第3話 財産目当ての結婚
ある大きな屋敷で2人の男が酒を酌み交わしていた。一人は王族であるサーブ公、そしてもう一人は取締官のカライだった。サーブ公は何かいいことを思いついて愉快そうだった。
「いい話がある。それにはちょっと頼みたいが・・・。お前と俺が組めば怖いものなしだからな。」
「サーブ様。今度は何をたくらんでおられるのですかな?」
カライは(またか・・・)と思いながらも愛想笑いを浮かべた。
「実はな、妻を娶ろうと思っておる。」
「それはそれは。おめでとうございまする。してそのお相手は?」
カライは尋ねた。すると思いがけない相手をサーブ公は言った。
「ユーマス公爵の娘、ミイナよ。」
「ほう。それは素晴らしいですな。」
カライは(まさか・・・)と思ったが、大袈裟に祝福して見せた。相手はサーブ公と年のはなれた小娘。それも破談したばかりとは言え、れっきとしたユーラス公爵の令嬢であり、あまりいいうわさがないサーブ公の相手には難しいように思えた。
「そうだろう。そうしたら公爵の家の財産はすべて俺のものだ。好き放題に暮らせる。だがな大臣は言うことを聞かぬ。せっかく王族の俺が娘を貰ってやろうというのにな。」
サーブ公が言った。カライは(至極、当然だ!)と思った。
「まあ、あなた様のお噂は広く流れているものですから。」
「痛いことを言う。確かに俺はだらしがない馬鹿者と世間で言われているようだが、頭がいいからこうして楽しく暮らせているのだ。そうだろう? カライ。」
サーブ公はカライの目をじっと見た。それはいつものことだった。そうするときはサーブ公がカライに何かやらせるのだった。
「わかっております。今度も手を貸しましょう。どうすればよろしいのですか?」
「俺と娘の結婚を王様が勧めているとユーラス公爵に伝えよ。王様には俺からうまく言っておくからな。これですべてうまくいく。」
サーブ公は調子よく言ったが、(そんなにうまくいくものか・・・)とカライは思っていた。
「大丈夫なんでしょうか?」
「心配いたすな。大臣も王様の御意向なら逆らえまい。これでうまくいくはずだ。」サーブ公はニヤリと笑った。
次の日、ミイナに連れられて方術師の老人がムタヤの家を訪れた。老人はもう一人、朱色の着物を着た若い女性を連れて来ていた。彼女はスザクという老人のお供の者だった。
老人は家に上がって母親のモリ―を診た。そしてなにやら呪文を唱えて手をかざした。するとモリ―の様子がかなり良くなったように見えた。
「気に病むことが多くあって、気の流れが乱れておるだけじゃ。方術だけでよくなるじゃろう。よくなるまでここに来てあげよう。」
「ありがとうございます。」
ムタヤがホッとして頭を下げた。横になっているモリ―もわざわざ体を起こして礼を言った。
「ありがとうございます。こんなところまで来ていただいて・・・」
「いやいや、かまわぬ。ちょうど少し遠くを歩きたくてな。それにミイナさんいはいつも手伝ってもらっておるから、頼みを聞かんと後で怖いかもしれんからな。はっはっは。」
「まあ、先生。でもよかったですわ。」
老人の冗談にもミイナは笑顔で返した。
「ミイナさんにもお礼を言います。私たちがこんなことになったのに・・・あなたにも迷惑をかけて・・・」
モリ―はすまなそうに言った。
「気にしておりませんよ。それより早く良くなってください。」
「そんなことを病人は気にせずにゆっくり寝ているのじゃ。さあ。」
と老人が言うと、スザクがモリ―を横にさせた。そして
「儂たちはこれで・・・」
老人とスザクは立ち上がって家を出て行った。その後をミイナが続いた。ムタヤも見送りに外に出て頭を下げた。
「ミイナ殿。すまなかった。礼を言う。」
「ムタヤ様。早くお母様がよくなられたらいいですね。では。」
ミイナは笑顔でそう言って帰っていった。
王宮ではサニー王が執務をしていた。そこにサーブ公が現れて片膝をついて頭を下げた。
「王様。ご機嫌麗しゅう。」
「サーブ公。今日はいかがした? 王宮に来ることなどめったにないのに。」
サニー王は眉をひそめて言った。サニー王もこの評判のよくない王族を快く思っていなかった。サーブ公はできるだけ神妙な顔をしてサニー王に申し上げた。
「王様。今日は大事なお話があります。」
「ほう? なにかな?」
「実は結婚の話を・・・ユーラス公爵から娘をという話がございました。」
「確かその娘は・・・」
サニー王は昨年の公金横領の事件を思い出した。確か、その事件のため破談になったと聞いていた。
「公金横領して死んだウキヤ執行官の息子と婚約しておりました。しかしあの事件がもとで破談になっております。」
「ほう。よいのか?」
破談になった娘など普通なら嫌がるはずだが・・・サニー王には不可解だった。
「はい。その娘は裏切られたと言って気を落としているようでございます。しかし私の妻になるならと喜んでいるようでございます。その娘を妻に迎えて王族とのつながりを確かなものとして、ユーラス公爵にこれからも大いに働いていただこうと考えております。」
サーブ公は都合のいいように言った。それを聞いてサニー王は納得し、サーブ公の王室への思いをうれしく思った。
「おお、そうか。そこまで考えてくれたか。よし、その話を勧めよ。結婚式には私も出よう。」
「ありがたき幸せ。」
サーブ公は頭を下げた。その下の顔はニヤリと笑っていた。




