14話 嗤う雷鳴
迷い家——
迷い家は“マヨヒガ”という妖怪を
調伏した時の姿になる。
そのマヨヒガに主人と認められれば、
家主として住まうことができる。
鞍馬山の長、天狗の牛丸もその1人だ。
風善は使用人のあかなめに案内され、
日本家屋を模った
マヨヒガの中へと入った。
マヨヒガには天狗の許可がないと
入ることができない。
「まったく……
天狗には会うだけでも一苦労だ」
——————
一方その頃――
鞍馬山とは別の迷い家。
鞍馬山の日本家屋を模した
迷い家とは対照的に、
それは明治・大正時代の洋館を
思わせる造りをしていた。
その1室で、
1体の妖怪を中心に3体の妖怪が
テーブルを囲んで話し合いをしていた。
「それで結局は家族を殺せなかった……?」
「……想定外のことが起きた。
かなり手練の退魔師だ。
お前たちも舐めないほうがいい」
「笑わせるのぉ……
人間に怯えて逃げ帰って来たなど」
「笑いたければ笑えばいい……」
「やはり、かまいたち如き妖怪を
我らの仲間に入れるべきでは
なかったのじゃ」
かまいたちの嵐に、
きつい言葉を投げつける
女の声が聞こえた。
すると——
「そう言うてやるな。
嵐の強さは俺が保証する。
この新四天王のメンバーに相応しい
戦闘能力の持ち主だ」
「果たしてそうかのぉ……」
中央に座する妖怪が、
2体の小競り合いを止めた。
「嵐には、その任から外れてもらう。
その代わりに面白い奴を
派遣することにした」
「……それは誰だ?」
「ふふふっ。
日本妖怪の元四天王が使い魔として、
この組織にいたら箔が付くと思わないか?」
「!?」
「今、居場所を把握しているのは
土蜘蛛くらいだ。
奴を引き込めたのか?」
「……土蜘蛛ではないよ」
「では誰だ?
酒呑童子は絶対に京都を動かない。
あとの2体は生存すらわからん……」
「……鵺だよ」
「鵺!?
見つけたのか……アイツを?」
「あぁ」
「今どこに?」
「噂の強さが本物か見極める必要がある。
嵐がちょうどいい実験台を残してくれた。
今、それに向かわせているところさ……」
「……」
「手始めに、
お前の妹の風吹のもとにな……」
「!」
「君の失敗は、
必ず鵺が晴らしてくれる」
中央に座するその妖怪が、
ニタリと笑った。
――――――
鵺。
獣型の化け物。
顔から腰までの上半身は人型、
腰から下は獅子や虎に似た造りをしている。
尾は蛇のようにうねり動く。
身体を霞に変え、
雷を自在に操る凶暴な妖怪。
別名――雷獣、とも呼ばれる。
――――――
もうすぐ、
6限目終了のチャイムが鳴る。
午前中は晴れていたが、
午後になって雨雲が立ち込めた。
どんよりとした空。
窓の外のグラウンドには誰もおらず、
通りも静まり返っている。
「にいに……。
今どこにいんだよ」
今の風吹には、
教師の声など耳に入らない。
彼女の頭の中は、
兄、嵐のことでいっぱいだった。
——————
以前、級友の小田と成瀬に、
妖怪かまいたちであることがバレた。
しかし社の手により、
2人のその部分だけの
記憶を消してもらった。
風吹は、
それ以来学校ではおとなしくしている。
学校では普通の人間として
生きていくためだ。
しかし、
思いがけないことが突如として起こる——
「!」
鬼切丸が鳴いた気がした。
初めての感覚。
鬼切丸が何かを風吹に訴えている。
——妖怪の接近?
今まで何度か妖怪の感知を
してくれたことがあったけど、
今日は、いつもと様子が違う。
——鬼切丸が焦っている?
「!?」
風吹は肌感で、
その禍々しい妖気を感じ取った。
「何か来る——」
——今は授業中。
ここで暴れることだけは勘弁だ。
「先生!
気分悪いんで保健室行って来る!」
「鎌切、
もうすぐ終わるけど我慢できないのか?」
「すみません、無理っぽい!」
風吹は教室を飛び出した。
保健室へ向かうふりをして、
屋上へ駆け上がった。
これほどの妖気が接近しているのに、
気付けなかった?
警戒を怠った訳ではない。
「なんて大きな妖気だよ!?
これだけ接近されているのに
気付けないなんてどうかしてるよ!」
屋上へ到着——。
空を見上げると黒雲が空を覆い、
終末のような景色が広がっていた。
生ぬるい風が吹き荒れる。
空から殺気だけを向けられた感覚。
「とりあえず先生に電話を——」
雷鳴が轟き、
黒雲を裂く無数の稲妻。
その振動に校舎から悲鳴が上がった。
——その瞬間
風吹は背後を取られていた。
「強い奴がいるって聞いたから来たけど、
この程度かよ……」
背中から胸にかけ、鋭い爪が突き出た。
「ガフッ……」
背後から身体を貫かれ、
そのまま屋上のフェンスに叩きつけられた。
——意識が遠のいて行く。
「こいつが、かまいたちの娘だろ?
どんだけ弱いんだ……
こりゃ親父の方も期待できんぜ」
鵺は爪を引き抜き、
立ち去ろうと踵を返した。
「!」
仕留めたはずの風吹が
起き上がろうとしている。
鵺は足を止めた。
「……」
「へぇ……
死んでねぇーのかよ?」
風吹は背中を突かれた瞬間、
かまいたち一族秘伝の薬を塗布して
最悪の状況を回避していた。
一命は取り留めているが、
傷は深い。
「チッ!
なんかおかしいとは思ったんだ。
背中を突いたが、
刺さったのは爪だけだった。
俺の腕どころか、指1本も食い込まなかった」
風吹は恐る恐る立ち上がった。
スマホは、
突かれた瞬間に手放してしまったようだ。
「爪だけで済んだのは、
鬼切丸が間に入ってくれたからさ……」
「……鬼切丸だと?」
風吹の背中には妖刀・鬼切丸が顕現されていた。
素早く刀身を抜き、
目の前の妖怪に向かって構えた。
「あんた、誰だよ!?」
「……それは鬼切丸か?
なんでかまいたちが持っている?」
「わたしの質問に答えろ!」
「はぁ……。
このかまいたちは
己の状況をわかっていないようだ」
次の瞬間——
風吹は地面に頭を押し付けられていた。
——速すぎる。
かまいたち一族も俊敏で有名だが、
鵺の動きは次元が違った。
まるで——稲妻。
背に乗られて、髪を掴まれた。
「このまんま頭蓋骨割って
ぶっ殺してやるぜ……」
頭を床に叩きつけられる瞬間、
鬼切丸が勝手に動き出し
鵺の首元に突き刺さった。
――ケハッ!
手応えがあった。
鬼切丸は、
風吹の危機を察知し、
動いてくれるまでになっていた。
「ありがとう、鬼切丸!
助かったよ!」
「!」
振り返れば、
鵺の姿が消えていた。
——ドカッ!
衝撃が身体を走ると同時に、
風吹の身体は蹴り飛ばされて
宙を舞っていた。
鵺は風吹に向かって、
紫の稲妻を放とうと
構えをとった。
一帯に轟音が響き渡る。
「さて、
これを喰らっても生きてられるかな?」
雷獣が再び嗤った。




