第五章「結晶の魔女、人狼の覚悟」
祈祷の聖王が支配する帝国。その王都は早朝から慌ただしかった。平和なこの国で出動する事はあまりない王都騎士と天の騎士団が共にこれから仕掛ける戦争の地へと行く為に大港へ向かっていた。名のある騎士達を一目見ようと国民達は家や店の窓から顔を覗かせていた。
騎士達の中央には馬に乗る聖王とその横を守るように人狼騎士のロボが歩いていた。王都騎士達を先頭に天の騎士団達がいた。団員を引き連れる騎士団長のウィンドの姿があった。そして騎士達の中には竜人の呪術師オーラムとこれから向かうアンシャント王国の姫にして雷の魔女のミラの姿があった。
「わあ!あれで王国まで行くの?」
港に着いたミラはあるものを見上げて驚かされていた。港の沖には白銀の翼が飾られた巨大な船が停まっていた。
「我が帝国最強の神艦だ。もとは迎撃用だったがウィンドの提案と組み合わせた末戦争にも特化した戦艦になった。」
聖王は下馬するとミラにそう言った。
「船体にはどこからの攻撃も防げるよう全体に盾を付け、祈祷を妨害されないように中央の下層部分は特に頑丈に造っている。あとは弓兵が安全に狙撃できる設計にしてある。現状この船に欠点はない。」
ウィンドがオーラムの隣で説明した。
彼の傍らにはいつも一緒にいる側近の二人がいて彼の説明に「さすが団長」と言わんばかりに頷いていた。オーラムもその船を見上げていた。
(これから乗り込むんだな。ヴァンの所へ!)
「よーし、騎士達よ!乗り込め!」
聖王が騎士達に告げると、騎士達は巨大戦艦の乗船口から次々と乗り込んでいった。
「これからの戦いは闇との魔術との戦いになる。相手はあらゆるものを闇に染め上げてしまう。恐れるなとは言わない。だが我等は奴らに勝たねばならない。友国の平和を取り戻すためにも!我が国の驚異を退くためにも!」
ウィンドは乗船する前に騎士団の全員に号令をかけた。騎士達は「了解!」と声を揃えて応えた。聖王も神艦に乗り込むと、すぐに出発した。聖王の祈祷術により、神艦の後方から巨大な白銀の翼が羽ばたいた。これによってこの神艦は空を飛ぶ事が出来ていた。聖王達が乗る神艦の後方は別の騎士団を乗せた大型飛空船が五隻追従していた。
「そういえば王国まではどのくらいの距離なんだ?」
船の上でオーラムがミラに聞くと、ミラは「うーん…」と少し考えてから答えた。
「お母さんはいつも空間移動で大陸を行き来してたから気にしてなかったけど、船で行くと片道三時間くらいかな。」
「三時間か……意外に遠いんだな」
「まぁね。それにアンシャント王国の外側には強力な結界も張られてる。聖王様でも突破するのは難しいかもしれない…」
「安心せい。結界の事は昔シャルリーナ女王から聞いたことがある。打開策なら考えずみだ。」
聖王が書物と十字架の首飾りを取り出しながら言った。
そこからは各々自分達のポジションを確認したり、作戦を練り合ったりしていた。
「ねえオーラム。」
船上から見える海を見ながらミラがオーラムに話しかけた。オーラムはこれから始まる戦いを前にして精神を研ぎ澄ます為に瞑想をしていて、返事が来なかった。
「ありがとう。」
「……何がだ?」
いきなり礼を言われてオーラムは遅れて返事をした。
「夕べあたしが怖い夢見たから一緒に寝てほしいって言ったでしょ?それを受け入れてくれて嬉しかったの。」
「あー、その事か。」
オーラムは恥ずかしそうに答えるとミラが続けて言った。
「ねえオーラム。ヴァンを倒して王国を救った後、あなたはどうするの?」
「……」
ミラの言葉を聞いてオーラムは黙った。だが一呼吸置いてゆっくりと顔を上げた。
「故郷は焼かれたしな。お前の王国を取り戻した後の事は何も考えていなかった。」
「なら帝国の騎士になるか?」
ウィンドが聞くとオーラムは首を横に振った。
「いや。それも何というか、何かに縛られるのは性に合わないんだよな。」
「合うと思ったのだがな。そう思うだろロボ?」
「ああ。」
ウィンドが言うとロボは頷いた。
