31話 火鳥煉
嵐の葬送の儀に、
牛丸が連れて来た男性。
牛丸は彼を——
「先日話した、
わしの後継者予定である
火鳥煉だ」
と、紹介した。
その場に沈黙が落ちる。
「それじゃ、
その人間が妖狐の男ってわけだよな。
未来の旦那がいるのに、
先生にちょっかいかけるなよ!」
風吹が氷花を責め立てた。
「はぁ?
こんなガキがわたしの男な訳ないだろうさ。
よく見てからものをいいなよ。
お嬢ちゃん」
「鞍馬山の主の後継者だって言ってたじゃん!」
「後継者だからって、
なんでわたしがこんな奴の女にならなきゃ
いけないんだい?
後継者と、そこは別問題さ」
「……なっ、なんで、
そんなに怒り返してくるんだよ!」
「あんたがくだらないことを言うからさ!」
火鳥煉はそのやり取りに、
困った表情を見せた。
風吹は火鳥の方を向き、
耳打ちするように呟いた。
「お前さ、
あんな凶暴な妖怪はやめといた方がいいよ」
「普段はすごく優しいんだけどね。
周りに人がいると、
なぜか、厳しくなって……」
「なんだよ……
そっち系かよ。
ツンデレキャラかい」
風善が牛丸に近づいた。
「牛丸……
彼は、人間なのか?
妖怪とも違うような……」
「元人間……と言ったら良いかな」
「お前と同じ元人間!?
かなり仕込まれているように見えるぞ」
「当然だ……
ずいぶんと鍛えてやったからな」
「……信じられん。
あの若さで妖怪に変化し、
牛丸に認められるとは……」
社も興味津々に火鳥を見ていた。
どうも火鳥から感じる妖気が
不思議で仕方がないようだ。
『少なくとも彼から3種類の妖気を感じますね』
『……珍しい妖気だ。
どうして人間から3体の妖気を感じるのだ?』
『酒呑童子は3体の妖気が、
何かわかるのですか?』
『1つは天狗の妖気だ、
牛丸の妖気そのものを宿している』
『鬼切丸のように、
牛丸さんの気を練り込ませた物を
彼に持ち歩かせているのでしょうか?』
『いや、身体の内部から妖気を感じる
練り込ませているとすれば、
あの人間自体に練り込まれていることになる』
『……』
『もう1体は……鳳凰だな』
『鳳凰……?』
『人間の中では不死鳥と崇めている火の鳥のことだ』
『!』
社は絶句した。
1つの身体から3つの妖気を併せ持つ男。
酒呑童子はその中身を、
目の前にいる牛丸の妖気と、
神獣・鳳凰の妖気だと言った。
それなら、
残るもう1体の妖気とは何か——
『あと1つはわからんが、
大した妖気ではない……
脅威にもならんものだ』
『でも、
酒呑童子にも特定できないのが、
不気味なんですけど……』
心の中での
社と酒呑童子の会話。
誰に聞かれるはずもない会話だった。
そこに、
火鳥が社のもとへやってきた。
「はじめまして、
僕、火鳥っていいます
よろしくお願いします」
「あぁ、
初めまして社です。
こちらこそよろしくお願いします」
その後の、
火鳥のセリフに
背筋が冷えることになる。
「もう1つの妖気の正体は、
さとりですよ——」
「!」
「それじゃ」
そう言うと、
火鳥は社のそばから離れていった。
「……さとり!?
心を読む妖怪のさとりか?
今の会話、彼に読まれていた!?」
『さとりなど、
滅多に見れる妖怪ではない。
なぜさとりの妖気を持った
人間がいるのだ?
それに、
どうしてさとりの能力を人間が使える?』
火鳥煉に対し、
謎がさらに深まっていく。
しかし敵ではない。
それが唯一の救いだった。
——————
葬送の儀が無事に終わり、
風吹と社は帰路についた。
しばらくは、2人とも何も話さなかった。
やがて風吹が、
いつもの調子で口を開いた。
「……妖狐ってさ。
ツンデレらしいぞ」
「?」
「あんな意地悪そうな態度は
みんなの前だけでさ。
2人の時とかは優しいんだって」
「へぇー、そうなんだ」
「先生と2人っきりの時にもそんな感じで、
気持ちが流されかけたとかないよな?」
「……ないよ」
「ふふっ、良かった!」
風吹は、
火鳥より氷花に
意識が入っているようだった。
火鳥のことは気にならないのだろうか?
「風吹は火鳥くんが気にならないのか?」
「どうしてあんな奴を
気にしなくちゃいけないのさ?」
「普通は気になるだろ?」
「……きっ、気になるわけないだろ。
わたしは先生の婚約者なんだぞ」
「1つの身体の中に、
3つの妖気があるんだよ」
「確かに変な奴だけど、
わたしはあの女狐の方が気になる!」
無理に元気を装っているせいか、
話が噛み合わない——
「彼から3体の妖怪の気を感じ取れた。
普通じゃないよ。
しかも1体は、天狗の牛丸の妖気で——」
「その話なら、
客間で牛丸さんが説明してたよ」
「えっ?」
「そういえば先生、
その時いなかったよな。
火鳥って奴のことを詳しく話してたぜ」
「!」
急に社は風吹の両肩を掴んだ。
風吹は顔を赤らめ、
驚いた顔をしている。
「あっ……せんせっ」
「頼む、風吹……」
「きょ……今日なのか?
いよいよ子作りするの?
そうだな……
葬送の儀も終わったことだし——」
「教えてくれ。
火鳥くんについて、
ぜひ知りたいんだ」
「——はぁ?」
「ずっと不思議でさ、
気になって仕方がなかったんだ」
「……なんだよ、それ。
つまんねー!」
肩透かしにあい、
不機嫌になった風吹の口から、
火鳥の秘密が語られる。




