28話 兄妹喧嘩
鬼切丸が宿す鬼気を
半分ほど取り込んだ風吹の容姿は、
すでにいつもの彼女のそれと大きく異なった。
「それが鵺を追い返した時の力か?」
「……覚えてないや」
「それだけの鬼気を浴びながら、
まともに会話ができるのだな」
「何言ってんのよ、当たり前でしょ!
強くなったからって
会話ができなくなるわけないじゃん!」
すると、嵐は微笑みながら言った。
「それほど高密度の鬼気を浴びて、
理性を保てていることが
異常だと言っているんだ」
「?」
「並の者なら、
すでに鬼落ちしていてもおかしくないレベルだ」
「そうなんだ……。
理性はあるけど、力の調整はできないから
死なないでね、にいに!」
「頼もしいセリフだな」
「わたしの愛の鉄槌で、
目を覚まさせてやるよ!」
そう言うと、
2人は剣先を互いに向けて構えあった。
ふと、嵐は社に目を向ける。
一言主神の術による、
行動停止を警戒していた。
「にいに、よそ見していいのかよ?」
「……お前相手なら、
よそ見しているくらいがちょうどいい——」
風吹が最速の打突を放つ!
——ギュインッ!
咄嗟の一撃を嵐は大剣で弾いた。
初めて先手を風吹がとった。
これまでは嵐の攻撃に合わせていた
剣技だったが、
今の風吹は違った。
大剣と刀がぶつかり合い、
互いに一歩も引かず、打ち合っている。
その刹那——
風吹は体勢を変えて、
蹴りを嵐の顔に入れた。
——バキッ!
予期せぬ一撃をまともに受け、後退する嵐。
その隙を風吹は躊躇せず攻め込む。
——斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ!
バランスを崩しながらも大剣を盾に受け流す。
「妖術・風壁!」
——バンッ!
嵐の前に竜巻のような風の壁が現れ、
風吹を弾いた。
「何だよ。
剣士の戦いに妖術なんか使っちゃってさ!」
「蹴りを入れてくる奴に言われたくないよ」
「仕方ないじゃん、隙だらけだったんだし!」
「……言ってくれる」
今度は嵐から動いた。
風をドリルのように大剣に纏わせ、
全身を相手に向けて突っ込む——
「鎌切流刀術・嵐気竜!」
突き刺すように、
嵐が一直線に飛び込んでくる。
嵐のすべてを射貫く
必殺必中の一撃——
しかし、風吹も同じ技の構えをとった。
「鎌切流刀術・嵐気竜!」
風吹もドリルのように渦巻く風を
鬼切丸に纏わせ、
全身で突進!
風の渦巻く剣先同士がぶつかり合い、
そのまま押し合う。
竜巻と竜巻のぶつかり合いに、
一帯の木々は大きく揺れた。
「まるで台風だよ」
見守る社が呟いた。
風吹と嵐は弾かれて、
互いに後方へ吹き飛ばされた。
「信じられないな……
俺の嵐気竜を嵐気竜で返すだなんて……」
「ふん!
わたしはまだ余裕あるからね!
とっとと降参した方がいいんじゃない!」
「相変わらず、
見栄っ張りは変わらないな……。
ずいぶん妖気の消耗が激しいようだが?」
「……ふん。
わたしの妖気は底無しよ!」
図星を突かれた風吹は、
照れくさそうに言い返した。
「最近になって
お前に刀術を教えていた、
なまはげ様の言葉を思い出すんだ」
「!」
「その手の刃は小さくとも、
お前の心には兄の大剣に負けない刃がある……
覚えているか?」
「あったりまえでしょ!
意味わかんなかったけど、
それだけがにいに勝ってる部分だって
信じて修行してきたんだもん!」
「なまはげ様は立派な方だ。
お前の本質をしっかりと見抜いていた。
そして……」
「?」
「お前はその方を信じて、
最後までついていった」
「あたりまえじゃん!
師匠はわたしの中で
イッチバン尊敬している妖怪なんだから!」
「……あぁ。
知っているよ」
2人のやり取りを見ている社の中で、
酒呑童子が呟いた。
『次の攻撃が最後になるだろう……』
「俺も……
そう思います」
『これ以上は風吹の身体が
鬼気に耐えられない。
それを嵐は気づいている』
「はい」
『……止めなくて、
良いのか?』
「……」
——————
嵐が脇構えのポーズをとった。
「今から大鎌切で、
お前の鬼切丸を叩き折る」
「できないよ、そんなこと」
「どうかな?
俺の漆黒の大剣は、
お前の鬼切丸に引けは取っていない。
技術が勝れば鬼切丸を砕くことは可能だ」
「なら、わたしも大鎌切で
その大剣をへし折ってやるよ!」
「……よし。
なら、これが最後の力比べとしよう」
「望むところだ!」
風吹は鬼切丸を鞘に戻し、
抜刀術の構えをとった。
大鎌切とは鎌切流刀術の中で、
基本中の基本となる技。
今から、
互いの武器で同じ技を繰り出し、
その勝敗を決める。
いよいよ——
この兄妹喧嘩に終止符が打たれる。