「珍しいな。お前が普通に肯定とはな。」
「納得できる話なら普通に肯定する。」
ロボの言葉にオーラムは笑った。
「あんたが俺を肯定するとはな。」
「どういう意味だ?」
「まぁまぁ。これから大事な戦いが控えてるんだから喧嘩は良くないよ!」
「……そうだな」
ミラが止めるとロボは頷いた。
「申し上げます!アンシャント王国が見えてきました!」
「うむ。全員配置に着け!」
聖王の号令を聞いた騎士達は準備した武器を手に持ちながら甲板や弓部隊の場所へ向かった。
「いよいよだね、オーラム。」
「おう!」
オーラムもオリハルコンの剣と呪術の火を握りしめた。
だがアンシャント王国の近くまで来た神艦に闇の魔力による黒い霧が覆いかぶさっていた。騎士達がその霧に触れると体に激痛が走り悶えた。
「どうなってるんだこれは!?」
「霧に触れた途端体が痺れて動かなくなったぞ?」
霧に触れた騎士達は口々にそう言った。
「結界が汚染されてる…お母さんが張ってた頃は純粋な魔力だったのに。」
魔力を感知したミラがその光景を見て悲しそうに呟いた。すると聖王が船の先頭に立った。
「穢れがあるなら浄化するのみ。」
そう言うと聖王は十字架を天にかざして眼を瞑った。すると聖王の体から光が放たれると、前方に巨大な光の柱を作り出した。
「神の光よ。今こそ穢れし闇を打ち払いたまえ!!」
「かぁぁぁぁっ!!」と聖王の凄まじい声が響き渡ると光の柱が形を変え、光線となって一直線に飛び、闇の魔力による結界を消し去った。
「結界に穴が開いた!」
「行けるぞ!」
騎士達は喜んだ。すると神艦はさらに加速しながら高度を下げて王国の中へ向かった。
王国が見えてくると、騎士達は甲板に待機した。そこは王国の市街だった。だが地上には住民の代わりに大勢の重装魔術師や魔法剣士達が待ち構えていた。
「よし。着地と同時に全員突撃しろ!ヴァンの居場所は城だ!」
「了解!」
「では全騎士団!出陣!!」
「天の騎士団よ!仁義と正義の名の元に進めぇ!」
聖王の合図とウィンドの号令と共に天の騎士団と王都騎士団は神艦から次々と飛び降りた。
「私達も行こう!」
「おう!」
「待て。」
ミラとオーラムが空間移動しようとした時、ロボが近づいてきた。
「俺もお前達に同行する。」
「ロボ?聖王の方は良いのか?」
「問題ない。儂には他に近衛騎士がいる。それにロボは強く素早い。きっとそなたらを護ってくれるだろう。」
後ろから聖王が言った。
オーラムはロボの方を見た。
「よし。やってやろうぜ!」
「ああ。」
「決まりね!」
三人はそれぞれの武器を構えた。そしてミラはオーラムの手を握って意識を集中させると一瞬で三人の姿が消えた。
「無事に帰ってくるのだぞ。」
三人が行ったのを見届けた聖王は十字架を胸に当てて祈祷術を唱え始めるのだった。
◇
「よーし!さあかかってこい…ってあれ?」
オーラムは剣と呪術を両方できる構えをとった。ところが、あたりを見回しても敵の姿が見えなかった。
「無謀に敵地に飛び込むわけないでしょ。ここは城の中に繋がる地下水道よ。」
ミラが呆れながらオーラムに言った。よく見回すと下の方は水が流れて全体的にジメっとしているのが分かった。
「ああそういうことか。とりあえずヴァンの城内に繋がってるんだな?」
「厳密にはお母さんのお城だったけどそういう事。さっさと進もう。」
ミラが先頭に歩き出すと二人も後に続いた。
「お前とミラは仲がいいのだな。」
しばらく歩いているとロボがオーラムに話しかけてきた。
「ん?ああ」
「いつからそんな関係になったんだ?」
「いつからって言われてもなぁ」
ロボの質問にオーラムは困った表情で答えた。
「会った時からだよ。」
「は?」
ミラが割り込むように答えるとオーラムは驚いた。
「初めて会ったときからオーラムはあたしに夢中だったもんねえ?」
「お、おい!手を組むって持ちかけてきたのはお前の方だろ?」
「ふふーん♪照れ隠しなのは知ってるよー?」
「だから違うって言ってるだろ!」
