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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第五章 いつかあなたの心が太陽の輝く方へ

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41話 幸せへ


  


「本当に……妖怪だと正体を明かしてから、

 所帯をもってくれと言われたの?」


「……あぁ」


「殺されると思った草太さんが、

 咄嗟にあなたの機嫌を損ねないためについた

 嘘という可能性はないの?」


「その可能性も考えた。

 だから、いつでもこの村を

 離れられる準備はしている」


 

 白粉婆はその日の夜、

 ゆきのもとを訪ね、

 これまでの顛末を伝えた。


 ゆきは妖怪でありながら、

 人間の男と結婚し、

 共に暮らしている。


 2人の間には、1歳になる娘もいた。


 しかし、ゆきでさえ――

 夫に正体を打ち明けてはいない。

 

 人間に正体を明かした雪女に、

 幸せな結末はほとんどなかった。


 妖怪と人間の恋物語を、

 白粉婆も噂程度には耳にしてきた。


 だが、その結末は決まって悲恋。


 彼女自身も当然、

 草太を全面的に信じていたわけではなかった。


 

「明日の晩、

 あなたたちがいつも落ち合っている

 牛小屋で待ち合わせしているのでしょう?」


「えぇ。

 返事を聞かせてほしいって」


「危険よ。

 村人を引き連れて、

 あなたを殺しに来るかもしれない。

 今のうちに逃げるべきだわ」


 

 けれど、その時の白粉婆は、

 ゆきの心配の言葉が耳に届いていなかった。


 口では草太を否定しながら、

 心のどこかで、

 彼を信じ切っていたのだ。



 ――――――

  


 翌晩。

 

 草太は約束通り、

 いつもの場所に1人で現れた。


 しかも、

 白粉婆と一緒に暮らすための準備だと、

 荷物まで纏めていた。


 

「わたしは山の中で暮らしている」



 とだけ伝えており、

 住処がどこにあるのかは、

 これまで一度も教えていなかった。 


 それでも彼は、

 詮索することなく受け入れてくれていた。


 

「わたしは醜い婆の妖怪だ。

 この姿は偽りのものだよ。

 それでも、一緒に暮らそうと言うのかい?

 本当に呆れた人間だよ」


「村中で呆れられてるから、

 今さら気にしねぇよ。

 ずっとその姿でいてくれたら嬉しいけど、

 無理のない範囲でいいや。

 それより、

 お里の住んでるところに案内してくれよ」


「妖怪が家を持って暮らしていると思う?

 普段は、誰も近づかない洞穴で暮らしてるんだ」


「そうなのか?

 なら、俺の家に来いよ。

 3年前の雪崩で家族を亡くしたの知ってるだろ?

 ちょうどいいじゃないか」

 

 なにが「ちょうどいい」のだろうか?

 

 それでも、

 彼の屈託のない笑顔を見ていると、

 不思議と笑いがこみ上げてきた。


 

「あなた、

 本当におかしな人間だね。

 わたしと一緒に暮らして、

 まっとうな幸せが得られると思っているの?」


「毎日、楽しいと思うけどな」


「現実は、そう甘くないさ」


「今まで楽しかったのは、俺だけだったのか?

 それは……ちょっと辛いな」


「……」


「とりあえず、

 お里がいいなら俺の家に来い」


「なにを企んでいるのやら?」


「なんも企んでねぇよ。

 そんなに頭の回る男じゃないって知ってるだろ?

 さぁ、行こう!」


 

 彼の言葉に押され、

 そのまま家へ向かうことになった。


 ゆきは、もしもの時に備え、

 影から様子を見守ってくれていた。

 

 草太の家に着いてからも、

 しばらく周囲を警戒してくれていた。


 しかし、

 特に変わった様子は見られなかった。



 ゆきは「心配は無用」と判断し、

 帰路についた。



 その日から、

 白粉婆と草太の生活が始まった。


 彼の言葉通り、

 楽しい日々だった。

 

 2人は村人を欺きながら、

 祝言を挙げた。


 翌年には子宝にも恵まれ、

 草太によく似た男の子を授かった。


 子を草助と名付けた。


 ゆきの家族との付き合いも増え、

 ゆきの娘、こゆきちゃんが、

 草助をとても可愛がってくれた。


 想像したこともないほど、

 穏やかで、幸せな日々が続いた。



 その幸せのせいで――


 白粉婆は、忘れていた。



 人間と妖怪の恋物語は、

 ほとんどが悲恋で終わるということを。


 

 草助が3歳になった年の冬、

 事件が起こった。


 

 草太は、

 親友であるゆきの夫にさえ、

 彼女の正体を明かしていなかった。


 彼は、

 妻と息子を

 本当に心から愛していたのだ。


 家の中では、

 白粉婆が本来の姿でいても、

 何も言わず3人の時間を過ごさせてくれた。


 

 一方ゆきは、

 ずっと白粉婆夫婦のことを心配していた。


 一緒に暮らし始めてからも、

 子どもが生まれてからも、

 それは変わらなかった。



 本当に、優しい妖怪――


 

 だからこそ、

 気づけなかった。


 彼女が抱いていた、

 憧れにも似た――嫉妬に。


 

 妖怪であることを

 明かしても人間に愛され、

 幸せな家庭を築いた妖怪への羨望。


 それを見て、


 

「白粉婆にできたのなら、自分にもできる」


 

 そう思ってしまったのだ。

 

 子どもを寝かしつけた、ある夜。


 ゆきは、

 自身が雪女であることを

 夫に打ち明けてしまったのだ。


 

 瞬く間に、村は混乱に陥った。


 夫は村長に報告し、

 村人総出で、

 妖怪狩りが始まった。


 ゆきは、

 この告白が失敗するなど

 思っていなかったのだろう。

 

 いざという時の備えも、

 白粉婆の相談も一切なかった。


 

 こゆきちゃんは人質に取られ、

 抵抗できなくなったゆきは、

 裸同然で板に張り付けられた。


 ゆきは何度も夫の名を呼び、

 命乞いをした。

 

 こゆきちゃんは、

 目の前で拷問される母を見て

 必死に叫び続けた。


 

「お願い、あなた!

 わたしを信じて……!

 あなたはわたしを愛してくれてはいないの?

 このままじゃ……

 殺されてしまう!」


「お母ぁ……!

 いやだ……!

 お母ぁ……!」


 

 その時、

 夫だった男は、

 自分は妖怪の仲間ではないと言わんばかりに、

 村人と共に

 ゆきへ石を投げ続けていた。

 

 人間たちは知らないのだ。

 

 ゆきは、

 この村の守り主だということを——


 彼女がいたからこそ、

 村は長年、招かざる妖怪から守られていたのだ。


  

 それにゆきが本気を出せば、

 この場の全員を殺し、

 逃げ延びることもできた。


 だが、彼女はそうしなかった。


 なぜか――


 わずかでも、

 夫と村人たちとの暮らしが、

 続けられると信じていたのだろう。

 

 白粉婆は、

 張り付けられたゆきを見て、

 恐怖で身体が動かなかった。


 何もしなければ、

 自分には何も起こらない。


 そう思って、

 見て見ぬふりをした。

 

 醜い……

 なんと醜い妖怪がいたものか。 

 

 ゆきを見捨てて

 家へ逃げ帰ろうとした。


 関わらなければ、

 自分は安全なのだから。


 

 ――でも、忘れていた。


 

 彼女のそばには——

 村一番のお人好し、


 草太がいることを。




 

 

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