34話 火鳥の力
火鳥は1人、
2体の鬼に向かって歩いて行く。
「おい、本当に1人で大丈夫か?
お前めっちゃ弱そうじゃん」
「ははっ、きついこと言うなぁ……
この低級鬼程度なら、僕だけでも大丈夫だよ」
「あっ、そう」
火鳥は、
鬼の前に立ちはだかった。
左目にあるサトリの眼が緑色に光っている。
「あのさ、右の鬼さん。
君は後ろの女性を狙っているみたいだけど、
僕には2人がかりで来た方がいいよ」
「!」
「八岐大蛇は食人鬼なんか召喚して、
何に使うつもりだったんだろう?
兵隊の数合わせかな?」
1体の鬼が爪を剥き出し、
火鳥に飛びかかった。
しかし、すでにその攻撃を
わかっていたかのように
火鳥は躱した。
「鎌切さん、
後ろの鬼が君を食べようって、
ずっと狙っている。
一応気をつけて!」
「……あ、あぁ」
それからも鬼の猛攻を、
簡単に躱して見せる。
「あれって、サトリの眼で先読みしてるから
躱せるのか?
すごっ」
風吹が火鳥に意識を向けた、
次の瞬間——
隙ができるのを待っていた鬼が、
風吹へ飛びかかった。
しかし、
——ゴオォォォ!
火鳥の手から放たれた炎の球が、
風吹に飛びかかった鬼に直撃した。
「ぎゃあぁぁーっ!」
断末魔の叫び。
鬼は炎に包まれ、焼かれていく。
サトリの眼で、
鬼の動きを事前に読み取っている火鳥に
隙はなかった。
「ぎゃあぁぁーっ!」
「?」
風吹の叫び声が響く。
「火鳥!
お前!
わたしの前髪を焦がしやがったな!」
「えっ?」
「絶対に許せない!」
「ごめん。
それって焦げてるのかな?
ぜんぜんわからないレベルだと思うけど……」
「ふざけんな!
前髪には拘ってんだよ!」
「でも会った時からボサボサだったよ……」
「なんだと!
コラァー!」
——ドゴッ!
「!」
火鳥の顔に拳が入った。
風吹の——
いや、鬼の拳だ。
「バカッ! 気を抜き過ぎだって!」
殴られた火鳥の顔が崩れる——
「おいおい!」
崩れた顔は炎と変わり、
そのまま、全身が炎の塊へと変化していった。
「どうなってんだよ!?」
その炎は、
鬼の拳を伝って、鬼の全身へ引火した。
——焼却!
「ぐぎゃあぁぁぁーっ!」
気が付けば、
顔が崩された火鳥は、
鬼の横に立っていた。
「お前……火になれるのか?」
「……だって僕、鳳凰だもん」
風吹は、
火鳥の戦い方を目の当たりにし、
言葉を失うくらい驚いていた。
火鳥が風吹の方を見る。
「たまにこういう妖怪が現れるんだよ。
急に店長に駆除を依頼されたりするんで、
鎌切さんも注意しておいた方がいいよ」
せっかく採用が決まったアルバイト先は、
店長が店長なだけに、
やっぱりまともな職場ではなかった。
「戻ろうか。
帰りが遅いと時給削られるんだ」
見せ場を持って行かれて悔しい風吹は、
ぽつりと呟く。
「……とりあえず、
前髪の件は許してないからな」
「——だからごめんって」
1番頑張ったはずの火鳥は、
1番風吹に恨まれていた。
——————
店に戻った2人。
ちょうどその頃
店は夜のピークタイムを迎えており、
火鳥は勤務に戻されていった。
初日の風吹は
オリエンテーションだけで終わり、
帰宅することになった。
退店する風吹に成瀬が手を振っていた。
風吹は店を出てしばらく歩くと、
人気のないところで足を止めて呟いた。
「そんな監視しなくても、
あんたじゃないんだし、
人の男取らないって」
すると、
通りの角から氷花が姿を見せた。
「おや、気づかれていたか?」
「バカにすんな。
お前の嫌な妖気くらい、
ずっと気づいていたわ」
「それは光栄ね」
火鳥のいるところに、
氷花の妖気が常にあることを
風吹はわかっていたようだ。
「わたしに取られると思って見張ってたのかよ?」
「まさか。
煉があなたのような者に
興味を持つ訳がないでしょ」
「なんだとぉ!」
「わたしは爺様からの言いつけで
彼の護衛をしているだけ。
さっきのように彼を喰らおうとする連中から
守るためにね」
「ふん。
あんだけ強いなら、
護衛なんていらないだろ!」
「ふふっ
あの程度ならいらないけど、
鳳凰の力と、サトリの眼を欲しがる連中は後を絶たない。
彼は化け物界のお宝を2つも宿している、
欲張りさんだから……」
「いいもの持ってると狙われるのかよ?」
「なに他人事みたいに言っているの。
あなたも鬼切丸を持っているのよ、
気をつけないと……」
「えっ?
そうなの?」
「はぁ……
これだから世間知らずって困るのよ。
煉も……あなたも」
そう言うと
氷花は踵を返した。
「あなたの彼に、
よろしく言っといて」
氷花は夜の闇の中に消えていった。
「……言う訳ないし」
風吹は性格が子供だった。
——————
社のマンション。
「でさ。
火鳥がいてさ、鬼やっつけてさ。
仕事覚えてさ、明日もバイトなんだぜ」
「よくわからんが、
楽しい1日だったんだな」
伝えたいことが多すぎて、
話がまとまらない風吹——
「あとさ、前髪見てくれよ。
火鳥に焦がされたんだ。
ひどいだろ?」
「……そうか」
「そのせいで前髪だけは
いつも気合い入れてるのに、
短くなったんだ……
……変じゃないかな?」
社は風吹の前髪を見た。
残念なことに、
いつもと何が違うのか
まったくわからなかった。
「大丈夫なんじゃないか……
全然気にならないよ」
「!」
風吹が黙った。
返答を間違えたのかと、
社は固まった。
「やっぱり……
優しいんだな、先生って」
「……」
プラスに解釈されて、
一安心する社だった。
——————
その夜。
風善、風吹、社、なまはげの4名が、
鞍馬山の天狗から
新四天王について話があると、
迷い家に招集をかけられた。
何か情報を得たようだ。
風吹たちは、
再び迷い家に集まることになった。




