30話 葬送の日
嵐の死は、
夜明けを待たず、方々に知れ渡った。
晩年は罪なき妖を斬り殺す、
無慈悲な妖怪として恐れられた嵐。
天才と言われた妖怪の死は
妖怪世界に大きな衝撃を与えた。
ましてや、
その嵐を討ったのは実の妹だ。
妹の風吹が、
蛮行を繰り返す兄・嵐を仕留めたと、
美談のように知れ渡った。
そして、
風吹が土蜘蛛から得た情報を、
風善が各地域主へ流したことで――
新四天王なる組織が
暗躍していることが白日の下に晒された。
八岐大蛇、鈴鹿御前、麒麟——
彼らの名までが世に知れ渡ることになり、
化け物界を震撼させることになった。
——————
八岐大蛇が住む迷い家。
そこには八岐大蛇を中心に、
鈴鹿御前、麒麟、夜行が集まっていた。
「まいったなぁ。
嵐がやられるだなんて思いもしなかった」
「だから言ったであろう……
かまいたち程度の妖が、
ここにいること自体がおかしいと……」
「いやいや、実力は確かなものだったよ。
日本妖怪どもに
新四天王お披露目の際には、
そのルックスと知名度を広告塔にして、
彼を中心に物事を進めていく予定だった」
「同族の妹に始末されるとは……
惨めな最後であったろうな」
八岐大蛇は夜行に目を向けた。
「嵐を随分と買っていた夜行からすれば、
辛いものがあるんじゃないか?」
「……」
「何しろ、
この日本を異国の化け物から
守るために立ち上げた新四天王へ
一番に賛同してくれた仲間だったからな」
「そうだな……
嵐が初めて賛同してくれて、
ここまでやってこられたのは事実だ」
麒麟が口を開いた。
「かまいたちの後釜はどうする。
新四天王の一角が早くも崩れた」
「そうじゃな、八岐大蛇が来て、
四天王が揃うまで
随分と時間がかかった記憶がある」
「めぼしい奴でもいるのか?」
八岐大蛇は足を組み、
肘をついて答えた。
「俺は夜行でいいと思うのだが」
「!」
「夜行の心の友が殺されたんだ。
仇を打つためにも夜行がなるべきだ」
「俺が……か?」
「不満かい?」
「不満などない……
ただ、お前たちのような大妖怪の中に
俺などが……恐れ多い」
「俺たちを集めて、
ここまで形づけたのはお前だ。
新四天王の一角としての資格は十分にある」
八岐大蛇の発言に対して、
鈴鹿御前と麒麟からの反論はなかった。
夜行は、
至急正式な後任候補を探すと告げた。
自分はそれまでの穴埋め的な
暫定のメンバー。
そういった立場なら、
と受け入れた。
「しかし我々も、
しばらくはおとなしくせねばなるまい。
嵐が漏らしたのか知らぬが、
我々の存在や目的が明らかにされた」
「ふん、本当に厄介なことをしてくれたわ、
かまいたち!」
「当分、集まりや派手な動きは控える。
地域主たちが徒党を組んで
ここに攻め込む準備をされても面倒だからな」
「おや、お前らしくもない。
地域主程度に臆するのかえ?」
「臆しているのではないよ御前。
嵐の独断暴走ということで
今回は幕引きを図るんだ」
「……ほう」
「妖怪の誘拐、目の奪取、魂の収集。
すべて嵐の単独犯だということで
拡散する。
我々はこの件に関しては何も知らない。
……いいね」
「……どうとでも」
「バカな連中は、
今日のことをすぐに忘れる。
忘れ始めた時に、新四天王の活動を再開する。
その時こそ我々がこの日本を
——まとめる時だ」
八岐大蛇の迷い家は、
霧の中の奥深く——
誰も辿り着けないその場所へ身を潜めていく。
次の活動を再開する、
その日まで——
——————
嵐との死闘から数日後——
鎌切家で行われた嵐の葬儀は
寂しいものだった。
嵐の葬送の儀。
それは大々的に知らせず執り行われた。
父・風善が気を許している
妖怪の数名にだけ声をかけた。
罪を重ねた嵐を
許さない妖怪たちがいる。
新四天王という
組織の存在も知れ渡った。
得体の知れないものに関わるまいと、
声をかけても参列しない者もいた。
しかし、
それでも——
集まってくれる者たちがいる。
坊主がいないと話にならない、
と言って——
青坊主が駆けつけてくれた。
風善。
風吹。
社。
なまはげ。
天狗の牛丸。
妖狐の氷花。
そして、
見覚えのない人間の少年。
たった8名で、
葬送の儀はしめやかに営まれた。
風善の顔は、
息子を失った父親の顔になっていた。
それでも気丈に振る舞う姿は、
かまいたち一族の主として
立派なものだった。
風吹は、
あの日から兄の写真を
見ることができずにいた。
部屋に飾られた写真立ては、
ずっと伏せられたままだ。
「惜しい男よ……鎌切嵐
氷花と彼が、
新時代の妖怪を率いていくものと
ばかり思っていた……」
「爺様、わたしは率いていくとか
そんな柄じゃないの。
お断りさ」
こうして一同は、
静かに嵐を見送った。
風善が、
みんなに謝辞を伝えている間、
風吹はぽつりと呟いた。
「もう少しさ……
誰か来てくれても良かったと思うんだけど」
それに対して、
なまはげが答えた。
「道を外せば理から外される。
戻る術はなく歩むは茨の道……
差し伸ばされる手は救いの手ではなく、
深みに嵌るためのもの」
「……」
「どんなに素晴らしい者でも、
一つ間違えればこうなる。
ゆめゆめ忘れるな、風吹」
「……うん」
そんな中、
全員の注目は、ある人物に向いていた。
それは、天狗の牛丸と妖狐の氷花と一緒にいる
少年へだった。
見たところ随分と若い。
みんなの気持ちを代表して
風善が牛丸に問う。
「牛丸よ……
一緒にいるその少年は誰だ?
見たところ人間のようだが……」
「あぁ、すまぬな。
社も参列すると聞いてな。
こんな時になんだが、
わしも紹介をしようと思って連れてきたのだ」
「!」
「先日話した、
わしの後継者予定である、火鳥煉だ——」
「……後継者!?」
その少年は——人間だった。
牛丸は、
人間を後継者と言った。
他の妖怪たちは、
誰もが氷花が後継者だと思っている。
しかし牛丸は、
氷花の前で後継者として
この少年を紹介した。
その隣で、
氷花がどこか心配した様子で
彼を見つめていた。
嵐編、完結です。
嵐は死んでほしくなかったなぁ。
と思いつつ、今後の物語のためにどうしても必要でした。
少しでも面白いと思っていただけたら、
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