 この炎は回復の炎。

 ふたりの傷と、少しだけど妖力も回復できるよ」


「マジかよ……すごっ!」



 火鳥のおかげで、

 風吹は立ち上がれる程度まで回復した。


 白粉婆の、

 竹槍で貫かれていた両手の傷も

 塞がったようだ。

 


「風吹よ。

 案内を頼む。

 急いだ方が良さそうだ」

 


 なまはげは、

 はやる気持ちを抑えられずにいる。


 

「お嬢……

 わたしはこっちに残るよ。

 戦力にはならないが、

 何かの役には立てると思う」


「わかったよ。

 みんな、頑張ってくれよ!

 今から師匠と、大ボスぶっ倒してくるからさ!」



 風吹は4人を信じ、

 なまはげと共に、

 狢の主のもとへ向かった。



 ――――――



「爺様、

 今日は尻尾3本分の力を解放するけど、

 いいだろ?」


「許可しよう。

 ただ4本目の解放は認めんぞ」


「いきなり3本分の力で行きますか?

 楽しみだなぁ」


「4本分の力も、

 久しぶりに出してみたいねぇ」


「煉よ、今日は不死鳥の型ではなく、

 鳳凰の型を使ってはどうかな?」


「そうですね。

 今日は攻めの型の方が良さそうですね」



 これが、鞍馬山の妖怪の会話だった。

 

 これから500体もの狢を

 相手にするというのに

 作戦会議もせず、

 尻尾が何本とか鳳凰の型とか、

 普段通りの会話で盛り上がっていた。


 それを見ていた白粉婆は

 不思議に思った。


 初めて会った妖怪と

 一緒に戦うことになって、

 不安などないのだろうか?



「初めまして。

 社と申します」


「?」



 社が白粉婆に声をかけた。 


 風吹から会わせたいと

 言われていた人間の男。


 白粉婆は少し驚きつつ、

 返事をした。



「あぁ、よろしく」



 それをきっかけに、

 天狗がみんなに作戦を伝えてきた。



「大群と一戦交える場合、

 初手が肝心となる。

 白粉婆よ、1つ頼みがある」


「……なんだい?

 わたしにできることなら、

 なんだってやるよ」



 そうは言いつつ、

 白粉婆には理解できなかった。

 

 初めて会った自分に、

 どうしてここまで任せられるのか?


 裏切って逃げ出すとか、

 考えないのだろうか?


 お嬢といい、

 この仲間たちといい、

 ひとが良すぎる——


 そう思った。



「まるで――

 誰かさんみたいじゃないか」



「お前たち、来るぞ!」



 周囲が騒がしくなってきた。

 

 遠くの木々が、

 狢の進行で揺れているのがわかる。


 

 狢の主を討ちに向かった、

 風吹となまはげ。



 白粉婆たちは、

 ふたりがその目的を果たすまで、

 迫り来る約500体の狢と、


 一戦を交える。





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