26話 歪み始めた大剣
「嵐よ、
この日本で新四天王という組織を作り、
世界に示していこうと思う。
お前には、その一角を任せたい。
なってくれるな」
「夜行がなればいい。
俺は興味がない。
あんたがなるなら、
俺は全面的にバックアップをしよう」
「俺じゃだめだ。
華がない……カリスマ的な何かを持つ者が必要だ」
「俺にもそんなものはないよ」
「お前にはあるさ。
見た目もさることながら、
その大剣は、
一度見たら忘れられないインパクトがある」
「そうなのか?」
「過去の四天王たちのおかげで、
日本は異国の連中から守られてきた。
しかし、今や現存確認できているのは土蜘蛛くらいだ」
「……」
「奴らはこの島国を、虎視眈々と狙っている。
防衛のために準備が必要なのだ。
だから頼む嵐、
新四天王の1人として立ち上がってくれ」
◇◇◇◇◇◇
「嵐、新しい仲間だ。
鈴鹿御前がようやく新四天王入りを決めてくれた。
彼女の参加は大きいぞ。
なんせ天女、鬼女と言われる最強の女妖怪だ」
「そうか、夜行の目的が一歩前進したのだな。
喜ばしいことだ」
◇◇◇◇◇◇
「嵐!
麒麟だ……あの麒麟が新四天王に入ると
言ってくれた。
神通力ですべてを意のままにする神獣。
予想以上のメンバーが集まっているぞ」
「まさか麒麟が入るとは……
彼は神獣——神だ。
麒麟を我らのリーダーに
おけばいいんじゃないか?」
「あぁ……。
まったく贅沢な話だ。
過去の四天王を超えるメンバー構成だ。
あと1体。
あと1体揃えば、世界の脅威となり、
異国を牽制できる」
◇◇◇◇◇◇
「麒麟から、
八岐大蛇の封印石のありかを聞いた。
近々、その解印に向かうぞ」
「……八岐大蛇が復活か。
成功すれば、あんたの理想が
すべて現実になるな」
今思い起こせば、
八岐大蛇が復活してから——
我々の何かが変わっていった。
——————
「まだ抜かないのか!
風吹!」
嵐は怒りに声を荒げ、
大剣を振り下ろした。
その刹那——。
——ガキンッ!
風吹の意思ではなく。
鬼切丸の意思で顕現し、
漆黒の大剣を薙ぎ払った。
「鬼切丸?」
「……」
「そっか、ごめん……。
わたし……
戦わなくちゃいけないんだね」
そういうと、
宙に浮かぶ鬼切丸を掴んだ。
その姿を見ていた嵐は
風吹に言った。
「鬼切丸の方が、
ものわかりが良いようだ……」
◇◇◇◇◇◇
「嵐よ、八岐大蛇復活は成功した。
奴を新四天王の頭とするぞ」
八岐大蛇を初めて見た時から、
すぐにその異常性には気がついた。
八岐大蛇は、
我々の中でも別格の存在だった。
嵐はこれで、
異国からの侵略攻撃があっても、
日本を守れると思った。
夜行は新四天王のメンバーが揃ってからも、
有事に備え、
日本中の妖怪たちに力を貸してもらえるよう、
声かけに奔走していた。
しかしある時……。
「声かけなど、
時間の無駄ではないか?」
「?」
「必要な能力は力尽くで奪い、
こちらで好きに使えば良いのではないか。
夜行……」
「しかし……
みんなの同意が……」
「妖怪どもの意見を聞いて回り、
それでこの国を守れるのか?
お前に賛同しない者を、
守る必要があるのか?」
「……」
「必要な妖怪がいれば攫えばいい。
言うことを聞かぬなら殺せばいい。
瞳力を持つ妖怪なら、その目だけを奪えばいい。
何も了承を得る必要もなし……」
「……そっ、そうだな」
「ものわかりのいい参謀で助かる。
さすが、夜行だ」
鈴鹿御前と麒麟は、
何を思って聞いていたかはわからない。
ただ、
嵐は困惑していた。
◇◇◇◇◇◇
嵐は漆黒の大剣を振り下ろした。
明らかに風吹を殺すための攻撃だった。
——キンッ!
鉄の塊の攻撃を、1本の日本刀がいなす。
そこからは大剣と日本刀の斬り合いが始まった。
両者一歩も動かぬまま、
剣と刀だけがぶつかり合う。
2人の間に無数の火花が咲いた。
「始まったね……」
社が呟いた。
「よそ見してんじゃねーよ、人間」
「?」
「こっちは誰がテメェーを喰うかで揉めて、
大変なんだよ」
社は深くため息を吐いて、
30体の妖怪たちの方を向いた。
「揉めるとか無駄だよ。
お前たちは、何することもなく
ここで死ぬのだから」
社は呪力を解放した。
「がははっ!
喰うのは早いもん勝ちだ!」
「おい!
ヒョウスベ、それは卑怯だぞ!」
社は印を切り唱える——
『烈波の式!』
炎の波が空間より現れ、
ヒョウスベを飲み込んだ。
「ぎゃあぁぁーっ!」
「なに!」
社は妖怪たちに身体を向けて一歩前に出る。
「次は……誰?」
「おのれっ!
呪術師かよ!」
妖怪たちは表情を変えた。
悪ふざけの時間は終わったのだ。
「いい気になるなよ、人間がぁ!」
雪男と一本だたらが襲いかかる。
『風舞の式』
激しい風が荒れ狂い、
雪男と一本だたらの首を刎ねた。
「!」
妖怪たちの足が止まる。
「こんな連中じゃ護衛にもならないこと
わかっていたろうに……
嵐はどうして連れてきたんだろう?」
社には、
嵐が仲間として連れてきた
妖怪たちのレベルの低さが
不思議で仕方がなかった。
◇◇◇◇◇◇
「嵐、次は四国方面を頼む……
八百八狸を狙う。
奴らの中には様々な能力を持った連中がいる」
「……夜行」
「?」
「俺たちがしていることは……
正しいのか?」
「……」
「この国を守るための準備のはずが、
俺たちは仲間を……
妖怪たちの尊厳を奪っている」
「違う……違うぞ嵐。
お前は若い。
だから大昔の侵略戦争を知らんのだ……」
「?」
「かの大戦で、
戦況を大きく変えたのが四天王の存在だった。
特に鵺、土蜘蛛、
彼らの功績は大きい!」
「彼らの代わりに俺たちがなるのだろう?
なら、どうして妖怪を攫い、眼を奪う?
そして……
最近では人間の魂まで集めている……」
「……それは」
「俺はあんたの目指す方向に賛同して、
ここまで共にしてきた。
しかし最近は——」
「仲間同士で喧嘩はいけないな」
突然、嵐の耳元で囁く声。
気配も妖気も感じさせず、
嵐は背後を取られていた。
振り向いた瞬間に、
殺されてもおかしくない威圧感だけを感じた。
——八岐大蛇。
「なにを揉めている?」
嵐は汗が止まらなかった。
本来の嵐なら、
振り返って己の考えを伝えただろう。
しかし嵐は、
圧倒的な八岐大蛇の存在感に——
臆した。
そして嵐は振り返らず、
告げたのだ。
「なんでもない……
今から、四国へ行ってくる……」
天才——
新しい四天王候補——
様々な呼び名で讃えられてきた
最強のかまいたち、嵐。
その彼が初めて強大な力に屈し、
——己に失望した瞬間だった。