否定するオーラムを見てミラは楽しそうに笑っていた。そんな二人を見てロボは何かを想うような顔をしていた。
「俺にも二人のように理解し合える友がいればな…」
「ロボ?」
「いや、なんでもない。」
三人がしばらく進んでいくと、豪華な燭台が壁に付けられている場所へと出た。
「ここが城内か。随分と薄暗いな。」
「ヴァンの趣味だよ。あいつはいつもこんな感じの雰囲気の場所を好むから」
オーラムが辺りを見渡して呟くとミラが答えた。
「お母さんがいた時はもっと明るかったんだけどね……」
ミラの話を聞きながらオーラム達は更に奥へと進んでいった。すると目の前には扉があった。
「ここだな。」
「うん。」
オーラムは扉に手を当てて推し開けようとした。しかしその時、ロボの耳が何かを捉えた。
[newpage]
「伏せろ!」
ロボは咄嗟に叫ぶと同時に二人の体を突き飛ばして回避させた。その直後、三人の背後から幾つもの氷の結晶が飛んできた。もしロボが避けさせていなければ三人ともあの結晶に貫かれていただろう。
「誰だ!?」
オーラムが顔を上げて叫ぶと氷の結晶を放った犯人が扉の前に姿を現した。
「あら?貴方達がお客さんかしら?」
その人物は女性だった。黒髪の女性は青色のドレスを着ており、不気味な笑みを浮かべながら右手に冷気を纏わせていた。
「あなたは……レンディエル!」
ミラは女性の姿を見て言った。レンディエルという名前の女性はミラを見ると眉をひそめて言った。
「あらあら姫様ではありませんか。お久しぶりですね?」
「あなた、お母さんの配下でしょ?何で邪魔をするの?」
ミラの問いかけに対し、レンディエルは笑顔で答えた。
「邪魔だなんてとんでもない。私はただ忠実にヴァン様に従ってるだけですもの。」
「そんな!だってあなた、お母さんの事を強くも優しい方って言って尊敬してたじゃない!」
「ええ。シャルリーナ様は優しかった。優しくて愚かな人だったわ。」
「お母さんが愚かな人だって?」
ミラは怒りで震えた。それを見たレンディエルは笑いながら続ける。
「そうよ。いくら魔術が最強でも、愚かな者では国は治められないのよ?それをあの人は理解できなかった。だから彼女はヴァン様に殺されたの。」
「嘘だよ!お母さんは誰よりも強い魔法使いだった!それに優しさだけじゃなくて未来を見据えて生きる、頭も良い人だった!あなたみたいに自分勝手に生きる人とは違って、強くて優しかったの!」
怒るミラを見てレンディエルはふふふっと笑った。そして見下すような目でミラを見下ろした。
「箱入り育ちだから何も知らないのね。本当に何も迫害せず傷つけない優しい方だったなら、私やヴァン様を見放さなかったでしょ?」
「お母さんが見放した?どういう事?」
ミラが聞くとレンディエルは冷気を纏う腕を上げて巨大な氷柱の槍を作った。
「それはあの世で大好きなお母さんに聞きなさい!」
その言葉と共にレンディエルは氷柱をミラめがけて投げ飛ばした。
「はぁっ!」
咄嗟に前に出たオーラムは呪術の火から同等の大きさの火球を放って消した。すると今度はロボが大剣を構えてレンディエルに向けて斬りかかった。しかし彼女は余裕の表情で避けると同時に足元から氷の壁を生成して斬撃を防いだ。
「ふぅん。やるわねぇ?」
余裕そうなレンディエルを見てオーラムは言った。
「こっちは三人いるんだ。お前一人じゃ敵わないぞ?」
「確かにね。でも……」
するとレンディエルの周囲に突如として無数の氷の柱が出現した。
「これは耐えれるかしら?」
レンディエルは冷たい笑みを浮かべると大量の氷柱を次々と発射して攻撃してきた。
「うわっ!」
「させない!」
突然の奇襲にオーラム達は避けきれずに氷柱を食らいそうになった。だがその時、ミラは無数の電撃で氷柱を砕いた。
「レンディエル!お母さんをバカにした事、絶対に許さないよ!」
ミラはその勢いでレンディエルの頭上に魔法陣を生成した。その瞬間魔法陣から激しい落雷がレンディエルに降り注いだ。まともにくらえば一撃目で死に、二擊目で人体が砕かれる程の威力の雷を何度も浴びればさすがのレンディエルも死んでいる。魔法を放ったミラはそう確信していた。
