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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第五章 いつかあなたの心が太陽の輝く方へ

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43話 絶望へ


 


 日が落ち、

 夜を迎えた。


 辺りは闇に包まれ、

 止まない雪が、風吹たちの足跡や匂いをかき消し

 味方をしてくれている。

 

 狢は、ふたりの居場所に気づいていない。

 

 奴らの不意を突く、

 絶好の機会だ。



「よーしっ!

 いっちょ、やってやるか!」


「お嬢が強いのは知っている。

 その鬼切丸のことも……

 だが、あいつらは強さだけでは対処しきれない。

 それが狢だ」


「舐めんなよ、ばあば!

 わたしは、あの鵺を追い払った妖怪なんだぞ!」


「……無茶だ」


 

 白粉婆の制止を振り切り、

 風吹は洞穴から外へ出た。


 そして、

 村があったであろう平野へと向かう。


 

 鬼切丸を片手に、

 急いで下山する。


 大狢が数匹いる軍勢となると、

 奴らの中に将軍狢がいるはずだ。


 それを討てば、

 奴らの統制は崩れて対処もしやすくなる。


 

「!?」


 

 風吹の肌感知がヒリついた。


 思ったよりも狢の動きが早い。

 雪が気配を殺してくれているはずなのに、

 奴らはふたりの動きに気づいたようだ。


 妖気の動きから、

 相手の数と位置を把握する。


 10……20……30体。


 

 想像以上に早い……。


 暗闇の先から、

 無数の狢が押し寄せてくるのがわかった。


 

「ばあば、前方から30体ほどの群れが来る。

 わたしのそばから離れんなよ!」


「どうする気だい?」


「ぶった斬る!」


 

 狢の群れが、

 奇声を上げながら姿を現した。

 風吹は、鬼切丸を腰に当て、

 抜刀の構えをとった。


 

「妖抜刀術・大鎌切!」


 

 突進してきた30体の狢を、

 一振りで切り伏せた。



 そして、

 別の狢の大群が、

 風吹たちの向かう平野へ集結しつつあった。



「!」



 今度は40体ほどの群れが現れた。

 中には、大狢も数匹混じっている。

 

 

「下山する前にこれかよ。

 ……確かに、狢の群れはうざったいね!」


 

「妖抜刀術・旋毛切《つむじぎり》!」


 

 現れた群れは、再び切り伏せられた。

 足を止めることなく、

 勢いを保ったまま先を急ぐ。


 

「お嬢!

 あんな大技を連発してはいけない!

 奴らの数は、こんなものじゃ済まないよ!

 とにかく一旦、結界から出よう!」


 

 正直、退きたい気持ちもあった。

 だが、妖気感知でわかる

 奴らの配置と動きから判断すると、

 確実にふたりは包囲されつつあった。


 結界が開いている場所を特定されるのも、

 時間の問題だ。


 結界の出口へ向かえば、

 その穴の位置を知られてしまう。


 ――奴らを、結界の外へ出してしまいかねない。


 進むも地獄、戻るも地獄。

 今は、その言葉通りの状況だった。


 

 ふたりはようやく、

 平野へと降り立った。


 そこには、100体ほどの狢の群れと、

 大狢が10匹ほど、すでに待ち構えていた。


 

「お前ら、どうやってこの閉ざされた結界の中に入った?

 外から来たってことは、

 結界が開いたってことだよな?」


「んなこと教える訳ないじゃん!

 バカなの?」


「答えろ!

 結界の穴はどこだ!」


「聞き方がムカつくから

 教えてやんない!」


 

 狢の群れが、完全に包囲する。

 ここにいる連中が、

 この土地の最大勢力だ。


 残る注意点は、

 どこかにいる将軍狢と、

 遠方の4か所からこっちに向かっている、

 数十体の群れ。


 ここを押し切ればなんとかなる。

 

 将軍狢の居場所は、

 1番肌がヒリつく東の方角だ。



 ——100体程度なら押し切れる。


 

「妖抜刀術・大鎌切!」


「妖抜刀術・旋毛切!」



 大技の連発に鬼切丸を握る指先が、

 わずかに痺れた。

 

 一気に押し寄せる狢の群れに

 風の刃が襲いかかる——


 

「妖抜刀術・乱切!」


 

 雪原を裂く風の刃が、

 狢の群れを薙ぎ払い、

 100体近い狢を一瞬で切り裂いた。


 風吹の視界が、一瞬霞んで見えた。


  

「はぁ、はぁ、はぁ……

 どんなもんさ!

