二話
「い、いぶきさんのお弁当凄くおいしそうですね!」
「アーデルさんの黒い重箱と比べたら塵芥みたいなものだけどね」
昨日のアーデルさんの爆弾発言から一夜明け、本日はアーデルさんと共にお昼ご飯を食べている。
アーデルさんみたいなお偉いさんが俺みたいな下民とお昼を過ごすのは正直どうかと思うのだが本人から誘われた以上断るわけにもいかない。
体裁的に断るつもりだったが断った時の表情が脳裏に浮かんで断りずらかったとかそういう訳ではない。決してな。
俺が心の中で言い訳をしながら弁当の卵焼きを食べているとアーデルさんがこちらを見てきている。どうしたのだろうか。
「お弁当食べないの?」
アーデルさんが俺の言葉でびくりと驚いたかと思えば、勇気を出したかのように俺たちの弁当箱を交互に指さす。
「お、お弁当のおかず交換してくださいませんか」
「え? 別にいいけど」
「ほんとですか!」
俺が答えると何が嬉しいのかわからないがアーデルさんは喜びウキウキで黒い重箱を開ける。
そして俺の弁当箱に伊勢海老を置こうと、
「ちょっとまて」
「はい?」
手を掴みアーデルさんの動きを止める。
「これなに?」
「伊勢海老です」
いやそれはわかってんだけどさ。そういうことじゃなくて。
なんでそんな不思議そうな顔できるんだよ。
「一応聞くけど俺のなにと交換しようとしてたの?」
「ウインナーを一本もらおうかなって……」
「あまりにも釣り合ってなくない?」
ウインナーくんの倍以上のサイズあるんだけど。俺どんな顔して貰えばいいんだよ。
ウインナーと伊勢海老を見比べたアーデルさんは確かにと言い手を引っ込めると重箱の上の段を外し俺の前に置く。
「これでぴったりです」
「取引は中止とします」
なにもわかってないなこのお嬢様。
重箱を押し返し、過剰指名されていたウインナーをぱくりと食べる。
目の前のアーデルさんがショックを受けた顔をしていたが無視をして食事を続ける。
たとえ魔王の娘でもこんなポンコツならば気を使わなくても許されるかもしれない。
そう思いながら俺の昼休みは終わった。
チャイムが鳴り今日最後の授業が終わる。
先生が出ていくと同時に生徒達が思い思いに動きだす。今日は流石に教室にも人が残りそうだ。
待ちに待った放課後、特にやることはないが嬉しいものである。
机の上の物を鞄に放り込み今日はすぐに帰ろうと立ち上がろうとすると肩を叩かれる。
そこには俺に訝しげな目を向けるアーデルさんが立っていた。
「ど、どうしたの」
思わずこちらから声をかけるがアーデルさんは俺の言葉を無視して何故か肩をつんつんしてくる。
独特な意思表示だが攻撃のつもりなのだろうか。
俺からしたらただ可愛いだけなのだがそれを言ったら怒られそうな雰囲気だな。
しかし俺はなぜつんつんされているのだろうか。思い当たる節が全くない。
今日の出来事を思い出してみるがアーデルさんとご飯を食べ、アーデルさんと暇なときに喋り、休み時間にアーデルさんの家の犬を見せてもらってた記憶のみ。
無事アーデルまみれなんだけど。
考えれば考えるほどわからないがとりあえず機嫌を直すために当てずっぽうで言ってみることにする。
「お昼ご飯交換しなかったのまだ怒ってる?」
「……」
つつく速度が速くなったのでどうやらこれじゃないらしい。
記憶を思いだしながら次へいく。
「授業中眠そうにしてるの見てたのばれた」
「……」
「案外ポンコツなんだなって思ってるのばれた」
「……!」
「お偉いさんなのになんでこんなにコミュ障で友達いないんだろうって考えてるのばれた」
「!!!」
だめだ。ばれた攻めしてたらどんどんスピードが早くなってこのままではいつか肩に穴が開きそうだ。
「アーデルさんすみません。俺の至らない点を教えてもらってもいいですか」
俺は諦めて手を挙げ降参のポーズを取り、アーデルさんに許しを請う。
本当に覚えがないがここまで機嫌を損ねさせた罪は大きい。よっぽどのことをしてしまったのだろう。
一生足向けて寝ませんのでマジで許してくださいお願いします。貴方じゃなくて貴方の後ろにいる顔も知らぬ人たちが怖いんです。
俺が恐怖で震えているとアーデルさんはつつくのをやめて横を向く。
「さっき気づいたんですが……私からしか話しかけていませんよね?」
「はい?」
「だから! いぶきさんから一回も話しかけてもらってません!」
「いや、まあ、それは」
「なんですか!」
言い訳をしようとしたが即座に遮られる。それが許される状況ではないらしい。
確かに今日のお昼もアーデルさんから誘ってくれたし、休み時間もスマホを見ながら呆けてる俺に話しかけてくれている。
でも怒ってる原因それかあ。流石にわからなかった。
アーデルさん側の気持ちも理解してみるけど毎回俺みたいなやつに自分から話しかけるって……気分はよくないですね。うん。
「申し訳ございませんでした」
「わかればいいんです!」
一瞬で非を認めなんとか許しのお言葉をもらうが見た感じアーデルさんの腹の虫はまだ治まっていないらしい。
なんとか機嫌を直してもらおうとさっき思いついた作戦を実行するためスマホを取り出す。
「アーデルさん、俺と連絡先交換してもらえませんか」
「え?」
アーデルさんは俺の顔を見て数秒フリーズしていたがすねた顔はいずこへ、すぐに焦りながら制服のポケットを叩きだす。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね! あ、あれ、鞄だったかな」
アーデルさんは友達同士がするような行動に弱い。これが約二日でたたき出した俺の研究結果である。
……周りのクラスメイトからプロポーズ? とかささやかれているがそんな噂ぼっちには関係ないことなのだ。
「あ、ありました! ほら! 交換しましょう!」
「危ないから振り回すのやめようね」
スマホをみつけ怒りの感情が消えたようにはしゃぐアーデルさんをなだめながら俺は心の中で胸を撫でおろす。
そして無事平穏とアーデルさんの連絡先を手に入れた。