「幼い頃よりは成長したようね。シャルリーナ様かと思ったわ?」
「い、生きてる?」
あの激しい雷鳴と落雷で発生した煙の中から平然としたレンディエルが出てきた。その姿を見てミラは驚いた。
「嘘……お母さんの雷も防げなかったあなたが……」
「ええ。確かに防げなかったわ。この力を解放しなければ。」
そう言うレンディエルの体からは黒く染まった闇の魔力が出ていた。その魔力によってレンディエルの姿は大きく変わっていた。
「何だありゃ…悪魔か?」
オーラムが言うとレンディエルはクスッと笑った。
「悪魔?違うわ。この力はシャルリーナに見放されたヴァン様が同じく捨てられた私に分け与えてくれた力。押さえられた本質を引き出させてくれる究極の力!」
「うわぁ!」
「伏せろ!」
変貌したレンディエルはミラのように魔法陣を頭上に幾つも生成し、そこから黒く染まった氷の結晶を降らしてきた。ロボとオーラムが剣を振り回して砕くことにより避けたが、周りの壁や床にはめり込んでしまった。すると壁や床から氷の茨が現れて三人を貫こうとした。
「うおっ!」
「くっ!」
三人は辛うじて茨を躱したが茨の動きは止まらず次々と襲ってきた。オーラムが炎で、ミラが再び電撃で茨を焼き切ろうとしたり茨は溶けることなくそのまま突撃してきた。
「え?どうして?」
ミラが困惑していると、レンディエルは見下ろしながら言った。
「無駄よ。この茨は私が作った氷の魔力の塊。そして闇の魔力で全て強化されている。ミラ姫の雷でさえ傷一つつけられないのよ?」
驚くミラに対してレンディエルは嘲笑っていた。茨が死角からミラの足元に伸びてきた。
「きゃっ!」
ミラが短い悲鳴をあげた。茨の棘が服越しにミラの足に食い込んで凍り付いて動きを封じたのだ。
「ミラ!」
オーラムが助けようと火球で氷を溶かそうとした。だが当たる直前に出てきた氷の壁で火球を防がれた。
「くそっ!」
「残念ね?姫は助けさせないわよ?」
「それなら!」
オーラムは素早く火球をレンディエルに向けて投げた。するとレンディエルは片手から放った氷の剣で火球を防ぐと同時にそのままオーラムに向けて投げた。だがオーラムもそれをスライディングで避けると今度は大きな火球を投げた。
「単純な事しか出来ないの?」
これもまたレンディエルに避けられたが、オーラムはニヤリと笑った。
「かかったな!それは囮だ!」
「は?」
「とうっ!」
レンディエルがオーラムの方を向いている隙に背後からロボが跳躍して接近し、大剣を振り上げた。
「ぐっ!」
氷の盾を生み出して咄嗟に大剣を受け止めたが、そのまま大剣ごと地面へ叩きつけられた。その隙にオーラムがレンディエルの背後から斬り上げて攻撃した。レンディエルは「くっ!」と歯を食いしばった。更に大剣が押し込まれ、膝をついた状態で壁に追い込まれた。
「今だオーラム!」
「よおし!」
そこにオーラムが呪術の火を一気に溜めて跳躍し、強力な一撃を放った。
「グハァァっ!」
レンディエルは強烈な熱波と轟音響く爆炎を浴びて、壁の破片と共に後方に吹き飛ばされた。
「ミラ!大丈夫か?」
オーラムはミラの元へ行き、魔力が弱まった茨を呪術の火で溶かした。
「オーラム!」
ミラはオーラムに抱きついた。
「大丈夫?」
「ありがとう。また助けて貰っちゃったね!」
「礼はいい。それより早く先へ行こうぜ。」
オーラムはミラを立たせて走ろうとした。だがその時、三人は後ろから気配を感じた。
「ぐぅぅ…」
「あの野郎、まだ生きてやがったのか?」
壁の奥から出てきたのは肉が裂けて血だらけの足で立ち上がるレンディエル。彼女は逆上の目でミラを睨んでいた。
「貴様らをあの方の……ヴァン様のもとへは行かせない!!」
「うあっ!?」
レンディエルがミラ達に手を向けた瞬間、激痛が三人の全身に走り、強い圧迫感で立ち上がる事ができなくなった。
