15話 妖雷と妖刀
鵺は、
紫の稲妻を風吹に向けて放った。
雷鳴が大気を震わせて響き渡る。
——バリバリバリッ! ドーンッ!
大きな爆発とともに、
激しい雷光が飛び散った。
「……」
「……おいおい、
どうなってやがる?」
放たれた紫の稲妻は、
鬼切丸が避雷針として
すべて受け——斬った。
斬られた稲妻は、
飛散して散っていく。
「どこぞのパチもんの妖刀かと思ってりゃ
マジもんの鬼切丸かよ……」
衝撃で風吹の手が震える。
「斬った……雷を斬ったよ……
鬼切丸すごっ!」
「聞いてねーぞ……
鬼切丸を持っているなんてよ」
風吹は着地し、体勢を整えた。
「何か……
隠してやがるな……」
鵺は風吹に飛びかかった。
全身に雷をほとばしらせての猛攻——
風吹は鬼切丸を振るい、命からがら受け流す。
「わっ……わたしすごいかも!」
「ちっ!
小童ごときに何してんだ俺はよぉ!」
鵺相手に、予想以上に善戦する風吹。
「思ってたより……
なんとかなるかも……」
「……あの刀が鬱陶しいぜ。
狙いをかまいたちの女に絞るか……」
次の瞬間、
けたたましい紫の稲妻が周囲を取り巻く。
「かまいたち如き相手なんだが……
ちょいと本気を出そうかなぁ」
「今まで、本気じゃなかったのかよ!」
「あんなの遊びよ」
鵺の身体が稲妻に包まれる。
直視できないほどの
まばゆさを纏った。
両手に特大の稲妻を溜めている。
「でかい!?」
「これは受け斬れねーぞ。
触れた物を、すべて飲み込む雷よ!」
「!」
「おらよっ!」
紫の光線が、
落雷音をたてながら放たれた——
風吹は本能で察した。
これは触れてはいけない——
触れれば
跡形も残らず消し飛んでしまう——
しかし、
絶対に躱すことのできない
攻撃スピードだった。
「うわぁぁーっ!」
——ズオォォーンッ!
大きな爆発音とともに
砂埃が巻き上がった。
触れれば
跡形も残らず消し飛んでしまう——
その表現が、
完璧なほどの破壊力だった。
鵺はぽつりと呟く。
「俺としたことが大人気なかったかな?
まぁ、次はかまいたちの親父で、
その次が——」
「!」
砂埃が落ち着くと、
そこに人影が見えた。
「マジかよ。
立ってやがるのか……」
「……」
「……誰だ、お前?」
そこにはうっすらと牙を生やし、
顔と身体には鬼族に見られる紋様を
浮かび上がらせた女が——
いや。
風吹が立っていた。
風吹は次の瞬間、
鵺の目の前まで移動し、
鬼切丸を振り上げていた。
「はえぇ!」
電光石火の動き。
スピードでは鵺も負けない。
間一髪で避ける。
続けざまに、
風吹は鬼切丸で乱れ斬る。
鵺は爪で応戦。
「なんだコイツ……
本当にさっきのかまいたちの女か?
別人じゃねーか!」
風吹から反応がない。
「そうか、鬼切丸が鬼気を貸しやがったな!
この鬼気は覚えがあるぜ——
酒呑童子かぁ!」
鵺は稲妻を風吹との間に落とし、
距離をとった。
風吹は、鬼の目で鵺を睨んでいる。
「鬼切丸と……
酒呑童子の鬼気を纏うかまいたち……
どうなってやがる?」
鵺はすかさず雷を放つ。
しかし風吹はそれを躱しながら、
真っ直ぐ鵺へと迫って来る。
——ブンッ!
鬼切丸を振るった。
「!」
鵺の右肩の皮膚が裂けた。
鵺は爪を剥き、
近づいてきた風吹へ突き返す——
しかし、軽やかに躱され反撃を受ける。
「チッ!
