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誘い

新キャラ登場──。

 いつも家で仕事をしている三田(みつだ)頼之(よりゆき)は、今年最後の報告と残りの仕事の確認のため、会社に行く準備をしていた。


「テンシ、ファイル知らないか?」

「ファイル?」

「ああ、コピーしておいたのを入れてある──」


 どこにやったかな……と頼之は仕事部屋に行ったり、戻ってきたりとうろうろする。

 渉もファイルを探しながら、部屋の中をうろうろする。


「ファイルって、何色ですか?」

「濃い青だ──」


 二人でうろうろして、テーブルの下、ソファーの上、テレビの裏、寝室などを見ていく。


「サンタさーん、ありましたかー?」

「んー……」


 と少し考えるような声が仕事部屋から聞こえたと思ったら、頼之がファイルを持って出てきた。


「あった」

「あぁ、よかった」


 と渉は安心したように笑った。

 頼之はファイルを鞄にしまって、玄関に向かう。

 後ろから渉も少し距離を取ってついて行く。


「……じゃ、行ってくる」


 靴を履いて渉に言うと、渉は笑って言葉を返す。


「行ってらっしゃい」

「ん、早めに帰る」

「はい──」


 頼之は笑顔の渉を見て微笑むと、ドアを開けて外に出た。



 コートを羽織っているが、少し首が寒い。


「……早めに終わらせて、帰ろう」


 そう呟いて襟を立てながら、頼之はエレベーターに向かった。


         *


「お、頼之じゃん──なに、今年最後の的な?」


 と新巻(あらまき)慎(しん)がトイレから戻ってきて、パソコンを弄る頼之に訊いた。


「ん、まぁ……あ──」

「どうした?」

「なんかいつもと違うなと思ったら、眼鏡忘れた」


 と頼之は顔を触って、失敗した……という顔になる。

 頼之はいつも仕事や細かい作業をする時に紺のフレーム眼鏡をするのだが、今日は鞄に入れるのを忘れてしまって手元にない。


「あぁ、ドンマイ」

「……仕方ないか──」


 と頼之はキーボードに手を乗せた。

 カタカタと打ち始めた頼之に、そういえばさ、と慎が話し始める。


「忘年会、今年も出ないのか? お前入社してから一回も出席してないよな──」


 一回目は体調崩したから仕方ないとはいえ……どうなのよ、と慎は頼之を見る。

 頼之は手を止めて、はぁ、と目頭をマッサージする。


「騒がしいのは苦手だって言ったろ……。それに自由参加だ。なら欠席しても問題はない」

「そうだけどさ、一回くらい……」

「出ないぞ──」


 とまたキーボードを打ち始める。

 慎は大袈裟(おおげさ)に溜め息を吐いてから、上に呼ばれても知らねえぞ。と言って自分の座席に戻っていった。


「……苦手なんだよ、あの人が──」


 頼之は慎がいなくなってから呟いた……。

 


 今日の分を終わらせ、頼之はファイルを持ち、上司のもとへ向かった。

 頼之の仕事をしている場所からそう遠くはなく、部屋の一番端の奥にその人はいる。

 いつもなら、ホワイトボードに予定や報告が書いてあるので、それを確認するだけで顔を合わせる必要はない。

 だが、今回はファイルを渡さなければならない。


「……どうも」


 デスクの前に立ち、頼之はいつもよりやや声を低めにして言った。


「ん……? あぁ、君か──」


 とパソコンから顔を上げて、篤実(あつみ)行博(ゆきひろ)が笑顔になる。


「ファイルを届けに来ました」

「あぁ、ありがとう──仕事が早くて助かるよ」


 と受け取り、ファイルの中から紙を出して確認し、またファイルに戻す。


「うん……、完璧だ。何も言うことはない──」


 ファイルを置いて、行博は頼之を見た。

 頼之は少し眉間にシワを寄せつつ、失礼します。と言って行こうとする。


「三田くん」

「……何でしょう?」

「まあまあ、そんな顔しないで──ちょっと話せるかな」


 と行博は席を立った。

 そして頼之を通り過ぎ、先を歩いていく。

 後ろを見ることはない。頼之がちゃんと来るのをわかっているかのように──。



 行博の後をついて行きながら、頼之は苦い顔をしていた。

 頼之は行博が苦手だった。入社して初めて会った日から、それは今も変わらない……。


「ここでいいだろう──」


 と行博は休憩室に入って振り向いた。

 室内には誰もいない。


「君、今年の忘年会は……」

「先約がありますので、欠席させていただきます」

「……そうか、またか──」

「すいません」


 と頼之は軽く頭を下げる。

 去年も一昨年も、先約があると言って出席しなかった。家でテレビを観て過ごしていたのだ。


「……何で出席しないんだ?」

「騒がしいのは苦手なんです。あと、自由参加だと伺(うかが)っているので」

「なるほど──他にもあるんじゃないか? 例えば……」


 と頼之を見て、笑顔で言った。


「苦手な人、あるいは嫌いな奴がいる」

「…………」

「図星だ──」


 くくっと笑い、行博は自分を指差す。


「それは……、私だろ?」

「…………」


 頼之は何も言わず、行博を見ている。

 行博の何気に言い当ててくるところが、頼之は苦手だった。

 初めて会った日も、頼之が両性愛者だということを当てた。

 そして何よりも、本人がそう言ってなくても、行博が言うとそう思えてしまうのが怖い。

 だから頼之は、行博とあまり会話をしたくない。ましてや、二人きりでなど──。


「……はは、当たりか。でも──私が君を話に誘ったのは、この事じゃない」


 とさっきの笑顔が真顔に変わる。


「君はまだ、同性と付き合ったりしてるのかな」

「……篤実さんには、関係ありませんよね」

「ということは、現在進行形ってことかな──?」


 ぐっと頼之は言葉を呑み込む。


「君はめったに出社して来ないからね──話しておこうと思ったことがあるんだ」


 そう言って行博は、頼之を見て微笑んだ。

 その微笑みは、悪い意味で頼之の鼓動を速くさせた……





行博「どうも──(微笑み)」


次回、話──

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