まるで体に見えない重りを付けられて地面に押さえつけられているような感覚だった。
「重力魔法……闇の魔力で増幅してる!」
「はぁっはぁっ……その通りよ。道連れにするならこれくらい容易いわ。」
レンディエルは瀕死になりながらも余裕の笑みを見せ、もう片方の手に闇の魔力を増幅させていた。
「待ってなさい、今すぐに母親のいる地獄に連れてってあげる!でもその前に、あんたの大事な人から殺して絶望させてたから葬るのも良いわね?」
そう言ってレンディエルは増大させた闇の魔力をオーラムに向けた。
「さあ死になさい!私とヴァン様を邪魔しようとしたクソトカゲがぁ!!」
「オーラムゥ!!」
ミラが叫ぶも、オーラムも同じく身動きが取れなかった。そしてレンディエルは黒い魔力により造られた漆黒の満月をオーラムに向けて放った。
「うおおおおお!!」
「なっ!」
その直後だった。束縛されていたはずのロボが立ち上がり、雄叫びと共にレンディエルに向かって走り出した。だが目の前には迫る漆黒の満月。それでもロボは大剣を振り上げて満月ごとレンディエルを突き刺した。
「グワァァァァ!!!」
その瞬間満月とレンディエルの傷口から闇の魔力が溢れて、瘴気に満ちた爆発が起きた。その衝撃によって二人にかかっていた重力の力が解けて、ミラは結界魔法を張ることができた。
「ロボ!」
瘴気が晴れると、オーラムがロボの元へ近づいた。ロボは大剣を杖にしてなんとか立っており、足元には半ば溶けたレンディエルがいた。そしてオーラムはロボの背中から流れ出る大量の血を見て驚愕した。
「ロボ!?」
「お前達、無事か……?」
「うん。ロボのおかげだよ……」
オーラムが答えるとロボはフッと笑った。そして倒れそうになったロボの体をオーラムは慌てて支えた。
「かなり闇の魔力に侵食されてる……」
「ミラ!お前の魔法で何とかならないのか!?」
オーラムが聞くも、ミラは暗い顔で首を横に振った。
「いいんだ…ここまできてしまったら……取り返しはつかないのは…分かっていたんだ……」
「だったら何でだよ?何であんな行動をとったんだよ?」
「ミラ姫を守るためというのも一つだが…オーラム……」
ロボは血を流す目でオーラムを見つめて話し出した。
「俺は……お前への申し訳ない気持ちがあった。」
「俺に?」
オーラムが聞くとロボは物悲しい顔で話し始めた。
「こんな姿だから……人からも狼からもつまはじきにされた俺を迎え入れてくれた聖王陛下への恩義を……裏切りたくなかった。聖王陛下が異端と呼んだものを俺は排除してきた……故に俺はお前へあんな態度をとってしまった……」
「何で、何でそんなことで……」
「それだけじゃない…お前と洞窟で初めて会った時、見た目と呪術を使っているというだけでお前をヴァンの眷属と決めつけ殺しにかかった…あの時俺も唯一理解してくれた恋人をヴァンの魔物に殺さればかりで理性があまり無かった……」
「お前も、大事な人を殺されたのか?」
「ああ…だが…あの時俺がお前が悪意あるものじゃないと理解し去っていれば……お前も両親を失わずにすんだのではと思うと悔しくて、酷い事したと思ってたまらない……」
ロボが涙を流すと、オーラムは色々な感情が重なった顔でオーラムを見ていた。
「お前の苦しみを……お前の悲しみを知らずに、ヴァンの眷属を退治すると浮かれていた自分が許せなかった…故にこの体を犠牲にして奴を葬った…ガハッ…!」
「もういいロボ、喋るな!」
オーラムが慌てて止めようとしたが、ロボは吐血が収まらなかった。
「行け……情けない死に様をお前達に晒したくない…」
「ロボ!」
「オーラム。」
ミラがオーラムの肩に手を置く。ロボの気持ちを尊重しようという意味だった。
「ロボ……ありがとうな。」
それを察したオーラムは、ロボに感謝の言葉を告げ、彼に背を向けて歩きだした。
「この世界を頼んだぞ…二人とも……」
二人が去ったのを感じた人狼は糸切れたように倒れ込み、その瞳からは光が消えていった。そして目覚めることの無い眠りへとつくのだった。