戦闘狂の鬼と戦っているような気分だぜ!」
その時、
鵺は黒雲立ち込める空に、
動く何かの存在に気がついた。
「さっきから気にはなっていたが、
あれはなんだ?」
鵺は一瞬にして空高くまで移動し、
それを捕らえた。
そして捕らえた物を見つめて、
呟いた——
「……俺を監視してたってか?」
掴んでいたのは
使い魔のカラスだった。
カラスを操り、
視覚共有をするとカラスの見ているものを
術師は見ることができる。
鵺はそれを握り潰し、
風吹を見下ろした。
「俺を使って……
遊んでやがるな!」
「……」
すると鵺は風吹に対して叫んだ。
「予定変更だ!
お前のような童と遊んでる
場合じゃなくなった!
じゃあな!」
そう言うと、
鵺は黒雲の中へと消えていった。
――――――
立ち込めていた黒雲が
晴れていくとともに、
鵺の気配も消えていった。
すると、
風吹の身体に浮かんでいた
模様と牙が消えていき、
理性を取り戻し始めた。
「……わたしって」
全身の震えと汗が止まらない。
鬼切丸の鬼気を取り込み、
能力以上の戦闘力を発揮したツケだ。
「全身が……痛い。
何かに身体を乗っ取られたような
感じだよ……」
風吹は大きく息を吐き、
鬼切丸にしがみつきながら膝をついた。
「た、助かったんだよな?
死んだ気しかしてないのに、
生きてるし……」
風吹は冷静になり、
鵺が去る前に言っていた
セリフを思い出した。
――俺を使って……遊んでやがるな。
あれはどういう意味だったのだろう?
いや、
それよりも
襲われた理由すら風吹には分からない。
頭の中で、
嵐が関係しているのでは——
それだけが気になっていた。
――――――
「もしもし、先生」
その場で呼吸を整えた後、
風吹はスマホを拾い
社に電話をかけた。
「今さ……全身紫の妖怪に襲われた。
うん、大丈夫。
先生も気をつけて……」
「うん、また後で……」
風吹がまず気に掛けたのは、
社と父・風善のことだった。
次に風善と連絡を取ろうとした時、
霧が立ち込み、
風吹の目の前に大きな門が浮かび上がった。
それは鞍馬山の迷い家への入り口——
「風吹!」
門の奥から風善が姿を見せた。
「パパっ!」
「こっちに来るんだ!」
風吹は言われるがまま、
霧に浮かぶ門を潜った。
門を潜ると霧は晴れ、
ゆっくりと門が閉じられた。
「パパ、ここは?」
「天狗の迷い家だ。
鵺がお前を襲っていると聞いてな。
天狗がお前を救うべく
迷い家の門を開けてくれた」
「鵺って……なに?」
「……なにって
お前、今さっきまで戦っていただろ」
「……」
「……紫の、雷の奴だ!」
「あっ……あっ……
あれが——鵺ぇーっ!」
「そっ、そうだ。
知らずに戦っていたのか?」
「四天王の鵺!
うわぁー!
サイン貰っとけばよかった!」
「……そうだ、あれが鵺だ。
異国の化け物が侵略戦争を仕掛けてきた時、
先陣を切って活躍した最強の妖怪だ」
「どおりで強すぎると思ったんだ……
絶対に死んだと思ったもん」
すると、屋敷の奥から声が聞こえた。
「ほっほっほっ、
それでもお主は生きておる。
大したものだ、
あの鵺と対峙して生き残ったのだから」
「だっ、誰だ!?」
「鬼切丸を持っていたとはいえ、
あの状況から生き残れたのだ。
お前は何か特別なものを
持っておるようだの」
「あんたは……」
「忘れたかのう?
幼き頃に、何度か会うておるぞ……
この鞍馬山の天狗とな——」
15話までお読みいただき誠にありがとうございます。
まだまだ続きますので面白いと思っていただけましたら、
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