12話 退魔教師 社亮介
「泣くな風吹……」
「だってパパはいつも、
にいにのことばっかり褒めてさ、
風吹のことは褒めてくれない!」
「俺の方が年上だろ?
風吹の方が凄かったら俺が困るじゃん……」
「うぅーっ!」
「ほらぁ……そんなに拗ねない。
でも、なまはげ師匠はいつも風吹を褒めてるだろ?」
「褒めてくれるけど
剣術のことじゃないもん」
「風吹は強くなる、って言ってたろ。
その手の刃は小さくても、
風吹の心には誰よりも強い刃があるんだ、ってさ」
嵐と風吹の幼き頃の思い出——
もう戻れない——家族の形。
◇◇◇◇◇◇
社がゆっくりと嵐のもとへ歩いていく。
動きを封じられた嵐は、
今のこの状況を理解できずにいた。
身体を動かそうにも動かない。
「お前……呪言師か?」
「違うよ。
呪言とは似て非なるもの——
この一言主神の力は神の力さ……」
風吹と風善も息を飲む。
「あの人間……何をした?」
風善が上体を起こして聞いた。
「先生の術で動きを止めたんだよ。
どうよ、パパ?
わたしの婚約者はすげーだろ!?」
「嵐の動きを言葉1つで……
信じられん」
社は嵐の前に立った。
「親子喧嘩だし、
首は突っ込まないでいようと思ったんだけど……
少しやりすぎかな、君」
「そのご忠告、痛み入るよ」
嵐の顔つきが変わる。
妖気を身体中から溢れ出して、
一言主神の術を解こうとしている。
「無理しない方がいい。
術を解こうとして失敗した時の跳ね返しで
身体が潰れることもある」
「そうかい!」
ギシッ……ギシッ!
「!」
嵐の身体が少し動いた気がした。
「これは想像以上だね」
——ゾワッ!
止まっていたはずの嵐の身体が動いた。
一言主神の術が解かれた瞬間だった。
「まさか!」
「読みが甘いな人間」
横一閃——
社へ漆黒の大剣が振り抜かれた。
——ズバッ!
社の上半身が宙を舞った。
「……嘘だ!
……先生っ!」
「嵐! なんということを!」
次の瞬間——
嵐の足元に光の円陣が浮かんでいた。
「なんだ……これは?」
「封印式だよ」
たった今斬り殺したはずの社が、
嵐の後ろに立っていた。
「……なぜ生きている?」
「君が斬ったのは俺の姿をした式神。
そうでもないと、
こんなおっかない妖怪に近づかないよ」
「……お前、本当に人間か?」
「失礼な質問だな……
君はしばらく、
この巻物の中で頭を冷やすといい」
社が封印用の巻物を取り出した。
しかし、
——斬っ!
突風が吹き、
巻物が風に切断された。
「!」
その場にいる全員の意識が、
風に舞う巻物に向いた。
その刹那——
ゴオォォーッ!
旋風が起こり、視界を遮った。
「くっ!」
社は風に飲み込まれ、
そのまま吹き飛ばされてしまった。
「先生ーっ!」
咄嗟に風吹が飛び込み、
社の身体を抱きしめた。
「大丈夫かよ、先生!」
「助かったよ。
それよりお兄さんは?」
すでに嵐は、
封印式の円陣から抜け出していた。
社を見る嵐の目は、
風善、風吹を見る時よりも、
明らかに警戒していた。
「一言主神の術を破られたか。
少なくとも、夜汽車の蛟よりも格上だな」
「……まじか。
にいにが竜族以上の力って?」
2人は風善のもとに降り立った。
風善は嵐から受けた深い傷に、
かまいたち一族秘伝の傷薬を塗布していた。
妖怪世界でも有名な、
かまいたちの傷薬。
しかし、それを持ってしても
回復が追い付いていない。
「お父さん、少し失礼します」
「おっ……お父さんだと!」
社は風善の肩に手を当て呟いた。
《傷付きし理よ――もとに戻れ》
それは瞬き一つの時間。
次の瞬間には、
嵐が刻んだ深い刀傷は跡形もなく消えていた。
「なっ……なんと!
あの傷が一瞬で!」
「先生! ありがと!」
分析するような目つきで、
一部始終を嵐は眺めていた。
「本当に……何者だお前?」
再び嵐は社に尋ねた。
すると、
その質問に風吹が答えた。
「わたしの婚約者だよ!」
「婚約者!?」
「この前、鬼切丸を差し出して求婚されたんだ!
にいにからしたら、義理の弟になるんだぜ!」
「……」
その時。
気のせいか
ふと、嵐が笑った気がした。
「まったく……
我が妹ながら……驚かされるよ」
「……何がだよ!?」
「思慮浅く……
感情先行で行動するところだ——」
「バカにしてんのか!?」
「……さぁ、どうだろう」
嵐は大剣の顕現を解いた。
「にいに?」
半壊した屋敷に目を向けながら、
社へ告げた。
「今日は宣戦布告だけにするか……
予定外のことが多すぎる」
「?」
「一気に片を付けたかったが……
思いもよらぬ助っ人がいたようだ」
「これだけのことをしておいて、
逃げるつもりかい?」
「あぁ……
お前は危険だ、このまま戦いに入れば——
俺は殺されるだろう」
「冷静に分析してるね」
「……お前からわずかに感じる鬼気。
おそらく、解放させてはいけないものだ」
「……」
「だが、戦いが終わったわけではない。
近いうちに——
必ずお前たちを殺しにくる」
そう言うと、嵐は風吹に目を向けた。
風吹にだけは、
あの頃と変わらない兄の顔に見える。
「にいに……」
「また、来る」
爆風が起こり、
砂埃が巻き上がった。
嵐の姿も、妖気も、
砂埃に紛れて消えてゆく。
その名を表すように、
嵐はすべてを破壊し去っていった。
多くの謎を残して、
再び訪れることを約束して——




