13話 妖怪たちの異変
風吹は目の前で起こっていたことが
受け入れられずにいた。
優しかった兄が父を斬り、
妹である風吹へ刃を向けた。
それだけは間違いのない事実だった。
「先生……」
「やれやれ……
壮大な親子喧嘩に巻き込まれたよ。
まったく……」
「……ごめん」
「別に風吹が悪いわけじゃないけどね……」
肩を落とす風吹。
そんな彼女の背後に、風善が立っていた。
実の息子に殺されかけた、
かまいたちの長。
彼もまた、
精神的なダメージが大きいのは
当然だった。
「また来るって言ってましたよ。
しっかりと準備をしておかないと、
次はこんな被害で収まらないかもしれません」
「……そんなこと言われずとも
わかっている」
人間からの助言に、
ぶっきらぼうな返事で返した。
プライドが邪魔するのだろう。
「それよりもだ……」
「?」
「お前たち、
式の日取りは決まっているのか?」
「……はい?」
「良縁だ。
式は早い方がいい」
数分前と言っていることが変わっている。
まるで別人のようだ。
「……パパ?」
「彼になら……
風吹を嫁がせてもいい。
嵐を退かせるほどの実力、
婚約者として申し分ない」
「……パパ。
今はそれどころじゃないって」
「会った時から、
風吹には彼しかいないと
俺は気付いていた」
先ほどとはまったく違った態度。
それは——
「どうしたんだよ?
さっきと言ってることが違う!」
「お前は、この人間と一緒になれ」
「娘はやらん——帰れ人間!
って言ってたじゃん!」
「風の流れなど、
常に変わるものだ……」
風善が社へ顔を向けた。
「娘を、よろしく頼む——」
このわかりやすい態度。
嵐から風吹を守らせるために、
社を巻き込もうと考えているのだ。
「今度襲ってきたら、
追い返せる保証は無いですよ」
「お前なら、
大丈夫だろう……」
「買い被りすぎですよ」
そこに風吹が割って入ってきた。
「にいにが妖怪を斬ってるって
言ってなかった?」
「……」
風善は口を真一文字に結んだ。
何かを知っているようだった。
「ここにきて内緒とかなしだよ!」
「……」
風善は社に目をやった。
「化け物界の騒動を
人間がいる前で話すのは
抵抗があるものだ。
しかし、お前たちは夫婦になるふたり……
問題はあるまい」
社は夫婦という言葉に反応したが、
風善はお構いなしに話を続けた。
なまはげが言っていた話を
思い出している。
そもそもなまはげは、
地域主の緊急会合で得たこの話を伝えるため、
先日ここへ立ち寄った。
「なまはげの話によると、
変な事件が頻発しているらしくてな……」
「変な事件?
何それ?」
「突然、ありもしない悪評を流された
妖怪たちが殺されたり、
行方不明になっている——」
「!?」
「他には、魂を運ぶ夜汽車を占領し——
人間の魂を奪い去っている妖怪も
いると聞く」
「……」
風吹と社が出会うきっかけとなった事件。
それも関わってくるようだ。
「日本妖怪を攫って
異国へ渡したり——
日本の情報を流している
馬鹿者もいるらしい……」
「パパ……。
なんの話をしてんだよ?」
「調査に向かった妖怪たちもまた、
次々と殺されていっているようだ」
「はぁ?
意味わかんねーし。
それがにいにと、
なんの関係があるんだよ!」
社が風吹の肩に手を置いた。
「……鎌切家にも、
ありもしない噂が立てられた?」
「察しがいいな……その通りだ」
「それはどのような?」
「異国に、
多額の使途不明金を送金していると——」
「……それは事実なのですか?」
「まさか……
妻と創ったKAMAGIRI製薬のブランドを
汚すようなことをするわけがない!」
「……嵐はその誤解を信じて、
お父さんを殺しに?」
「わからん……。
ただ、悪い噂を立てられた妖怪を襲う
嵐を見たという者がいるのは確かだ」
「……」
風吹が唇を噛み締める。
「にいにが……
そんな噂信じてパパを殺しに?
絶対にありえねーよ……」
「裏で糸を引いている者がいるのでは……?
——と俺は考えている」
「にいにを操っている奴がいるってこと?」
「被害に遭った妖怪たちの死に方に、
いくつか違いがあるようだ。
そのため実行者が
複数いるのではないかと
言われているらしい」
「……又聞きだから
よくわかってねーじゃん!」
「こんなことになるなら、
株主総会など放り出してでも
会合に行くべきだった。
くそっ!」
腕を組み、
風善は考え込んだ。
風吹は心配そうに、そんな父を見つめた。
「俺は今から天狗のもとへ向かう」
「?」
「風吹はこの人間と常に連絡を
取れるようにしておくのだ。
有事の際はこの人間を頼れ。
そして人間は、命に代えても風吹を守るのだ!」
今から風善は、
妖怪世界で起こっていることを調べに、
天狗のもとへと向かう。
しかし、
この時すでに別の災害が動いていることを
誰も知らなかった。
風善は出かける準備に入った。
風吹は社の隣に立ち、
不安を口にする。
「先生……。
わたし、なんか怖くなってきたよ」
「……なぜ。
俺は風吹を守ることが
前提になってるんだろう?」
「なぜって?
夫婦って、そういうもんだからだろ?」
「だから俺たち夫婦じゃない!」
社は最後まで
流されるがままに流されていた。
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その頃――
遠くの空から、
雷鳴は獲物を見つけて嗤っていた。




