立ち位置
考える巧──
巧と慎が多いです。
「……うーん──」
次の日の朝。新巻巧は、ベッドの上で考えていた。
昨日の夜、友人の天使渉に、同性の三田頼之と付き合っていると告白されたことを。
「………う〜ん──」
巧はぼーっと天井を見つめて、考える。
昨日のテンシは、俺に冗談で言ったんじゃないし、真面目だった。嘘でもない……。と頭の中でぐるぐるする。
「本気、なんだよなぁ……」
はぁ、と溜め息を吐く。
現に付き合ってるって言ってたし……。
「…………。はぁ──ぁ、そういえば……」
三田さんって兄貴の友だちなんだよな……。よし──と、巧は何を思ったのか、兄の慎に電話をした。
「…………あ、兄貴? 俺、巧だけど」
『仕事中だ。切るぞ』
「ちょ、ちょっと待って、ちょっと話が──渉のことなんだけどさ……」
『……じゃあ昼、会社の近くの喫茶店に来い』
「え? あ、うん。わかった……」
慎の言葉に、巧は静かに頷いて電話を切った。
*
昼、巧は窓からスーツ姿の慎を見つけて、喫茶店に入った。
「遅かった?」
「いや、普通──」
と慎はコーヒーを啜る。
「……珍しいな、お前が話あるって」
「いや、うん……ちょっとさ──」
ご注文は? と来た店員に、カフェラテで、と注文してから、巧は慎を見た。
「三田さんって、どんな人……?」
「頼之? 前も言ったろ、仕事以外だらしない奴だって──」
「そうじゃなくて、……昨日、渉に言われたんだよ」
ごゆっくりどうぞ、と店員がカフェラテを持ってきて、下がっていく。
巧はカップを手に挟んで言った。
「三田さんと、付き合ってる……って」
「……そうか──」
ついに言ったのか……と慎はコーヒーを一口飲む。
「昨日は頭いっぱいいっぱいで、いつもみたいに笑って別れたけど、やっぱり……。俺だって、今まで異性しか好きになったことないし、同性を好きとか意味わかんねえ……」
と巧はカップに口をつける。
そして少し飲んでから、カップをテーブルに置いた。
「……だって、男なんだ──確かに、同性愛者だっているのはわかってる。でも、こんな近くに……」
と巧は口ごもる。
慎は、はぁ、と息を吐いてから言った。
「で、お前は何が言いたいわけ? 同性愛者はいるって話か? 俺の友人が気持ち悪いって話か? それとも天使くんと縁を切りたいって話か?」
「ちがっ……」
「じゃあ何だよ──」
と慎はコーヒーを飲む。
電話してきたから、テンシの彼女男だったんだけど──!!?! っていうリアクションかと思ったのに……全然違った──と巧を見て慎は思う。
「位置が……わからないんだ……」
「……位置?」
「前は、友人っていう立ち位置だった。でも……」
「今の自分の位置がわからないってか?」
巧は小さく頷く。
慎は、ハッと笑うと言った。
「お前ねぇ、わかってないだろ」
「なにが?」
「天使くんがなんで告白したと思ってんだよ──友だち、だからだろ?」
「え……?」
と巧は不安げな顔を慎に向ける。
「友だちだから、言ったんだろ。恋愛対象にならないから、告白したんじゃないのか?」
「……ぁ」
と巧は昨日の渉の言葉を思い出す。
──巧には、知っておいてもらいたかったから──
「立ち位置なんて、変わんねえよ──俺だって、頼之に言われた時はびびったけど。でも、変わってない。今でもな」
「……なんか、俺──」
と巧は昨日のことを思い出して、冷静になっていく。
「……勘違いしてたっぽい」
「そうか──ちなみに、頼之は両性愛者だ」
「え、そうなの?」
「そうだ。高校の時は彼女いたしな」
「へぇ……」
「それも、美人」
「マジか──」
巧はやっと、いつものように笑った。
それから少し話して、二人は別れた。
「……なんか、バカみたいだな──」
と巧は家に向かいながらそう呟いた。
*
「天使くん話したんだな──」
会社に戻ってから、ちょうど報告に来ていた頼之と休憩室に入って、慎は言った。
「……何を?」
「巧にさ、お前と付き合ってるって──」
慎はニヤニヤしながら頼之をつつく。
「そうなのか……?」
と頼之は信じられないというように慎を見ている。
「あぁ……。さっき巧から相談? みたいなのされてさ」
「……それで、何て言ってた? 渉を気持ち悪がったりしなかったか? そしたら俺は……」
渉に合わせる顔がない……。引きずり込んだのは俺なのに──と頼之は口をきゅっと引き締める。
そんな頼之とは正反対に、慎は笑って口を開いた。
「いや、大丈夫だった──まあ、同性を好きとか意味わかんねえとは言ってたけど──なんか立ち位置がどうの言ってたけど、それもなくなったみたいだし。問題ないだろ」
「そうか……よかった──」
と頼之は安心したように呟いた。
「……じゃ、俺は仕事に戻るわ。お前に報告も出来たし」
「はは。じゃ、俺も帰るかな──」
と休憩室から二人は出る。
それから慎が、からかうように言った。
「帰ったら、甘い言葉と一緒に抱きしめてやれよ?」
「……。そうだな──」
と頼之はふっと笑って答えた。
*
「あ、サンタさんお帰りなさ──」
帰ってすぐ、頼之は慎の言葉を覚えていたのか、渉を抱きしめた。
「……ただいま」
「な、なんですか? どうかしたんですか……っ?」
慌てる渉に、頼之は微笑んで言った。
「渉──好きだよ」
「なっ、さ、サンタさんスーツ! シワ出来ますからっ」
と赤くなって吠える渉に、少しくらいならべつにいい。と頼之は言って、そのまま抱きしめていた──
抱きしめられた後
渉「シワが……(スーツを掲げながら)」
頼之「目立たないからいいだろ」
渉「よくないです!」
次回、新キャラ登場──予定。




