第4話 結婚の拒絶
一方、ユーラス公爵の屋敷にカライ取締官が訪れていた。治安を取り締まる役目を仰せつかっているカライは今や、大きな力を持っていた。大臣であるユーラス公爵も彼は無視できない存在だった。
それにしてもカライ執行官が屋敷まで訪ねてくる理由がユーラス公爵には思い当たらなかった。
「今日は一体、どんな用かな?」
「これは内々のお話ではありますが、王様は公爵の御息女ミイナ殿と王族のサーブ公との御結婚を強く望んでおられます。」
そのいきなりの話にユーラス公爵は驚いて聞き直した。
「これは何と! 王様が! 真か?」
「はい。公爵家と王族のつながりを強めて、より一層、執務に励んでいただきたいとのご意向です。よいお話とは思いますが。」
カライはできるだけ笑顔を作って言った。だがユーラス公爵はこの話にいい顔をしなかった。
「それは・・・本来ならばありがたいお話ですが、先日、娘は破談になったばかり・・・。サーブ公に申し訳なく・・・」
サーブ公のよくない噂はユーラス公爵も知っていた。王族とはいえ、娘が不幸になるのは目に見えていた。だがカライは意外だという顔をして言った。
「しかし内々とはいえ、王様の御意向ですぞ。いくら公爵といえでも無下にお断りになるのは。」
「ですが・・・」
「いやいや、これはキハヤ国にとっての大事でございます。これをお汲み取りになって。」
カライはユーラス公爵に断る隙を与えなかった。あまりのしつこさに嫌気が差して、断りにくくなったユーラス公爵はこう言うしかなかった。
「では娘の意思を聞いてみたいと思います。さすがに破談の後ということですので・・・。こればかりは。」
するとカライはここぞとばかりに言った。
「そうですか。ならば御息女をここに。王様に報告しなければならないのでこの場で決めていただきましょう。」
「はあ、ならばここに連れてきましょう。おーい。ミイナを呼んでまいれ。」
仕方なく、ユーラス公爵が召使に命じた。するとしばらくしてミイナが一礼して現れた。するとカライはまた作り笑いを浮かべた。
「ミイナ殿か。私は取締官のカライだ。今日は王様からよいお話をあなたに持って参った。」
カライはまずはもったいぶって話した。ミイナはカライのその態度に胡散臭さを感じた。しかし王様からの話という手前、恭しく聞かねばならなかった。
「これは恐れ多いことです。」
「実はあなたとサーブ公の御結婚を王様は望んでおられる。そうなればあなたは王族だ。そしてこのユーラス公爵家も王家とのつながりが深くなる。もちろんサーブ公は心の広いお優しい方だ。過去にあなたに何があったかは知っておられるが、そんなことは気にしないとおっしゃった。だからこのお話をぜひとも受けていただきたい。」
カライは言った。こんないい話、めったにないだろうと・・・。しかしミイナの返事は決まっていた。
「せっかくではございますが、このお話お断りいたします。」
ミイナはきっぱりと答えた。
「ミイナ殿。大事なことですぞ。もっとよく考えてみたらいかがかな。」
(そんなことはあり得ない!)とカライの言葉は強くなっていった。だがミイナの心は変わらなかった。
「いくら考えても同じ事でございます。王様の御厚意を無にして恐れ多いことではありますが、私には心に決めた人がおります。」
「もしやその者とは?」
カライは鋭い目でミイナを見た。
「ムタヤ様でございます。」
ミイナはカライの圧力に負けずに答えた。その言葉にカライは意外だという風に言った。
「その者とは破談になったと聞いたが。」
「今はムタヤ様のお父上の嫌疑で城下を追放になり人前に出ることはできませぬが、必ずやその疑いは晴れると信じております。そうなれば私たちの結婚を父も許してくれると思います。私はそれまでお待ちするつもりです。」
ミイナは言った。その堂々とした態度にカライは言い返すことはできなかった。だがここであきらめるわけにはいかなかった。
「まあ、よく考えよ。王様の御意向であるぞ。」
「いくらお申しになられても返事は同じでございます。」
ミイナはどうしても首を縦に振ろうとしなかった。業を煮やしたカライ取締官はその態度に怒りを覚えていた。
「王様のご意向をないがしろにされるのですな。それがどういうことになるか、お分かりか? ユーラス公爵もそのことを考えていただきたい。またご返事をもらいに来る。」
カライは苛立って席を立ち上がり、怒ったように部屋を出て帰って行った。
ユーラス公爵はため息をついてミイナを見た。いつもは物静かで優しい娘であるのに、執行官のカライにあれほどまで言うのは意外であった。断ったのはサーブ公が嫌なのもあるが、多分、あの男のせいだろう・・・
「ミイナ。それほどあの男のことを・・・だがな・・・」
ユーラス公爵が言いかけたが、それをミイナが遮った。
「お父様、お許しください。こればかりは私のわがままをお聞きください。」
そう言ってミイナは部屋を出て行った。




