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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第二章 四天王と新四天王

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17話 妖狐 氷花



 深夜2時。


 あるマンションの裏手を流れる川。

 

 その中央に、

 スーツ姿の男が立っていた。


 男は、ゆっくりと手招きをしている。

 

 その手招きに誘われるように

 3人の女性が姿を見せた。


 女性たちに意識はなく、

 おぼつかない足取りで入水していく。


 

「こっちにおいで……。

 ずっと僕たちは一緒だ」 



 その男は感情のない表情で、

 甘い言葉をかけながら

 女性たちを水の中に沈めていく。


 

 「河童だねぇ」

 

 

 川辺には着物姿の女性が立っていた。


 彼女は、

 長い黒髪。

 妖艶な雰囲気。

 すべてを達観したような目線。


 そして——

 何より美人だった。


 正体は妖狐の氷花。

 鞍馬山の妖怪の長である天狗の秘蔵っ子だ。

 


 氷花はひらりと舞い、

 川面に音も立てずに着水した。


 

「俺を河童と知ってやってきたのか?」


「うちらの縄張りで

 しょうもないことをしてくれているんでね。

 殺そうと思ってさ」


 

 氷花は冷たく言った。

 

 

「このまま退けば、

 殺さないであげるけど……」


「……若いな」


 

 河童は一笑に付した。


 そして、

 首元まで入水した女性たちの顔を指で撫でた。

 

  

「狐火を得意とする妖狐が、

 バカなお前たちを助けに

 河童の土俵まで上がってきたよ……」


 

 次の瞬間。


 河童が両腕を振り上げると、

 川の水が渦を巻き、2本の水柱が立ち上がった。



「妖狐という恵まれた種族でありながら、

 敵を見る目がない……

 親の教育不足だな」



 すると――

 蒼い炎が、

 氷花の両腕と両足に巻き付くように現れた。



「親はね。

 わたしが物心つく前に死んでしまってさ。

 顔さえ知らないんだよ」

 

「そうか……

 なら死んで会いにいけ」



 2本の水柱が、

 唸りを上げて氷花へ襲いかかる。


 

「ところで、

 君、かまいたちと鵺の仲間かい?」


「……死ぬ直前に何を言っている?

 意味がわからん!」



 氷花の身体に巻き付いていた蒼い炎が 

 蛇のようにうねり、膨れ上がった。


 

 ――まるで炎が生きているようだった。



「そう……知らないんだね」


 

 氷花が河童に向けて手を開いてみせる。

 

 すると、

 のた打つ蒼い狐火が爆ぜて

 水柱を飲み込んだ。 


 そして、一瞬にして水柱を凍らせたのだ。

 

 炎に飲み込まれたはずの水が凍る。

 河童には理解できなかった。



「妖狐の中でも異端でね。

 わたしの狐火は燃やすでなく凍らせるんだよ」



 河童は危険だと判断し、

 水中に入ろうとした。


 

「!」



 しかし水面は凍結し、

 すでに潜ることはできなかった。

 


「なにっ?」


「さっき、なんて言ってたっけ?

 敵を見る目がない——

 親の教育不足……だっけ?」


「クッ、クソが……」


「その言葉……そのまま返すよ」



 蒼い狐火が河童を頭から飲み込んだ。 


 一瞬で凍った河童は、

 氷となった水柱とともに

 音もなく砕け散った。



 ——————

 

 

 氷花は入水した女性たちを引き上げ、

 川辺に寝かせた。


 最近この辺りを騒がせていた

 怪異の駆除は成功した。



「さて、

 帰って風呂にでも入ろうかねぇ」



 氷花は大きく伸びをして、

 迷い家へと帰って行った。

 


 ――――――



 京都の高校。


 その学校の指導室で、

 社は進路指導を行っていた。

 

 生徒と真剣に向き合い、

 将来を一緒に考える教師――

 

 そんな理想を抱いて教師になったものの、

 なかなか理想通りにはいかず

 苦労していた。


 気怠そうに見える風貌のため、

 生徒に舐められることもしばしば。

 

 それでも生徒たちから、

 なんだかんだで慕われている。

 


 本日最後の進路指導を終えた社は、

 机と椅子を整えながら窓の外を見つめた。



「嫌な空だ……」


「えっ?  晴れてるやん、空」


「 ……目に見えるものが

 すべてじゃないんだよね」

 

「何言うてんのセンセ……?」


 

 生徒を進路指導室から出したあと、

 社は再び空を見上げた。


 

「……なにか来そうな空じゃないですか?」


 

 その独り言に、

 心の中で返事をする者がいる。

 


『お前目当てに

 訪ねてくる者がいるようだ。亮介』


「……ですよね。

 とりあえず急いで帰る支度をします」



 社は職員室へ戻り、

 帰り支度を整えた。

 

 ジャケットを羽織り、

 鞄を手に正門へ向かう。



「あれ! 社センセ、

 今日は電車じゃないんですか?」


「あぁ、今日はちょっと用事があってね」

 

「えーっ!

 デートちゃうの!」


「違うよ!」



 生徒たちが手を振る。

 

 社も照れながら手を振り返した。


 人気のない場所を選び、

 足早に歩き出す。



『殺気は感じられん』


「一応、喜咲神社へ向かいます」



 学校の裏山にある喜咲神社。

 

 長い石段を上り、鳥居をくぐる。


 鬱蒼とした木々に囲まれた、

 静かな稲荷神社だ。

 

 狛犬の代わりに

 狛狐が鎮座している。



「はぁ……

 久しぶりに登るときついな」



 社は大きく深呼吸をした。


 そして鳥居の方へ身体を向けて声を掛けた。



「君は平気?」



 すると、

 白い肌の小さな顔が、

 鳥居の陰から覗いた。


 

「やっぱり気付いてたよね……」



 鳥居の陰から、

 妖狐・氷花が姿を現した。




  


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