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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第五章 いつかあなたの心が太陽の輝く方へ

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42話 雪の下で眠るあなたたちへ


 


「みんな、やめろぉー!

 同じ村の仲間だろうがよー!

 しかも子供もいる前で、恥を知れ!」

  


 草太が怒りを露わに飛び出した。


 しかし、彼は数人の村人に

 押さえつけられてしまう。


 親友であるゆきの夫は、

 それを見て見ぬふりする。

 

 松明を持った連中が、

 ゆきを火あぶりの刑に処した。


 炎に包まれ、断末魔を上げるゆき。


 母を見て泣き叫ぶ、娘のこゆき。


 地面へ押さえつけられ、何もできない草太。


 その時、

 白粉婆の身体が、

 自然と動いてしまった。


 白粉を彼女へ吹きつけ、

 火を消そうと試みたのだ。


 だが、白粉が炎の勢いに舞い上がり、

 火を消すことはできなかった。


 白粉婆の白粉は、

 眼くらまし程度の力しかない。

 

 この状況で、

 何の役にも立たないことは分かっていた。


 せめて、

 雪女くらいの力があれば――


 己の無力さを、

 心の底から悔やんだ。


 

「——ゆき……ゆき!」

 


 燃えるゆきに、

 白粉婆は近づいた。

 


「こゆき……ごめんね……


 お里……ほんとに……」


 

 彼女は、

 燃えながら謝罪を繰り返した。


 ゆきが——逝く。

 


「ゆき!」

 


 燃え尽きたゆきの身体は、

 何ひとつ残さず、

 溶けるように消えていった。


 その最期を見て、

 村人たちは、ゆきが本物の妖怪だと確信した。


 

 そして――

 妖怪の娘である

 こゆきちゃんを、竹槍で一突きして始末したのだ。


 

 村人たちが、

 化け物以上の化け物に見えた。


 次の矛先は——

 白粉婆たち夫婦へ向けられた。


 ゆきを助けようとした2人を、

 村人が見逃すはずがなかった。



「お前らどうかしてる!

 俺ら、この村の仲間だろうが!」


 

 時代が時代だった――


 村人たちからは、

 妖怪への恐怖と殺意しか感じ取れなかった。


 彼らにとって、

 ゆきやこゆきちゃんを守ろうとした2人も、

 同じ“化け物の仲間”だったのだ。


 草太は村人を跳ね退け、

 白粉婆のもとへ駆け寄ってきた。



「お里、家に帰って草助を連れて逃げろ!」


「あなたはどうするの!?」


「この分からず屋どもを説得してから迎えに行く。

 あの山の洞窟で待ってろ!」



 言われた通りにしようとした——


 家にいる草助を迎えに行き、

 山に身を隠す。



 ――ところが。



「お母ぁ?

 みんなで、何してるの?」



 家にいるはずの草助が、

 騒ぎを気にして、

 ここまで来てしまっていたのだ。 



「草助、こっちへ来なさい!」 



 時すでに遅く、

 草助は村人に人質として捕らえられた。


 この人数を相手に、

 力で草助を取り返すことはできない。


 その時、草太は言った。


 草助を助けてから追いかける。

 

 だから先に逃げろ、と。


 彼は、嘘をついたことがなかった。


 だから今回も、

 言った通りになると信じてしまった。


 白粉婆は気配を殺しながら、

 2人しか知らない洞穴へと向かったのだ。


 必ず、

 あとから2人が来てくれると信じて——


 

 山の中腹に、

 この場所を一望できる場所があった。


 そこを通りかかったとき、

 2人が手足を縛られ、

 首を刎ねられる光景が目に入った。



 彼女は絶望し、

 その場から動けなくなった。 



 人間は、自分たちの身を守るため、

 どこまでも必死になれる生き物。


 あの大雪の中でも、

 村人たちは疫病を恐れ、

 草太、草助、こゆきちゃんの遺体を

 その場で燃やしていた。


 彼女は、何もできず、

 すべてを見ていた。


 無力な妖怪だと、

 自分自身に呆れ果てていたのだ。


 洞窟に身を隠し、

 どれほど時間が経ったのか分からない。



 1週間、2週間――

 記憶は曖昧だ。


 村の異変に気づき――

 洞窟を出てみた。



 村の方から、

 叫び声が聞こえるので

 山の中腹まで移動し、様子をうかがった。


 村は荒らされ、

 村人たちが次々と殺されていく……。



 ――狢だ。



 雪女の加護が失われたことに気づき、

 狢の群れが襲いかかってきたのだ。


 山の中を移動し、

 処刑が行われた場所を確認した。


 数日降り続いた雪が、

 何事もなかったかのように、すべてを覆い隠していた。



 彼女の愛した人たち——

 それを奪った村人たち——



 狢の侵略は、

 その報いなのだと思った。


 

 その日、

 彼女はすべてを見捨て

 この村を後にした。

 

 


 その後、

 一夜にして不知雪村と

 周辺にある2つの村が滅びた。



 今では地図にも残らない、

 誰も知らない場所。



 一時期、

「狢の住む村がある」と噂になったが、

 やがてその話も聞かなくなった。



 退治されたのかもしれない――


 そう思い、

 何度か足を向けた。


 だが、

 どうしても最後の一歩が踏み出せなかった。


 

 ――愛した家族が眠る場所。


 

 彼女はあの日から一度も

 この地に足を踏み入れられなかった。


 止むことのない雪のせいにして、

 遺骨すら回収しなかった。


 

「こんなわたしに、

 彼らを家族と呼ぶ資格などない」


 

 白粉婆は——

 雪の下に眠る彼らへ懺悔しながら、

 生きていくしかなかった。



 ——————


 

「嫌な話だろ……

 これがこの村の真相さ」


「……辛いよ。

 辛すぎる話じゃんか。

 本当はそんな話したくなかったよな……

 なんか、ごめん」


「お嬢が謝ることはない。

 謝るのは、わたしの方さ。

 結界を破ればこうなると想像できていたのに、

 止めなかった。

 心のどこかで、

 村に帰れるかもしれないと期待していたんだ。

 迷惑をかけたね。

 本当に、すまなかった」



 すべてが、ここで繋がった。


 これまで過去を語らなかった理由。

 雪を嫌う理由。

 故郷に帰りたがらなかった理由。


 そして――

 公園で遊ぶ子供たちを、

 愛おしそうに見つめる顔。



「ばあば、

 せっかくここまで来たんだ。

 それに話を全部聞いてしまった。

 これはなんとしてでも、家族を探せってことだよ」

 

「何百年前の話だと思っているんだい。

 今頃は、何層もの土に覆われた化石さ……

 それに、

 狢の目を盗んで穴を掘るなんて無理だ」


「わたしたちで、

 すべての狢をぶっ倒したらいいんだよ」


「……馬鹿なことを」 


「わたしには鬼切丸がある。

 不可能じゃないさ」



 風吹は決心した。


 狢を1匹残らず駆逐してやると――


 そして必ず白粉婆を、

 雪の下で眠る家族と、再会させてやるのだと——



  

 



 

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