27話 鬼気の解放
金属同士のぶつかり合う音が、
一帯に響く——
嵐は漆黒の大剣を、
本気で振るっている。
風吹は鬼切丸で、
それをすべて受け斬っていた。
「どうした!
攻撃をしないと俺は斬れないぞ!」
「もともと斬る気なんてねーし!」
「なら、俺は止まらない!
お前を斬ったあと、お前の婚約者、
友人を殺しに向かうだけだ!」
「ふざけんなって!」
風吹の妖力がまだまだ上昇していく。
それを嵐は感じ取っていた。
——————
社は横目で2人の戦いを見ていた。
『大したものだな……』
「えぇ本当に……
風吹は嵐の攻撃すべてに喰らい付いています」
『そうではない……
あの漆黒の大剣という剣の話だ』
「剣ですか?」
『鬼切丸は、
我の鬼気を練りに練り込んだ一刀だ。
斬れぬものがなければ、
打ち合える武器もないと自負していた……』
「……確かにそうですね」
『あの大剣……
鬼切丸に引けをとっておらん』
その時、1体の妖怪が叫んだ。
「なにブツブツ言ってやがる!
殺すぞ!」
仲間を殺された妖怪たちの怒りが社に向く。
一斉攻撃に切り替えるようだ。
『しかし、使い手の能力だけで見ると、
万が一にも風吹では嵐に勝てない——』
「それは、俺も承知してます。
だから、一瞬でここを終わらせますね」
襲いかかってくる30体近い妖怪に、
一言主神の力を解放する。
《我に牙を剥きし魑魅魍魎の存在を——禁じる》
たった一言。
その一言で、
社の目の前にいた妖怪たちは、
光の粒となって消えていった。
そして、社は風吹と嵐に視線を移す。
そこには、
なおも斬り合う2人の姿があった。
◇◇◇◇◇◇
「四国の妖怪を一体も
生け捕りできなかったとな?」
「あぁ、団三郎狸に気付かれてな。
団三郎狸は討ち取ったが、
他の妖怪に気付かれた。
そのせいで生け捕りができなかった」
「たかだか、
狸風情に手こずるとは情けない。
新四天王から降りてはどうかね?」
鈴鹿御前は、
そもそも、かまいたちという妖怪を
下等な妖怪だと見下していた。
彼女は四国のお目当てである妖怪を
攫って来れなかった嵐を責め立てた。
「まぁ、そこまで責める必要もないよ。
鈴鹿御前」
「甘いのぉ、八岐大蛇は……」
「代わりに嵐には、
お願いしたいことがあるんだよ」
八岐大蛇は、
嵐にその願い事を聞けば、
今回の失敗を不問にすると言ってきた。
「俺はなにをすればいい……?」
「KAMAGIRI製薬……
君の家族だろう?」
「!」
「我々へ融資を願いたい……」
「融資だと?」
「地獄の沙汰も金次第だ。
妖怪も人間世界の金を持っている方が
自由が効くんだ」
「……」
「KAMAGIRI製薬の後ろ盾があれば、
この組織は大きくなるし、
世界にも顔が利くようになる。
そうは思わないか?」
「……そうだな」
「近々に融資の話を通してほしい。
もし、父上が断ってくるようなら
殺してしまえばいい。
最終的には息子が会社を引き継ぐのだから
父上もお喜びになるだろう」
「……」
「話がまとまらなければ、
鈴鹿御前を差し向ける……
悪く思わないでくれよ」
「……了解した」
——————
だから、あの日。
嵐は風善を斬り殺す、
——振りをして、
どこかに逃すつもりだった。
しかし、
その日その場所に、
風吹と見知らぬ人間が
偶然にも居合わせたのだ。
久しぶりの再会だったが
感情を押し殺した。
妹は、あの頃のままでありながら、
鬼切丸を携え人間と婚約していた。
そしてその婚約者は——
嵐でも勝てない強さを持っていた。
恐ろしい力を隠し持つ人間だと
わかった。
鬼切丸を造ったのは酒呑童子だ。
それなら、
あの人間から僅かに感じる鬼気の正体は、
酒呑童子のものなのではないか?
酒呑童子を体内に宿す人間がいる。
嵐はそんな噂を聞いたことがあった。
「お前たちになら……託せそうだ」
「なにがよ!?」
嵐が横一線に大剣を振ると、
風吹の身体は弾かれるように後退した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
風吹の息が荒く響く。
嵐が間合いを詰めるため、
風吹に近づいた。
時折、社へ視線を向ける。
助太刀に入る気配はないか、
その動きを警戒していた。
「その程度か?
鵺を追い返したと聞いたが……」
風吹は汗を拭った。
「こんな程度な訳ねーじゃん!」
そういうと、
風吹から感じる鬼気が膨れ上がっていった。
鬼切丸とのシンクロ率の変化が始まった。
これまでは、
鬼切丸の鬼気をほんの一部しか
受け取っていなかった。
しかし先日の鵺戦で、
さらに多くの鬼気を受け入れることができた。
目が血走り、
うっすらと牙が見える。
顔と身体には
鬼に見られる紋様が
はっきりと浮かび上がった。
妖気のレベルが、
今までの風吹ではなくなった。
「……それが、鵺を追い返した時の力か?」
「悪いけど今のわたし……
手加減の仕方、わかんないからね」
覚醒・風吹——始動する。




