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かまいたちの嫁~妖怪女子高生と退魔教師は今日も怪異を斬る~  作者: 鬼喜怪快
第一章 嵐と風吹

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11話 嵐の大剣




 嵐へ駆け出そうとした風吹の肩を、

 社が掴んだ。



「先生?」


「様子が変だ……

 お兄さん、お父さんを殺す気だよ」


「えっ?

 またまた、そんなバカなこと——」



 次の瞬間——


 風吹は絶句する。

 

 社でさえ目を細めた。


 嵐の片手には、漆黒に染まった鉄の板——

 いや、身の丈を超す大きさの剣が握りしめられていた。



「なんだ……あれは?」


「あれは、にいにの刃だよ!

 凄いんだぜ!

 一族で最強って言われてんだから!」


「……」


 


 嵐に対峙する風善——


 顕現した嵐の刃を冷静に分析する。



「……お前、何体の妖怪や人間を斬った?

 その刃から感じる気は、

 もう以前のお前のものではない」


「斬った連中の数なんて……

 お父さんはいつも数えてるの?」


「数えるのではない……

 相手にも人生がある。

 この手で奪った相手の人生に対し、

 罪を背負う覚悟として覚えておくのだ……」


「あっ、そう」

 

「快楽のために刃を振るうことは

 許さない。

 一族の名誉を汚す愚か者には、

 この俺が鉄槌を下す!」



 風善の右手には、

 刃の無い柄だけが握りしめられていた。



「ひとつ聞く」


「?」


「団三郎狸を斬ったのは誠か?」


「それ……今関係あるの?」


「奴は人格者だ……

 お前が攻撃した理由を知りたい」



 すると、剣先を風善に向けて嵐は言った。



「彼がいると迷惑なんだよ。

 これからのことを考えて死んでもらおうと

 思ったんだ。

 勝手な俺の都合だよ」



 風善は構えた。



「理解できんな。

 己の都合で他者を斬るなど……。

 そこまで落ちたか——」



「……」


「……」



 沈黙が落ちる——



「おーい! にいにぃ」


「!」


 風吹の声が合図となった。



 ——斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ!




 激しい打突音、刃音が響いた——


 四方八方に火花が散る。



「!」


「なんで!

 なんでパパとにいにが斬り合ってんだよ!」


「下がれ風吹! 死ぬぞ!」


「パパ!?」



 互いの刃が、

 光の糸に見えるほどの速さで斬り合っている。



「お兄さん……

 あんなデカい剣を持ちながら、この移動速度……

 こんな妖怪見たことないよ」


「違うよ先生」


「?」


「かまいたちの刃って身体の一部なんだ……

 だからどんなに大きかろうが長かろうが、

 扱う本人にとって重さはないんだ」


「……ってことは、

 あの数百キロはありそうな大剣は——」


「相手からすれば数百キロの鉄の塊に思えるけど、

 にいにからすれば、

 普通に腕を振っているようなもんなんだ」


 

「……それは恐ろしい」



 風善と嵐、

 互いに一歩も引かない攻防が続く。



「お父さんの刃が見えないけど……」


「パパのは特殊で、

 刃自体が風なんだ——

 パパにしかわからない無数の風の刃が

 あの周辺に飛び交っているんだよ」


「?」


「だから、にいにも迂闊に飛び込めない……」



 風善——

 ただの娘に激甘な親父ではなかったようだ。



「風吹、

 すでに気付いているかもしれないけど、

 お父さんの方が明らかに劣勢だよ」


「えっ!」



 年齢的なスタミナの差もある。


 しかしそれ以上に、

 ここ最近、くぐり抜けてきた

 死戦の数に差があった。


 風善は訓練の剣、嵐は修羅の剣——

 この差は大きかった。


 均衡が崩れる瞬間は、

 突然やってきた。


 

「がはっ!」


 

 風善の右肩へ、袈裟斬りの一刀が入ったのだ。


 痛みを感じる前の、

 ほんの僅かな時間、

 風善の身体の動きは完全に止まった。


 その一瞬を嵐は見逃さない——



「ここで死んだ方がいいんだよ。

 お父さん——」



 風善は振り上げられた漆黒の大剣を見上げた。



「無念……」



 修羅の剣が無情に振り下ろされた。



 ——ガキンッ!



「!」



 振り下ろされた嵐の大剣が、

 止められた。


 日本刀に——

 

 鬼切丸に——

 

 いや、一族の落ちこぼれと言われていた、


 ——風吹に。



「風吹!」


「にいに! やめろって!」



 嵐は後方に飛び、

 距離をとった。


 風吹は、倒れ掛かる風善を抱きかかえる。



「……風吹、お前」


「大丈夫かよ、パパっ!」



 風善の身体を横にすると、

 風吹は嵐を睨んだ。



「なんでこんなことすんだよ!?」


「……」


「答えろよ!」


「子供は……知らなくていい」


「いつまでも子供扱いすんなし!」


「……」



 嵐の目は、

 すでに風善ではなく、風吹——

 鬼切丸に向いていた。



「お前の刃はどうした?

 それは……妖刀・鬼切丸か?」


「わたしの質問に答えねーんだから、

 わたしだって答えねーからな!」


「……そうか」


「……」


「お前も……変わったのだな……」



 嵐は、

 先ほどよりも強力な妖気を発した。



「やっ……やるのかぁ!」


「鎌切流刀術、乱切《らんぎり》」



 距離を一気に縮めて、

 叩きつけるような連撃。

 


 ——ズバババババババババババババババババッ!



 息も吐かせぬ圧倒的な攻撃だ。


 しかし——

 風吹はすべての攻撃をなんとか受けきった。



「……信じられん」


「い……妹に向ける技じゃねーぞ!

 乱切なんて!」


「俺の斬撃を受けきり、

 刃こぼれ一つも無しか。

 噂以上の刀身だな——鬼切丸」


「ふんっ!

 鬼切丸は、にいにの大剣より凄いかもね!」



 すると嵐は目を閉じた。



「不相応な力を手にすれば後悔だけが残る。

 やはり俺の手で……

 すべてを終わらせるべきなのか……」



 向けられた大剣から違和感を感じた。


 何か……来る?


 漆黒の大剣から

 大量の妖気を感じた。



「下がれ……風吹……」


「パパっ!」


「俺が時間を作る。

 今のうちにあの人間と一緒に……」



 嵐は構えをとった。


 風吹は本能で察知した。

 

 嵐の刃が次に振り切られた時、

 鬼切丸をもってしても、防ぎ切れるかどうか……


 直撃は避けたい。

 しかし、風吹が避けると風善に直撃する。


 逃げようとする気さえ失せてしまう

 隙のなさ。


 背を向けた瞬間に

 切り落とされる未来が見えるようだった。



「にいに……。

 本当にわたしたちを殺す気なの?」


「退け風吹、

 俺の目的は風善のみだ……」


「そんなの聞いて退けるわけないじゃん!」


「バカな妹だ——」



 嵐が踏み込んだ。


 漆黒の大剣が振り上げられた、その時——



《動くな!》



 嵐の動きが止まった。

 

 気にはしていたが、

 人間風情だと見下してノーマークだった。


 しかしその人間は、

 完璧なタイミングを見計らっていたのだ。

 

 身体が動かない嵐は、

 目線だけをその男に合わせた。


 ゆっくりと歩いてこちらに

 向かって来る——


 高校教師・社亮介に。



  


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