 将軍狢は、もう目の前だ!」


「お嬢……いけないよ。

 無茶しすぎだ……」


  

 風吹が将軍狢がいる方角を向き、

 走り出した瞬間——


 脚がもつれたように倒れた。


 立ち上がろうとするが、

 身体が言うことをきかない。



「お嬢! どうした?」


 

 ――大技の連発。


 白粉婆の忠告通り、

 妖力の使いすぎによる反動だった。


 扱っている武器は鬼切丸。

 

 妖刀を振るうのに、

 タダというわけにはいかない。


 それなりの妖気は持っていかれる。

 

 風吹は冷静に状況を見ているつもりだった。

 だが、自分自身の限界を見誤っていた。


 鬼切丸がある――

 そんな慢心。


 妖力の分配ミス。


 もともとは、落ちこぼれのかまいたち。

 

 人間社会に放り込まれていたことで、

 戦闘経験自体が浅い。

 

 これほどの大群を相手にする場合の

 知識も経験もなかった。


 

「だ……大丈夫だって。……ちょっと、足が」


「!」


 

 統制が取れている。

 動きも異様に速い。


 4か所からこっちに向かっている群れが、

 もうすぐ到着する。


 1番近い集団で、

 到着まで3分もかからない。


 

「ばあば!

 作戦変更だ。

 とりあえず、1人でこの結界の外へ出てくれ。

 それと……これを」


 

 風吹は、1枚の紙を白粉婆へ手渡した。


 

「これは?」


「先生とアルバイト先の電話番号さ。

 外へ出たら、どちらかに連絡して、

 ここで起きていることを伝えてよ!」


「馬鹿!

 お嬢を置いていけるか!

 わたしは眼くらましが得意なんだ!

 一緒に身を隠して外へ出る!」


 

 ――無理だ。



 強がってはみたが、

 足は震え、

 立ち上がれなかった。


 逃げるだけでも足手まといになる——

 

 それに、

 この警戒網の中では、

 身を隠しても足跡や匂いですぐに見つかる。


 

「ダメだ。

 最優先は、この事態を外へ伝えることだよ。

 奴らを、結界の外へ出してはいけないんだ!」


「それなら、わたしが足止めをする!

 お嬢が逃げるんだ!」


「……ちょっとさ、

 足に力が入んないんだよね……

 逃げ回るよりさ、

 ここであいつら、ぶった斬ってる方が楽なんだよ」


 

 兄からも注意を受けた、

 見栄っ張りな女——

 

 閉ざされていた結界を破り、

 封印されていた狢の群れを

 外へ解き放ってしまうかもしれない。


 せめて、この状況を……


 最悪の事態だけは

 避けなくてはいけない。


 今はもう、

 見栄を張っている場合ではなかった。

 

  

「ばあば……

 わたしからのマジのお願いなんだ……。

 どうか……逃げてほしい」


「……くっ

 そんなことできるわけ——」



 ——ドスンッ!


 

 1匹の大狢が、

 宙から舞い降りてきた。


 

「逃がさねぇよ!」


 

 速い。

 異様なまでに速い個体がいた。


 大狢ともなれば、

 それぞれに特性があるようだ。


 そして、

 すでに四方を囲まれていた。



 逃げ場が——ない。


 

「おいおいおいおいおいおい?

 これだけの眷属が殺されたのか?

 こいつ、かまいたちだろ?

 そりゃねーだろ!」


「かまいたち舐めんなって、

 お前らより高尚な妖怪だし!」


「ふざけるなよ、ガキが!」


 

 風吹は会話を続け、

 わずかな妖力の回復を待った。


 

「若い方は殿のもとへ連れていく。

 こいつなら、何体か子を産めるだろう。

 婆の方は役に立たねぇ。

 ここで始末する」


「随分と若く見てくれてるようだけど、

 こう見えて2,000歳を超えてんだ。

 子なんか産める力ないんだよ!」



 これはもちろん風吹の大嘘だ——


 

「年齢など関係ない。

 繁殖機能があるかどうかだ。

 そこの婆は人間の子を産んだ匂いがする。

 一度でも他種族を産んだ妖怪に、

 妖怪の子は産めねぇ……」


「へぇ……狢って思ったより博学じゃん。

 出産にそんな理屈があるの知らなかったよ」


「殿もお喜びになる……

 数百年ぶりに種も増やせる上に、

 外にも出られるのだから」


「……殿ってのは、将軍狢のことだよな?

 そいつに会いたいんだ。

 ここに呼べよ」



 時間稼ぎをしているつもりが、

 もう1つの群れが到着しそうだ。


 

「将軍狢だと?

 何を勘違いしている」


「?」


「我らの殿は、

 将軍狢などではない」


 

 ――そして、

 今回の黒幕の名が告げられる。



  

「我らの殿とは――刑部狸様だ」






 

 

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